あの人の根っこ|手づくり調味料研究家・オザワエイコさん

feature

葉っぱ、茎、花を支える根っこは土の中。
普段目には見えない、あの人を支える強い根っこ。
「今の活動、創作、仕事をするきっかけは?」
「好きなことを続ける原動力はなんだろう?」
なんだか気になるあの人の“根っこ”=“ルーツ”を掘ってみよう!
今回は手づくり調味料研究家・オザワエイコさんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

Photo Seiko Kusu

プロフィール
手づくり調味料研究家|オザワエイコさん
自家製調味料の仕込み教室『かもしラボ』を主宰しながら、編集者としても活動。旬の食材を使った自家製調味料や保存食などのレシピを伝えるほか、発酵調味料や漬物などの発酵食品を仕込むことが得意。味噌やしょうゆをつくるための大豆や小麦をはじめ、四季折々の野菜を畑で育てている。ライフワークは畑仕事と自然観察。マイブームは、蛾(ガ)と変形菌。

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著書:『だからつくる 調味料』(ブロンズ新社)、『無印良品「発酵ぬかどこ」徹底活用術』(新星出版社)、『おいしいから作りたくなる まいにち発酵ごはん』(ナツメ社・共著)など



毎日の食卓に欠かせない味噌やしょうゆといった定番の調味料。当たり前のようにスーパーなどで購入している調味料を、自分でつくることはできないだろうか?そんな好奇心で行き着いたのが、オザワエイコさんが書かれた『だからつくる 調味料』という1冊の本でした。

『だからつくる 調味料』では、日々スーパーなどで購入している味噌やしょうゆ、ゆずこしょうやオイスターソースなどなど。101種類もの調味料のつくり方がまとまっています。何より、オザワさんの自家製調味料への想いが伝わってくる「はじまり」の言葉が魅力的なのです!

今回は、編集者として活動しながら、自家製調味料の仕込み教室『かもしラボ』を主宰されているオザワエイコさんの元を訪れました。2月の『かもしラボ』は、「しょうゆ仕込み講座」が行われており、生徒さんと一緒にしょうゆ用のしょうゆ麹を仕込んできました。
オザワさんがなぜ『かもしラボ』を始めたのか?、手づくり調味料研究家として活動を始めた“根っこ”=“ルーツ”に迫ります。



やらないで後悔するよりは、思ったらすぐやってみる。ダメなら次、という感じで生きてきました。編集者になってみると、それまでにしたことは全て無駄になっていない。自分の中に引き出しとして増えている、そういう感じがします

リピーターさんも多く、アットホームでにこやかな雰囲気の『かもしラボ』

「20代の頃は、すごく自分探しをしていましたね」
オザワさんに手づくり調味料研究家として活動される前のことをお聞きしたところ、返ってきたのは“自分探し”という言葉でした。

学生時代は「手に職だ!」と思い、歯科衛生士の専門学校に通っていたオザワさん。国家資格をとった後は、何年か歯科医院で働くも「なんか、違うな」と転職。間取り図などを見るのが好きで不動産屋へ転職したり、ブリティッシュロックが好きなのでイギリス・ロンドンへ行ったり。その行動力に驚きます!
色々な仕事に就くも「なんか、違うな」と思っていたオザワさんは、ついに天職に出会います。それが“編集”の仕事でした。

大豆を煮る鍋の音が響く教室。



写真は完成した「しょうゆ麹」。炒った小麦と蒸した大豆に、麹菌をつけて「しょうゆ麹」を仕込みます

「本がずっと好きだったんですよ。読むのも好きで、本をつくる仕事はどうだろうかと思って、社会人女性向けの編集者になるための学校に通ったんです。それで、これはいいなと思って!その後、編集プロダクションで本をつくるようになりました。25か、26歳ぐらいの時ですね。
女性誌や文庫、書籍もやり、徐々に実用書をつくるようになりました。私にとって、これが天職なんだと思います。今でも編集の仕事を続けていますからね」

編集プロダクションに勤めた後は、同僚の方と一緒に編集事務所を設立。いろいろな出版社から1冊単位で仕事を受け、今でも本をつくられています。これまでに手がけた本は、その数、およそ150冊ほど!

