生ごみがつむぐ資源の循環

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家庭から出る生ごみーー
その多くは可燃ごみとして処分されています。一方で生ごみをごみとしない方法も広がりを見せています。
いつもはごみに出してしまう生ごみも、また土に還すことができ、そこから野菜などの作物の生長にも役立ちます。
今回はコンポストという方法をご紹介し自由が丘のコミュニティにフォーカスをして、農家との連携による資源循環の可能性を模索します。

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    Yuri Utsunomiya

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    Yuri Utsunomiya

生ごみの処分の現状

令和2年度、日本のごみの総排出量は4,167万 トン(東京ドーム約112杯分の体積)にも及び、1人1日当たりのごみ排出量は901グラムと発表されました※1
一般的に、ごみに占める生ごみの割合は20〜30%と言われているので、一人当たり300グラム程度の生ごみを1日に排出していると言えます。

※1:環境省より参考
https://www.env.go.jp/press/110813.html

日本では、多くのごみを焼却処分をしています。生ごみは80〜90%が水分であるため、焼却には膨大なエネルギーやコストを必要とすることが近年問題視されています。また、それらの処理費用を負担しているのは自治体であり、財源は税金で賄われていることから、その処理コストを削減するために生ごみを減らすという動きが広がっています。

特に家庭では、新型コロナウイルスによる在宅時間の増加で料理の回数も増え、生ごみの発生量も増えたというデータもあります。BRITA Japanによると、全国の20〜60代の男女計1,000人にアンケートをした結果、コロナ禍で半数近くの人が家庭ごみが増えたと回答しました。その平均量はコロナ禍前の1.3倍※2となっています。

※2:BRITA Japan株式会社より参考
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000057138.html

家庭から出る生ごみ

コンポストの広がり

そんななか、家庭での生ごみを減らす方法の一つとして注目されたのがコンポストです。環境意識のための小さなアクションとして、菜園をするライフスタイルとして生ごみの削減につながりながら、肥料としての活用も可能である点が、特に都市部での生活者を中心に広がりました。

コンポストにはいくつかの製品が発売されています。段ボール式のものからトートバッグ式のもの、木枠式のものから機械式のものまで多種多様な選択肢が存在しています。

中でも都内でよく目にするのがLFCコンポストです。2020年の発売開始から2年間で約1.3万世帯で使用※3されています。都市部を想定しベランダなどの狭いスペースでも使え、虫や匂いの発生を抑えるジップがついていて、都市部でのコンポストに向いています。都市部にコミュニティが点在するCSA LOOPでも、推奨させていただいています。

※3:ボーダレスジャパン株式会社より参考
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000282.000021621.html

LFCコンポスト(ローカルフードサイクリング株式会社提供)

自由が丘のコミュニティでもLFCコンポストに取り組むメンバーの方がいます。妹尾さん、メイさんを中心に、お話を伺いました。コンポストを始めたきっかけなどを教えてください。

メイさん:もともとコンポストをやりたかったのですが東京で一人暮らしでもできる方法が見つからなくて、半年くらい探していました。LFCコンポストは始めたらすごく気軽で、簡単ですね。ベランダがすごく狭いのですが、縦のラックがあって熟成中のものを下、投入用を上、というように2つ体制でおこなっています。

妹尾さん:私はもともと地球にやさしいこととして、ごみを極力減らしたりリサイクルをしたりする意識がありました。生ごみはその中の一つで、記事で見かけてマンションでもできそうだったのではじめてみました。

自宅で堆肥を混ぜる妹尾さん

使いきれない土の行方

都市部でのコンポストが普及する一方で、堆肥化した土を使いきれないという課題もあります。多くの方は、ベランダにプランターを設置するなど家庭菜園を楽しんでいますが、継続的に生ごみを減らすことで堆肥は増え、ベランダ菜園の規模では消費量が追いつかないことも多いのが現状です。地元の街路樹や花壇での使用ができないか、小学校の花壇で使えないかなど、身近なところでの循環を模索をする方も少なくありません。そうした方法も、畑へアクセスが遠いことや集合住宅が多い都市部では、循環にも限界があります。

