-資源が循環し、生産者と飲食店を繋ぐ- コーヒーかすの土から生まれた“にんじんジュース”

feature

毎日美味しいコーヒーを提供し、日々の暮らしの楽しみになっているカフェ。その裏側では大量のコーヒーかすが発生しており、カフェが抱える一つの課題になっています。

このコーヒーかすを堆肥の資源として活用し、栽培した農作物や加工品をお店の店頭やECで販売する。資源が循環することで飲食店と生産者、都市と地方が繋がり、お互いに支え合うより良い関係性になれるのではないか?

そうした考えから生まれたのが、コーヒーかすの土から生まれた“にんじんジュース”です。今回は、このジュースの生まれた背景やソーシャルグッドな特徴、商品の詳細などをご紹介します。

  • Photo:

    Daisuke Suzuki

  • Text:

    Daisuke Suzuki

①開発までのストーリー

サトウキビストローの販売と循環への想い

4Natureは全国の飲食店やホテル、結婚式場などにサトウキビストローの販売をさせていただいております。4Natureのサトウキビストローは、サトウキビを精糖した際に出る残渣(=バガス)をアップサイクルした商品で、コンポストに投入しても分解できる生分解性の性質を持っています。また、従来のプラスチックストローと遜色ない口当たりと耐久性があることから、特にドリンクの味にこだわりを持たれている飲食店様から引き合いをいただいております。

近年はサーキュラーエコノミーが注目されていますが、本来自然界では捨てられている物はなく、“ゴミ”という概念は人間が生み出したものです。地球温暖化や廃棄物問題などを背景に、経済と自然が共生した社会へ向かっていくことはある意味必然のように感じます。とはいえ、現代に溢れている多くの製品やサービス、インフラは循環することを前提に作られてはいないため、直ぐに移行できるものではありません。

4Natureとしても、物や場、サービスを通して消費者やユーザーがより豊かな生活を送ることができるよう、循環の取り組みを少しずつ広げていきたいと考えております。また、循環することをきっかけに飲食店と農家、都市と地方などの多様なプレイヤーが繋がり、互いに分かり合い、支え合う関係性を築けたら、より心豊かな社会に近づけるのではないでしょうか。

日常的なコーヒーかすの発生と乾燥機による減量化

サトウキビストローをご利用いただいている飲食店様も環境問題や地域の課題などに対するご関心が強く、サトウキビストローを回収・再利用したいというお声を良くいただきます。特にカフェでは日常的にコーヒーが提供される裏側で多くのコーヒーかすが発生しており、どうにか一緒に循環することができないかというお声が今回の実証実験のきっかけです。

まずはコーヒーかすを回収する必要がありますが、回収に掛かるコストや環境負荷を考慮すると、ある程度コーヒーかすが蓄積してから定期的に回収するのが好ましいです。カフェで発生しているコーヒーかすには水分が多く含まれているため、カビが生えやすく、長期間店舗で保管をするのは衛生的に好ましくありません。そこでメーカーが試験的に開発したコーヒーかす専用の小型乾燥機を店舗内に設置・稼働させてみたところ、水分量が少なくなったので一時的に店舗で保管できるようになり、重量も減少したため回収・配送時における二酸化炭素の排出量の削減にも寄与することとなりました。

こうして乾燥させたコーヒーかすを店舗で保管し、ある程度溜まった段階で4Natureが保有している千葉県の堆肥舎に配送しました。

地域の資源を活かした堆肥の製造

店舗で回収したコーヒーかすを4Natureが千葉県で保有している堆肥舎に配送し、地域の資源を活かした堆肥作りを行いました。近隣の農家にもご協力いただき、もみ殻や米ぬか、落ち葉、鶏糞、赤土などの資材を活用しています。

上記の資材を適切な割合で混ぜ合わせた後は、土中に空気を取り入れるために毎日切り返しをし、水分量の調整と土中の温度計測をすることで定期的に状態を確認しました。開始から1週間後には土中の温度が60-70度まで上昇し、発酵がしっかりと進んでいました。土をかき分け、中から湯気が立ち上って来たときは凄く興奮したことを覚えています。

その後は徐々に切り返しと水分調整の頻度を減らしつつ、3-4ヶ月かけて堆肥を製造していきました。最終的には落ち葉などが細かくなった綺麗な土の状態となり、これを同じく千葉県の有機農家である“結び合い農園”さんに活用いただきました。