「私はわりと行動力があって。やらないで後悔するよりは、思ったらすぐやってみる。ダメなら次、という感じで生きてきました。20代、30代の頃はなんでもやってきたし、それが今になると糧になっているんですよね。
編集者になってみると、それまでにしてきたことは全て無駄になっていない。いろいろな人に会って話を聞くと、それも財産になるし、自分は何が好きなのかもだんだんわかってくる。自分の中に引き出しとして増えている、そういう感じがします」



夜中に梅のヘタを取ったり、味噌の大豆を潰したりしていると逆に気持ちが落ち着くんです。私にとって季節仕事は、やらなくていいのにやってしまう、疲れていてもやってしまうことなんです

キッチンの一角に並ぶのは、たくさんの果実酒たち。旬のフルーツを長く楽しむ季節仕事のひとつ(オザワエイコさん提供)

編集の仕事を続けていたオザワさんが、『かもしラボ』を始めるようになったきっかけは2011年の東日本大震災でした。

雑誌や本を買う人も減り、電子書籍も増えてきた頃。出版社は、なくなりはしないけれど、膨らんでいく成長産業ではないのかもしれない、そんな風に感じていた時に東日本大震災が起こります。
1冊単位の実用書の仕事がメインだったオザワさんは、一度仕事が止まってしまいます。その時に、編集のように裏方の仕事ではなく、自分でできる本以外の仕事をしてみたいと思うように。時間もあったこのタイミングで、ビジネススクールに通い始めます。

「そこで、『やらなくていいのにやってしまう、疲れていてもやってしまうことを仕事にすると苦にならないよ』とアドバイスをもらったんです。味噌は実家を出て生活しはじめた時ぐらいから、自分でつくっていて。自分でつくると美味しいな、と思っていました。
元々、季節仕事が大好きなんです。疲れてクタクタでも、夜中に梅のヘタを取ったり、味噌の大豆を潰していると逆に気持ちが落ち着くんです。それがまた何か月後に食べられるみたいなのが大好き。ちょうど友人から「味噌づくりを教えて」と言われたりすることが多くなっていたこともあり、これを仕事にしたらどうだろう、と思ったんです」

講座後は各自仕込んだ「しょうゆ麹」を家に持ち帰り、約48時間の温度管理をしながらお世話します

「料理教室に行っても、そこで習ったものを家で年に何回つくるだろう?と思ったんです。しょうゆだったら毎日使うし、味噌やソース・ケチャップとかだったら使う頻度も高い。手づくりの調味料を使うと、手の込んだ料理じゃなくてもなんかほっとするというか、ちゃんと美味しい。例えば、魚のお刺身は買ってくるだけだけど、しょうゆが手づくりならもうそれで十分。何より、自分で手づくりする時間は心が豊かになります。
調味料だけ教えている人って、その頃はほとんどいなかったんです。じゃあ、もう料理じゃなくて調味料だけをつくる料理教室をやろうと思いました」

2年熟成させたしょうゆを味見。搾りたての生しょうゆは、味わったことのない豊かな香りと旨みにびっくりします!



しょうゆを搾った後の“搾り粕”も味わえるのが、手づくりの醍醐味!餃子の具など、料理の隠し味に使っても美味しい

「自分でつくると途中経過が味わえるから、楽しいですよ。先月はこうだったのに、今月はこうなったとか。どの辺で終わりにするかというのを見極めるのにも、味見した方がいいですね。発酵食品はどんどん変わっていきますから」

熟成するのを待つ時間を楽しむ、愛おしく思えるのも、心のゆとりがあるからこそ。旬の食材を使うことの多い手づくり調味料は、四季の移ろいも感じられる良い機会です。
また、調味料を手づくりするということは、自然に材料も自分で選ぶことになります。材料は畑からくるものが多く、どこでどうやって、誰が育てたものかを意識するようになります。

『かもしラボ』では、国産、非遺伝子組み換えの安心できる材料をできるだけ使用しています。知り合いの農家さんから仕入れることも多く、新鮮な材料を提供してもらえるのは、編集の仕事でのご縁がきっかけのことも!編集者でもあるオザワさんだからこその繋がりと知識が、『かもしラボ』にも活かされています。



畑をやっていると、自然の凄さや美しさに感動することもあれば、不条理で失望することもある。趣味だけど、学びがすごく多い。畑仕事はもうライフワークですね

畑で収穫したジャガイモ。どれもゴロゴロと美味しそう(オザワエイコさん提供)

オザワさんのSNSでは、手づくり調味料に関することだけではなく“畑仕事”の様子もアップされています。『かもしラボ』を始めたのは、2015年。畑仕事は、手づくり調味料研究家として活動する前から始めています。

今では家の近くの市民農園の他に、友人と一緒に埼玉で100坪ほどの畑を借りているそう。大豆や小麦、ゴマやジャガイモにトマトやナスなどなど。いろいろ育てながら、味噌を仕込んだり、ヘチマでたわしをつくったり、さつまいもで干し芋をつくったり。みんなで育て、つくることを楽しんでいらっしゃいます。

