あの人の根っこ|『みろく農場』室住圭一さん

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葉っぱ、茎、花を支える根っこは土の中。
普段目には見えない、あの人を支える強い根っこ。
「今の活動、創作、仕事をするきっかけは?」
「好きなことを続ける原動力はなんだろう?」
なんだか気になるあの人の“根っこ”=“ルーツ”を掘ってみよう!

今回は、国際協力に興味をもったことをきっかけに農業の世界に足を踏み入れた『みろく農場』室住さんのもとを訪れました

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    Chieko Kamitonda

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    Chieko Kamitonda

プロフィール
みろく農場 | 室住 圭一
東京都出身。国際協力に興味をもったことをきっかけに農業の世界に足を踏み入れる。1998年に千葉県東金市にて農業を始め、育てる野菜やお米は栽培期間中に化学肥料や農薬を使わないこだわりのもの。趣味はギターを弾くことや木彫りの置物をつくること。

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千葉県東金市——北には山、南には平野、そして九十九里浜にもほど近いこの地で、室住さんは全く異なる世界から農業の道に進みました。室住さんの農業への旅路は、音楽への情熱から始まり、今では地域に根ざした農業の担い手として多くの人々に食材と幸せを届けています。

音楽から農業へ 転機となった国際協力の夢

「音楽に全力を注いできましたが、中々思うようにはならず、自分の進むべき道が見えなくなっていました。そんな時、ふと見たテレビ番組がきっかけで、人生の転機を迎えました。その番組では、国際協力に携わる人たちを特集していたんです。それを見た瞬間、『これだ!』と直感しました。直ぐにでも海外に行って何か活動したいという思いが強まりましたが、国際協力をするには何かしらのスキルが必要なため、まずはスキルを身につけることから始めました」

どのようなスキルが役に立つのか、国際協力についての様々な本を読む中で、有機農業であれば役に立てると感じたのだそう。

「有機農業は、化学肥料や農薬を使わず、自然と共生しながら作物を育てる方法です。地域の資源を活かし、持続可能な形での農業を実現する。この考え方は、発展途上国でも応用可能だと思いました。」

特に発展途上国など資金が限られている土地は、化学肥料や農薬などの外的資源に頼ることが難しい。有機農業はその地域の資源を活かした農業ができることが魅力でした。室住さんは技術を学ぶため、知人を頼りに島根県の農家で研修を受けます。

島根での研修 学びの土壌を築く

「まったくの初心者でしたが、その農家では全国から様々な背景を持つ人たちが集まっていて、多くの刺激を受けました。」

島根での1年半に及ぶ研修は、室住さんにとって人生の転換点となります。そこで出会った大学講師との交流をきっかけに、次なる挑戦へと向かうことに。彼の次の目的地は、東南アジア、タイの山岳地帯に暮らすラフ族の村でした。

「30万円ほど貯金してタイに向かいました。当時は、期待に胸を膨らませていましたが、実際には1年半ほどの農業経験ではスキル不足で全く役に立たないことに気がついたんです。そこで、ボランティアとして現地の人々と暮らしながら、研修のような形で携わることにしました。」


タイ北部の山岳地帯に住むラフ族の村に暮らし始めた室住さん。文化も言葉も違う中で、どのようにコミュニケーションをとり、農業を学んでいったのでしょうか。

「ラフ族には、日本で2年ほど農業研修をしていた人がいたんです。その人を通して、現地の人々とコミュニケーションをとっていました。
気候も地形も異なる山岳地帯では、日本と全く違う農法が行われています。焼畑農業という農法で、乾季になると森の畑を焼いて耕し、野菜を栽培するんです。畑を焼くというと驚かれるかもしれませんが、この方法は生物多様性を育むという意外なメリットもあります。」

日本に帰国後、ラフ族と繋がっていたいとの想いから「日ラフ友好協会」を設立しました。

「現地に行くスタディツアーを企画したり、会報を発行したりして、楽しく活動していました。当時は、100人くらいの会員がいましたね。お金には全然ならなかったけど純粋に楽しかったです(笑)」

そんな中、タイで知り合った日本人の農家さんを通じて東金で農業を始めることになります。

「最初は田植えの時期だけ手伝っていたのが、人手が足りないと稲刈りの時期なども手伝うようになりました。その内に自分でも田んぼを1反借りることになり、それが2年目には3反に‥と徐々に拡大していきました。田んぼだけだと、他のシーズンには収入が無くなってしまいますから、他の畑でも働きながら、次第に自分でも畑をやるようになり、それが段々と自分の畑や田んぼへの比率が増えていって今の形になりました。」

農業を通じて広がる幸せの輪

様々な経験を経て、今では東金での農業に根を下ろした室住さん。モットーは「農業を通じて、皆様の幸せをお手伝いしたい」というものです。

「美味しい食材を提供するのはもちろんですが、人々の幸せはそれだけで成り立つものではありません。家庭の円満さや安定した生活も必要です。農業は、そういった幸せを支える役割を果たしていると感じています。だからこそ、僕が作る食材がその一助になれば、と思うんです。
有機農業をやっている人は、皆どこかで同じような想いを抱いているのではないでしょうか。特に農業を初めた当時は、有機農業をやっている人は少数派でしたし、肥料を使えば簡単に発芽する作物も、有機農業だと発芽率が低くなることがありますから、それなりの信念がなければ続けられません。」

室住ご夫妻



すくすくと育つ野菜たち

農業の道を進むことは決して楽なことではありませんが、その先にある喜びを知っているからこそ続けられるのだと室住さんは語ります。

「もちろん、辞めたくなる瞬間もありますよ(笑)。でも、自分が育てた野菜を食べてくれた人から『美味しかった』と言われると、すごく嬉しいです。その一言が、やってて良かったと感じる瞬間ですね。」

趣味の木彫りで作ったという置物

根っこにあるのは自分が楽しいと思えることをまずはやってみようという好奇心と行動力。その行動力に導かれ別の夢を叶えるために始めた農業が、いつのまにか自分の人生の軸となり、関わる人たちと少しずつ幸せの輪を広げています。