CSA LOOPでは、そうした悩みを抱えた生活者が農家と出会い、年間購入という中長期的な関係性を土台に信頼関係を築くことで、堆肥の有効活用をすることができます。

妹尾さんは実際に堆肥を持参されたことがありますね。

妹尾さん:私は自分で植物を育ててないので、出来上がった堆肥を使う機会がなくて、溜まってしまうことが壁でした。CSA LOOPとの出会いも、『堆肥 都内 回収』で調べていたら、サイトにヒットしました。たまに農家さんに直送できるシステムも見かけますが、送料がかかってしまうのでコンポストのランニングコストも考えると厳しいです。CSA LOOPは近くなので持って行きやすく、その時に農家さんにも意見を聞けるので助かっています。

従来は、使いきれない堆肥を前にコンポストという生ごみ削減のためのアクション自体を諦めざるを得ないという方も、CSAという関係性というなかで農家と直接コミュニケーションをとりながら循環に加わることができます。お野菜を通して農家さんを応援するだけでなく、家庭のコンポストも継続して取り組んでいくための選択肢にもなっています。

持参した堆肥を見るメイさんと野崎さん

信頼関係の上にある資源循環

CSA LOOPが大切にしているのは、単純な資源循環ではありません。できた堆肥が農園で有効活用され、それをまたお野菜として受け取るという”わたしたちの循環”を見据えて、作り手も食べ手も一緒に循環をつくっていくことが重要だと考えています。メイさんは、この循環をどのように捉えていますか?

メイさん:農家さんのところに訪問して堆肥や野菜を実際に見ることができるのがすごくいいと思っています。9月に行った際にはキウイの収穫やさつまいものつるの整備などをしたり、畑での作業を通して農家さんをサポートできることが、全てではないですがプロセスの一部を見れるのでいいなと思っています。

農家さんにとっては、受け取るボリュームが増えていくことで堆肥を低コストで手に入れることができるという側面もある一方、何が入っているかがわからない、知らない人の堆肥を受け取ることについては、どのように考えていますか?

野崎さん:一度農園でも地元の方向けに、畑の隅に木枠などを設置して近隣住民の方に生ごみを持ってきていただけるような仕組みを検討したことがあります。ただ、不特定の方向けとなると、生ごみ以外のものが混入したりする恐れもあり、単純なごみ捨て場になってしまうことが懸念でした。そういうことを考えると、こうしたCSAを土台にした信頼のできる関係はいいなと感じています。

CSA LOOPでは、年間購入によるリスクシェアと作り手と食べ手の直接のコミュニケーションによって、相互に関係性を育んでいくことができます。また、CSA LOOPではチャットのスペースでメンバー同士で情報共有ができたり、受け渡しのタイミングで農家さんと直接お話ができるので、コンポストを作っている時の疑問や不安点を解消しやすく「入れていいもの」「入れてはいけないもの」など確認しながら、スムーズにコンポストづくりをしていくことも可能です。

メイさんが持参した堆肥

堆肥の受け渡しの基本的な流れとしては、お野菜の受け取りの際に堆肥を持参をし、農家がそれを受け取ります。農家はその後、畑で二次的に熟成を行い、それぞれが考える方法で活用を行っていきます。実際にこの日メイさんが持参した堆肥は、奈良山園の栽培に活用されていきます。

自分の堆肥をお渡しすることについて、メンバーの中には、堆肥の品質に少し不安を覚えるというお声もありました。

野崎さん:みなさんから受け取った堆肥はまず熟成させるので、そこまで気にしなくてもいいかなと考えています。受け取った堆肥をそのまま使うとすると、たしかに、販売されている堆肥のように安定した品質でないと使えないと考えています。ただ、そういった堆肥を家庭でつくることは難しいと考えています。そのため、CSA LOOPを開始する時にまずやったのは、農園の堆肥場の整備でした。

