イベントレポート/大きな堆肥場の小さな微生物たち
今回は2期のメンバーである井上さんにレポートを寄稿いただきました。
井上 晴加
2期
関西学院大学総合政策部卒業。1つの問題をあらゆる角度から多角的に、創造的に、解決するというコンセプトの学部にて学びを深め、卒業後は全日本空輸株式会社に入社。接客や役員秘書、カスタマー&プロダクトという部署での業務を経験した後、現在は一児の母となりクラニアルセラピストとして都内でサロンを経営。クラニアルセラピー(脳の器である頭蓋骨を緩めることで、あらゆる神経の伝達を正常に戻し、脳ストレスからの解放を促す、西洋医学から生まれた自然療法の叡智と呼ばれる技術)を提供し、自分を癒し美しく表現することは、同時に他者や地球環境など、大きく広がりを持った一つの貢献として、繋がることの意味を、日々お客様に体験して頂くための活動をしている。
はじめに
初夏の風が吹き抜ける中、土がついたままの人参に思いっきりかぶり付く都会っ子の息子の見たことのない姿を眺めて、「真実」という言葉の本質が心と脳を走り抜ける感覚を味わいました。
今回訪れた千葉県山武市にある「たがやす倶楽部」さんでは、化学肥料や農薬に頼らない生産方法で30年以上続けておられます。代表の齊藤完一さんは、都内にいくつかグループを持っており、毎週都内のお馴染みの場所に赴いてはお野菜販売をし、お客さんとのコミュニケーションを楽しみながら、人とのつながりを大切にされています。
有機、無農薬、オーガニック、サスティナビリティ、エシカル、循環型社会--
これらのキーワードが日々目に飛び込んでくるようになった昨今、ただ日々自分たちの体のためにオーガニックなものを選んでいるだけの、どこか遠い位置から静かに傍観している人形のように思える自分が、この土地で行われている農業の在り方を知ることで”巡る命の強さ”をまさに体験する機会となりました。
お野菜の収穫
生い茂る草を掻き分けて、野生のたくましさに圧倒されながら、もぎ取ったとうもろこしは、みずみずしく、ずっしりと細胞が満ち満ちているような重厚感でした。
続いて、2種類のじゃがいもと人参畑にも案内していただき、メンバーのみんなと、この空間の気持ちよさにすっかり大はしゃぎをしながら土から掘り起こす、まるでパーティーでも開いているかのような楽しく清々しい時間。
収穫をしてその場で食べさせて頂く野菜はみずみずしく甘美な味わいと、強い生命力を感じさせられます。これは土の中の菌のバランスが調和しており、野菜が本来の姿で生き生きと育っているからだなとも思いました。
「土付きのまま、食べてみ」と完一さんの言葉に、一同は驚きましたが、言われるがままに食べてみると、この土は、ジャリジャリとして思わず吐き出したくなるあの土の感覚はなく、まるできな粉のようにほのかに甘くて柔らかく、口のなかでふわっと溶けて思わず何度も口に運びたくなるんです。
土に負担をかけて固くさせる重機をなるべく使わず、土の中の微生物が野菜を育てられる環境を整えることに徹しているからこそ叶う、独特の、いや、これが本来の野菜たちが持っている多幸感なんだと感じました。
青空の下でお昼ごはん
畑のすぐ隣で、採れたてのお野菜を美味しく、様々な調理法で仕上げ、ビュッフェにしてご用意頂いたランチは、言うまでもなく感動的でした。
野菜の生命力の味は、シンプルな調理で、自然を感じることができる野外という場所も相まって、どんなに立派な料亭やレストランとも比較できないものになる。
ここの農業体験で、ランチの時間を多くの方が楽しみにして訪れる理由が納得できます。
天然の酵素風呂そして最高のHealing
午後はそのお野菜の美味しさを支えている堆肥場を見学にいきました。
この土の上にいると、最高に安らぐ。
完一さんが何十年もかけてつくり、守り続けているこの土は、微生物がこの地球で最も平和で愛をベースに命を循環させる力を持っていることを証明してくれています。
そして何と言っても完一さんオリジナルレシピの「堆肥」に秘密があるようでした。