結び合い農園による人参の栽培と人参ジュースの製造

完成した堆肥は千葉県佐倉市の有機農家である結び合い農園さんに活用していただきました。結び合い農園さんは少量多品目で季節の野菜を農薬不使用で栽培されています。また、できる限り地元で入手可能な資源を利用した土づくりをされており、最近では農業を通した温室効果ガスの削減など環境面への取り組みも積極的に行われている農家です。

堆肥を7月頃に畑に散布し馴染ませた後、8月に人参の種を撒いていきました。約1週間後には発芽し、10月頃には立派な人参へと成長。こうして栽培した人参を結び合い農園さんが普段からお取引されているジュースの製造工場にご依頼していただき、にんじんジュースが完成しました。

約1年間の時間をかけて、コーヒーかすから堆肥へ、そして人参からジュースへと移り変わっていく。顔の見える関係性の中で飲食店と農家と一緒に作ったにんじんジュースは、より一層愛着のある商品となりました。

②ソーシャルグッドポイント

店舗の生ごみの廃棄量の削減

農林水産省のサイトに掲載された資料によると、1つの店舗から出る1日分のごみのうち、コーヒーかすが占める割合は40%を超えます。日本には個人経営・法人経営の喫茶店が合わせて69,977件(平成26年総務省:経済センサス参照)があるため、国内でも相当量のコーヒーかすが日々廃棄物として処理されていることになります。

また、店舗で廃棄されているコーヒーかすは通常水分を多く含んでいるため、その分重量も大きくなり、廃棄物処理業者が運送する際の二酸化炭素排出量にもその重さが反映されてしまいます。

コーヒーかすの再利用については、地方自治体や大学など、いくつかの組織で研究されて きました。そして大手のコーヒー会社やカフェチェーンでは、コーヒーかすを堆肥や飼料の 材料として活用する取り組みがすでに始まっています。大きい組織ほど一度に廃棄される 量も多く、ゆえに輸送コストなどの単価も下がり、再利用の取り組みがしやすいわけで す。しかし逆に店舗数が少ない業態や個人経営の店では、コーヒーかすの収集が最大のネックになり、再利用をすすめにくいのが現状です。

今回の取り組みは実証実験ではありますが、今後サトウキビストローやコーヒーかすをはじめ、その他の有機物も一緒に回収・再利用していくことで、費用対効果の合う形で小規模のお店でも循環の取り組みができる可能性があります。

有機物を使用した堆肥の活用

作物を栽培する上では土中の栄養成分をしっかりと確保できるよう肥料を使用するのが一般的です。国内の多くの生産者では化学肥料を使用しておりますが、日本ではその原料である尿素・リン酸アンモニウム・塩化カリウムの多くを海外輸入に頼っているため、国際情勢の影響を受けやすい状況にあり、昨今も肥料価格の高騰が課題となっています。

そのため有機物を使用した堆肥を取り入れることが一つの解決策としてあります。落ち葉や米ぬか、籾殻など主に地域の資源を活用するため、上記のような海外情勢による影響を受けにくく、移動距離も短くなるため環境負荷も小さくなります。

生産者と飲食店の共助の関係性

これまで地方は生産、都市は消費と役割が明確になっていましたが、社会全体が不安定になりつつある現在、役割を超えて支え合う関係性がより一層求められていきます。

店舗の店頭やECで販売したり、メニューの材料に取り入れるなど、商品の出口を予め設計することで、生産者は作物の栽培に注力することができます。また、これまで廃棄していた資源を活用し、より付加価値のある商品を販売することは飲食店にとってもメリットがあります。

都市部で発生した廃棄物を資源に換え、循環の流れの中で生産者と飲食店が繋がり、互いに与える・与えられる。こうして偏ったリスクをシェアすることで、いざと言う時にも対応できるしなやかな強さを持つ社会へ近づけるのではないでしょうか。

③商品紹介

結び合い農園さんで農薬不使用で栽培された人参をたっぷり使った「にんじんミックスジュース」。りんごやレモンなどの果実が少し含まれているので優しい味わいで、地域の子供から大人まで幅広い世代に人気の商品です。

今回は、循環の取り組みの中で生産者と飲食店と共に作ったジュースとなります。堆肥の原料としてコーヒーかすを使用しておりますが、特に商品への影響はなく、本来の美味しい味をお楽しみいただけます。

ぜひお店から畑、そして畑から食卓までの循環の流れを想像しながらお召し上がりください。

ご注文はこちらから

結び合い農園

住所:

千葉県佐倉市小竹