わたしにとってのおいしさ

feature

おいしいってなんだろうか。
誰かと食卓を囲む時、そこに会話がある時、誰かの仕事に想いを馳せる時ーー
おいしいを大切にしていると、いろいろなことに気が付くことがある。
それを食卓で共有すると、なんだかおいしさが最大化するような気がする。

今回は、食卓や食に対する意識の変化などお話を伺い、「おいしい」を紐解きます。

  • Photo:

    Yuri Utsunomiya

  • Text:

    Yuri Utsunomiya

店主の西村さん(左)、越渕さん(中央)、土井さん(右)

わたしの食卓

今回は、実際に拠点で受け取るお野菜を介して楽しむおいしさにフォーカスしてお届けします。押上駅と錦糸町駅の間にあるBERTH COFFEE ROASTERY Haru(墨田区横川2丁目)を拠点にするコミュニティから、メンバーの土井(どい)さん、越渕農園の越渕(こしぶち)さんのお二方にお話を伺います。

まずはじめに、土井さんの普段の食卓についてお伺いしていきたいと思います。土井さんの食卓の特徴はなんですか?

土井さん:野菜の消費量はとても多いですね。健康のためということはもちろんですが、野菜がおいしいからですね。特に大人になってからは野菜のおいしさや甘み、調理の仕方で変わるもの、素材の違いなどをより感じるようになりました。

土井さん:小さい頃から野菜好きであることを自覚していたわけではないのですが、母親が有機野菜の宅配のようなものをとっていたこともあり野菜が身近にありました。ただ、子どもの時だったので、「有機野菜サイコー!」とはならないですが(笑)大人になってから自分が野菜好きであることは、そうした家庭環境が影響しているのだと思います。

ご飯を食べるときに心がけていることはありますか

土井さん:食卓を囲む時には会話を大切にしていますね。昼は仕事をしながら食べてしまうことも多いのですが、夜は食卓で家族と話す時間として大事にしています。そのために、どんなに忙しくても何品かは食卓に出したいなと思っています。もちろん、カレー一品でもおいしいし話が弾まないわけではないのですが、「これにはなにをかけよう?」、「これおいしいね」などのコミュニケーションが少なくなる気がするんです(笑)

夫婦のコミュニケーションになっている糠漬け

土井さん:あと、夫婦で一緒にやれる趣味として始めた糠漬けも「今日は漬かってるね」とか「漬かりすぎちゃったね」みたいな会話が自然と生まれます。以前越渕さんから受け取った白茄子も、あまり見ない野菜だったので「これ何?」とか「面白い食感だね」という会話が生まれました。そういう食を通じた会話は大事だと思うし、作り手の顔が見えることでちゃんと味わうことにもつながっていますね。

食卓が家族とのコミュニケーションの場であるという価値観を大切にされていることが、よく伝わってきました。

越渕農園と有機の出会い

今回取材をしたコミュニティでは、千葉県柏市の農家である越渕農園の越渕さんが毎月BERTH COFFEE ROASTERY Haruさんに、その日の朝に収穫したお野菜を持ってきています。越渕さんにもお話を伺いました。

お手製の麻の敷物に並ぶとれたての新鮮野菜

まずは越渕さんの農業に対するこだわりやお野菜の栽培への考え方をお聞かせください。

越渕さん:今、柏市で新規就農をして4年目になります。野菜は農薬と化学肥料を使わずに栽培をしています。堆肥は動物性の厩糞(きゅうふん)堆肥は使わずに、植物性堆肥を使っています。肥料は有機JAS水準の信頼できるメーカーの有機肥料を使うように心がけています。そうした資材もなるべく国内で作ったものを使いたいと思っていて、堆肥はご縁の中で出会った都内の酵素風呂のサロンから引き取っている国産のおがくずを活用しています。自分の中では、持続可能な農業としてはコストをかけずに十分おいしい野菜が作れればそれが一番いいと思っています。信頼できる方々との共同体の中でものを流通し合って、相互にメリットを還元していきたいですね。

もともとそういった考え方を持っていたのですか?

越渕さん:もともとは有機すら考えていなかったんです。有機はリスクがあるという先入観があり、農業をやるならちゃんと肥料をあげておいしい野菜を作ろうという考えでした。

越渕さんの畑の様子

それは独立する前の研修などでの経験が影響しているのでしょうか?

越渕さん:そうですね。農業に進んだ当初は何も志がなく、なんとなくの浅い考えで北海道の2軒の農家で働いていました。1軒目の研修は機械に乗ったり雑草を抜いたり”人手”としての労働だったのですが、2軒目では実践的な多品目栽培の基本を学べました。

越渕さん:その後、北海道で新規就農するか、地元である柏に帰るかということを考えていました。「柏なんて農地はないだろう」と思っていましたが結構農地があることを知りました。東京も近くて、人口も多く生産地でもあり需要地でもあるので、地産地消をやるにはすごくいいなって。そして有機で多品目栽培をしている柏のある農家さんと出会い、有機でやることを決めました。

コミュニティで育むおいしさの立体感

土井さんは、CSALOOPを知った時はどんな印象をもちましたか?