コーヒーかす、地元酒造の酒粕、落花生の殻、もみ殻、昆布、、全て植物性の原料で攪拌し発酵させた堆肥は、思わず鼻を摘みたくなるような動物の糞尿などから作られた肥料とはかけ離れた、雄大な森の中のような香り。それでいてどこかフルーティーな香りも感じることができる。この堆肥の中で様々なプロセスが起こっているんだと直感的に分かる、なんだか宇宙が広がっているかのよう。堆肥の山の中心部は、発酵で70度くらいにまでなり、表面ですらほかほかと温かいのです。
そして、堆肥の山の中に二つほど、体がすっぽり入るような穴倉が作られていて、酵素風呂になっていました。そこに入ると異次元に来たのかと思うほど温かくて、命の根底から充電されるような強さと静かさの不思議な感覚を味わいました。
この場所はまさに最高のHealingが起きる場所。完一さんは、この場所について、疲れた人や心や体が弱っている人たちのための場所としても活用したいと仰っていました。
この堆肥の中で行われている発酵は、私たちのお腹の中が最高の状態とは何かを教えてくれているかのようでした。微量栄養素(ミネラルや抗酸化成分や微生物代謝物質)をしっかり含んだものを食べて、お腹の中をこの堆肥と同じように発酵状態にすることで、自らの力で、心や体の調子を整えてしまうことが起きる。ストレスや苦しいという気持ちに苛まれている時に、病気となって現れたり鬱状態になることがありますが、この微量栄養素で耕された腸であれば害をもたらす神経伝達物質をスムーズに抑制、消去するために働き、私たちを守り育ててくれます。
「心や体が弱り始めている人のところに、自然界の生きる力を届けたい。そして、地球の命である食べものが、自分の心と体を動かしていることを体感して欲しい。」
完一さんの熱いハートからの言葉にじーんと感動を覚えました。微生物の力が働くここの土や、堆肥は、ミネラルたっぷりで、私たちの免疫力を上げてくれるそう。この土で手を洗い、顔にも塗ってパックする。
「だから俺の肌はツヤツヤで、いつでも元気なんだ」と仰っていた完一さん。疑いようもなく全てを体現されていました。つまり、見境なく除菌をして終わりなく出てくるウィルスや病原体から恐怖のあまり逃げ惑うことは、、ある意味滑稽で、本質的なことを見失っている姿なのかもしれません。完一さんは、この微生物の力で畑を作ることが、自然の秩序であり、それが本当に”人の命”となる野菜だと言うことを、何十年もかけて追求してこられたそうです。
ほんのすこしの間ですが、たがやす倶楽部さんで育てられた野菜を食べ、ここの土の上に身を置いていると、過去の時代から作り上げられ、そして与えられてきた仕組みや環境に、盲目的に生きていることに対して、少なくとも私は、そのままにはしたくないと強く思うのです。
野菜を通したコミュニティ
私が1.2 mile community compostを始めたのも、日々食べているものの真実が知りたい、生命のバランスと秩序に沿った暮らしを創っていきたい、そして同じようなハートを持った仲間に出会いたい、と願ったことがきっかけでした。家庭で出た生ごみを堆肥に変えるという小さな取り組みが、地球のこと、社会のこと、そして自分の命と隣人の命、大きく全てに意識が広がり、多くの真実に近づく機会となった、この畑に出会えたことに感謝しています。
畑を訪れた私たちに、完一さんは「血が繋がってなくても家族だよ。安心で安全で美味しいのは当たり前。自然の力を借りて一生懸命作った野菜を食べて元気になってくれて、そこに俺たちとの信頼関係が生まれる。素晴らしいことだ。そんな場所(community)が何よりも価値がある。」と仰いました。
私たちが食べるものを作って下さっている方と家族のような絆がある。「豊かだなあ」と感じます。都市に住みながらでも、自分の命と自然の繋がりを体感すると、生きてることを讃えたくなる。
この場所を訪れて、ぜひ味わってみてください。
たがやす倶楽部
齊藤完一さん主宰。千葉県山武市で30年前から化学肥料や農薬に頼らない農法を実践。地元の産業副産物を積極的に取り入れた堆肥づくりをはじめとした土づくりにこだわったお野菜は多くの人に支持されている。週末には都内各所を転々とし、野菜を届け、直接お客さんに会うことも忘れない。
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