自然のいろは|正藍冷染「藍の種採り」

feature

季節や植物によって“ゆらぎ”のある「色」、経年変化していく“移ろい”のある「色」
そんな「自然の色」を使ったモノづくりには、
草木から色を作り出す一手間、何度も重ねて染色する一手間。
決して楽ではない工程を、あえて選択するのはなぜでしょうか?
そんな“ままならない”、「自然の色」に心惹かれている方々へ話しをお聞きしていきます。
今回は、日本最古の染色技術といわれる『正藍冷染』をされている
4代目・千葉正一さんの元へ伺い、「藍の種採り」の様子を見せていただきました。

  • Photo:

    Mana Hasegawa

  • Text:

    Mana Hasegawa

「冷えたでしょう。こたつにどうぞ」その言葉に甘えて、こたつの中へするり。中には、千葉さんの愛猫・ナナちゃんが丸まっていました。こたつに入るの、いつぶりだろうなぁ。
暖かい飲み物に、お菓子を用意して迎えてくれた千葉さん。前回お会いしたのはまだ残暑厳しい9月でしたが、あっという間に寒さを感じる晩秋へと季節は移り変わっていました。

「今年は暖かいから、なかなか種が出来なくてね。10月末頃から種が採れる年もあったのに、今年は11月末になってやっと採れるようになりました」そう言って、藍の畑へ案内してくれました。

藍の畑へ向かう、晩秋の千葉さんの後ろ姿。



「植物は、いっせいに種が採れるようにはならないのです。種になったものを随時、採っていきます。一回に採れる量は限られています。2、3日おきに畑に行って、来年必要な種が採れるまで、種採りを繰り返します」

種採り用に畑に残された藍。9月に訪れた際は青々と瑞々しかった藍は、すっかり姿を変えていました。

山と青空を背に、種採りを始める千葉さん。足元にあるのが、種をつけた藍。



まだ若さの残る藍の穂先。この状態はまだ採らないでおく。



枯れた藍の葉は、青みがかってうっすらと藍色を感じます。茎は赤みを帯び、その穂先に細かいつぶつぶが!そしてこのつぶつぶの1つひとつの殻の中に、藍の種が入っています。

「藍の種は、穂先、種の部分がしっかりと枯れているものだけを採ります。まだ若さを感じる穂先の藍は、採るのにはまだ早いのです」なるほど。よーく見るとまだ瑞々しさを感じる穂先と、カラカラに乾いた穂先で色が違います。種採りの作業を手伝わせてもらいますが、なかなか見極めに時間がかかる。隣ですいすいとバケツに種を入れていく千葉さん。さすがです!

「いっせいに採れたら楽でしょうけれど、そうはいかないものです」藍に合わせて、種を採る。



小さな殻の中から現れる、なんとも小さな藍の種!



藍の種はとても小さい。米粒よりもゴマよりも小さい種が、穂先の殻の中に入っています。「毎年こうやって種を採って、繋いでいるんです。採った種を乾燥させたら、揉んで殻から種を出す。その後に風を吹いて、ゴミを飛ばすのです」

手間と時間をかけた小さな種は、また来年の3月〜4月頃に種蒔きし、再来年の藍染に使われます。

一回に採れる種はバケツ1杯ほど。来年用にバケツ20杯ほどの種が必要になる



しっかりと乾燥させ、手で揉むようにして殻から種を出していく



「藍は1年草だから、次の種蒔きの時期を逃したらもう芽がでない。藍はお家のプランターなどでも育てられますよ。よかったら少し持って帰って、試してみてください」

そういって、千葉さんから藍の種をいただいた。代々千葉家で種を繋いできた藍。私も来年種を蒔いて、種を繋いでみたい。まずは、藍用のプランターを用意しなくては!

立派な大根は、煮て食べたらその柔らかさにびっくり!葉っぱも美味しくいただきました



千葉さんのことが大好きで、後を追いかけ続ける猫・ナナちゃん。とても人懐っこい。



「良かったら、お土産にどうぞ」そういって、藍の隣の畑で育てている大根を引き抜く千葉さん。大きくて白く、綺麗な大根を2本も軽々と抜き、さっと水場で洗い、米袋に包んで渡してくれました。千葉さんのお家に向かう道中も、家の庭、畑の至る所で育つ大根や白菜。

お米に野菜、自分たちが食べる分を自分で育てる。この辺りの方たちは、生活の一部に畑があります。そこに都会では感じない、人が昔からしてきた生活の豊かさを感じました。



プロフィール
正藍冷染(しょうあいひやぞめ)|4代目・千葉正一さん
宮城県栗原市の千葉家に代々伝わる『正藍冷染(しょうあいひやぞめ)』。その特徴は、自然の温度で発酵させること。藍の栽培から自然発酵、染めまでを一貫して行う『正藍冷染』は、日本最古の染色技術とされています。
昭和30年には、『正藍冷染』が貴重な技術であることが認められ、初代・千葉あやのさんが国の重要無形文化財技術保持者(人間国宝)に指定されました。その後も2代目・千葉よしのさん、3代目・千葉まつ江さん、そして4代目・千葉正一さんへと受け継がれています。他の地域では絶えてしまった技術を守り、後世にも残すべく千葉家が継承し、今に至ります。