土井さん:どちらかというと野菜そのものよりは、環境へのアクションや仕組み自体に関心がありました。申し込んだ時はひとり暮らしで地域のつながりが少ないなと感じていたので、他のメンバーの方との交流で地域とつながれたらとも思いました。

実際にCSA LOOPに参加してみてどうでしたか?

土井さん:農家さんと話ができて、どんな料理に使えそうかも知ることができるため、想像していた感じと一致していましたね。これからは、せっかくカフェも関わっているので、個人的には受け渡しの時に、もっとメンバー同士やカフェとのやりとりを増やしていきたいなと思っています。

販売は店内の時もあれば建物横でおこなうこともある

越渕さんはCSALOOPを知った時は、どんな印象を持ちましたか?

越渕さん:持続可能な農業や循環型の農業にはコミュニティが重要であると考えていました。CSA LOOPに取り組むことでコミュニティの中で様々な事柄を共有し、助け合うことで究極的には安定し強靭な集合体になることが出来るのではないかと考えました。

CSA LOOPに参加してみて、いかがでしたか?

越渕さん:年間のお付き合いとしてお客さんとの関係性が築けるので、いい意味で甘えられるというのがあります。僕の栽培方法だと8〜9月は虫食いが多くなってしまうので、そうした事情をご理解いただきながらお話ができる食べ手と出会えることはすごく助けになっています。もし極度にリスクを下げてつくるなら、種まきすらしないという選択になりますが、みなさんの協力を得ながら提供できる品目数を増やしていくことができます。

コミュニケーションが取れることで、理解につながっていくんですね。越渕さんが印象に残っているコミュニティでのやりとりはありますか?

越渕さん:やっぱり、食べ方をシェアしてくれたり、おいしかったと伝えてくれるのは一番モチベーションになりますね。今日も受け渡しのときに「にんじんの葉っぱをスムージーにしたらおいしかった」と伝えてくれた方がいました。以前、「パセリみたいなものですよ」とお伝えしたところ、応用されたようです。僕もネットでレシピを見たりはしますが、みなさんのレシピは自分が知らなかったり普段やらないことも多くすごく勉強になります。

受け渡しでのコミュニケーションでは地元情報の交換も

土井さんからもレシピや作った料理のシェアのお話がありました。

土井さん:越渕さんがみんなの作り方を知ることができるのが勉強になると言っていたのを聞いた時、ただ農家さんが与えているだけの関係性ではないんだと思えました。win-winというか、思いもしなかった農家さんのメリットを知れてよかったです。

土井さん:みんながみんな料理の仕方を知っているわけではないから、おいしい食べ方など新しい視点が得られるので面白いですね。

韓国にルーツのあるメンバーがいることもあり、今日は、冬にかけてセットに入ってくる越渕さんの大根や白菜でキムチをみんなで作りたいというお話になっていましたね。

土井さん:今日の受け渡しの時に「これキムチに漬けたらおいしいよ」という会話がありました。たぶん私は今日家に帰ったら「キムチ作れる人がいるんだけど作る?」って夫に言うと思います(笑)

みんなで一緒に作るキムチはさぞおいしいでしょうね。

土井さん:そうですね。自分でやった楽しさもあるし、人とつながっているなかで作ったものなので、味だけではないおいしさがあると思います。自分がテキトーに淹れたコーヒーと「今日もお疲れ様!1週間頑張ったね」と誰かが淹れてくれるコーヒーって全然違うじゃないですか(笑)

最後に、越渕さんに今後コミュニティでつくっていきたい関係性についてお伺いしました。

越渕さん:贅沢なことかもしれませんが、キムチの話のように、いつかコミュニティで自分の野菜を使って、メンバーの一年分の手前味噌、手前醤油が揃うような状態にしていけたらなと思います。

今回お二人からお話を伺うと、食材単体を超えたおいしさという概念があるように思えました。まっさらな生の野菜に人の手が加わることでおいしい料理ができるように、だれかとだれかのコミュニティケーションで生まれる”おいしさ”があるのだと強く感じました。越渕さんが描くコミュニティのかたちは、そうした想いの集積が醸すおいしさのかたちなのかもしれません。越渕さんが語った”自分の野菜でコミュニティの年間分のお味噌やお醤油を揃えたい”という想いは、CSAにおける作り手と食べ手の究極の関係性なのかもしれません。

BERTH COFFEE ROASTERY Haru

住所:

〒130-0003 東京都墨田区横川町2-7-2

| 地図
営業時間:

平日11:30〜18:30、土日祝8:00〜18:30

定休日:

木曜日

越渕農園

住所:

千葉県柏市