メイさん:私の場合は、9月にキウイの収穫体験で実際に畑に行った際に堆肥場も見ました。そういった機会を通して、お渡しした堆肥が再度農園で熟成されるということは知っているので、完全に生ごみの姿がなくならなくても、気楽に取り組めています。ただ、心配性なので、家では熟成期間(生ごみを入れるのをやめてから分解に専念する期間)をしっかり2週間〜1ヶ月程度とるようにはしています(笑)

野崎さん:そうですね。畑ではジャムを作る時に出るその日剥いたみかんの皮などをそのまま入れて分解を始めているので、大丈夫です。むしろそれ以上に分解していただいているので、なおさら問題ないですね。

メイさん:畑で使われて土に還っていくことを追えるので、自分の生ごみだったものがただのごみではなくなっていると実感できるだけで満足ですが、今後はそれがいつか野菜になって自分のご飯にもなるという循環が楽しみですね。

奈良山園の堆肥場

長期的なお付き合いのなかで、畑でどのように使われているのかを見にいったり、お渡しをした堆肥を使って育った野菜を実際に受け取ることもできると言えます。
さらに、自由が丘では拠点であるONIBUS COFFEEの店舗横ではコンポストボックスが設置され、店舗の循環を目指し独自の堆肥化に取り組んでいます。

CSA LOOPのメンバーもお野菜の受け渡しの日だけでなく普段もお声かけすることで、堆肥を投入できます。この日も堆肥をかき混ぜると湯気が立ってきました。

ONIBUS COFFEE自由が丘店に設置されているコンポスト

山田さん:まだまだ店舗で堆肥化できている生ごみは、全体の量からすると30%程度しか取り組めていないのですが、コーヒーカスやデリで使う野菜くずなど、5L/日程度を投入しています。一部の人間だけでなくONIBUSのスタッフが定期的に土に触れる機会にもなっているということが大事だと思っていて、堆肥の状態を気にかけてくれるようになったりしました。お客さんの中にも、「コンポストやっているんですね」と声をかけている方もいらっしゃいますし、嬉しいですね。

受け渡しの際に切り返しをしながらお話をする奈良山園の浅見さんとONIBUS COFFEEの山田さん

山田さん:自由が丘店では、ドリンクだけでなくフードも提供しているのですがデリで使うお野菜を、安心して食べられるもの、作っている人を知っているものを使うようにしていて、メインのメニュー自体は頻繁に変わらないけどそれに付けるデリが季節のものになるので、きてくださる方が楽しんでいただけているだけでなく、自分達の取り組みを知っていただけるきっかけになっていますね。キッチンのスタッフも結構楽しんでいるみたいです。

CSA LOOPのメンバーの方は店舗横の木枠にも持参をいただけるようですが、これからもっと増えていくことで、メンバーの方とのつながりも深まっていきそうですね。

山田さん:そうですね。CSA LOOPの取り組みを通じて、メンバーの方との接点が増えたらと思っています。コーヒーを飲んでくれるだけでも嬉しいですし、ONIBUSが自由が丘でやっている取り組みを知って、自分の住んでいるエリアで「いいよね」と思っていただける人が増えるといいなと思います。今農園では実験的に、ここの堆肥を鉢を分けつつイチヂクに使用しているそうなので、ゆくゆくは、このコンポストで作った作物がまた戻ってくる循環も作っていきたいですね。

最後に奈良山園の野崎さんにこの取り組みへの想いをお伺いしました。

奈良山園:都会の一角で、突如としておこなわれる土の受け渡しや、お店が自ら取り組んでいるこの光景は、感慨深いものがあります。江戸時代から続く農園を継いだ自分にとっては、かつての都市と農村のあり方を再現して行っているように感じますし、それこそ自分がCSA LOOPに参加している原点であると同時に、都市部での循環という魅力が詰まっていると思いますね。

信頼関係を土台にしたCSA LOOPというコミュニティだからこそ、関わる人たちでつくる持続可能な循環が始まっています。

ONIBUS COFFEE Jiyugaoka

住所:

〒152-0034 東京都目黒区緑が丘2丁目24−8

| 地図
営業時間:

9:00〜17:00

定休日:

なし

奈良山園

住所:

東京都東久留米市