「畑ってうまくいかないことがすごく多くって、不条理なんですよ。頑張ればかならず成功する訳でもありません。蒔かなければ芽もでない。枯れたり収穫できなかったときは、何がダメだったのか試行錯誤する必要がある。
人間の都合だけではなくて、自然にも左右されますよね。天気や温度の変化にどうやって対応すればうまくいくのか、たくさん考えます。趣味だけど、すごく学びが多いんです。畑仕事も気づいたら16年目。畑はもうライフワークですね。生涯続けると思います」

スーパーでは見かけない、売っていない野菜を育てて味わうのも楽しみの一つ(オザワエイコさん提供)

自分で育てることで、食べることのありがたみや育てる大変さを実感します。だから、オザワさんはたくさんの人に畑をやってみてほしいと仰います。買ってくるのではなく、自分で育ててみる。

「自分で育てることが難しいのであれば、農家さんと仲良くなってみるのも良い。農家さんから直接買うことは、農家さんを支えることにも繋がりますし、顔の見える人から買うことも学びが多いです。
でも畑をやることの一番の楽しみは、収穫して食べることですね!食いしん坊なので、食べることが好きなんです。人生で食べられる数が限られているとしたら、どうでもいいものでお腹を満たしたくない。自分が食べたいものを好きな味で食べたいんです」

「十六ササゲの乳酸発酵漬け」酸っぱいインゲンみたいなかんじで、豚肉と炒めるとおいしいそう!塩水で乳酸発酵させると、野菜をより長く楽しめます(オザワエイコさん提供)

最後にオザワさんへマイブームをお聞きすると、「自然観察が好きで、マイブームは蛾(ガ)と変形菌(へんけいきん)です」と、なんともマニアックなマイブームの返答!どんなところが好きなのか、ついつい興味が湧いてしまいます。

「写真を撮るのが好きなので、最初は畑に必ずいる蝶やカマキリ、バッタとかを撮っていました。そういう、みんながあんまり嫌悪感を持たない虫から撮るようになったのですが、少しへそ曲がりなところがあって。みんなが好きじゃないものの方が好きだし、惹かれるんです。
蛾への興味は、仕事で蛾の本をつくる企画がきっかけですね。蛾って夜に飛ぶものが多いから、目が大きくて正面から見るとすごく可愛いんですよ。ふさふさしてて!畑にいる虫のなかでは『クロメンガタスズメ』という蛾が好きですね。幼虫は畑のナスやトマトの葉を食べる害虫なんですが、成虫は背中にドクロマークがあるカッコイイ蛾なんです!」

変形菌「ルリホコリ」の仲間(オザワエイコさん提供)



変形菌「シロジクキモジホコリ」(オザワエイコさん提供)

もう一つ写真とともに見せてくれたのは、まるでカラフルなキノコのような“変形菌(へんけいきん)”です。変形菌とは、粘菌とも呼ばれる単細胞の生物。倒木や落ち葉などにいることが多く、ギリギリ目で見えるサイズです。ルーペや顕微鏡・写真で見てみると、その不思議で個性的な色や形に気がつきます。
オザワさんの生き物への興味関心は、子どもの頃から。幼い頃から、種を蒔いて育ててみたり、ハムスターやインコを飼ったり。インコは卵から孵して、手乗りインコに育てることもしていたそうです。


「思い返せば、いつも何かを育てている子どもでした。今でも、畑で見つけた蛾の幼虫を持ち帰って飼育して、蛹にして羽化させたりしています。畑仕事中に幼虫を見つけると『あそこにイモムシがいるよ!』ってみんなが私に教えてくれるようになりました!
変形菌も、実は身近な公園にもひっそりと生息しています。落ち葉をひっくり返したり、しゃがんで倒木をじっくり観察したりしていると、あっという間に時間が過ぎますね」

虫や変形菌も、季節ごとに出会える種類が異なります。それは、保存食や手づくり調味料も同じこと。四季や旬を逃すと、次に出会えるのは1年後です。季節ごとの自然や生き物、食べ物をめいっぱい楽しむこと、感じることが、オザワさんを最もワクワクさせることなのかもしれません。

手づくり調味料のある生活、はじめてみませんか?

『かもしラボ』では、旬の食材で定番調味料をつくったり、発酵調味料を仕込む講座などがあります。さらに、つくった調味料を使って料理に展開する方法を学びます。
最近は麹でつくる発酵調味料の本を出されたオザワさん。今後は、みそやしょうゆなどの発酵調味料のほかに、麹調味料づくりと活用術を講座に取り入れていくそうです!

麹でつくる調味料は、まるで「だし」のように万能で料理を簡単に美味しくしてくれます。興味のある方はぜひ、調味料を醸しながら、人と人の豊かな関係を醸す『かもしラボ』のHPをチェックしてくださいね!


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