末永いお付き合い|『HEYCOFFEE』戸田由佳さん

feature

壊れても修理に出してまた使う
無くしてしまったら代用が効かない
実用性や機能性が二の次になってしまう

たとえ使えなくなったとしても手放せない
そんな私たちの中に込み上げる、愛着。
何かを愛おしく思う気持ち
大切にする気持ち、大事にしたい。

自身が愛着のあるものについてお話をお聞きします。
今回は埼玉県戸田市にあるカフェ『HEYCOFFEE』の戸田さんです。

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    Mana Hasegawa

  • Text:

    Mana Hasegawa

プロフィール
HEYCOFFEE|戸田由佳さん

スペシャリティコーヒーをメインに、コーヒーだけではなく美味しいライトミールを提供している戸田公園『HEYCOFFEE』。店名には、スペシャリティコーヒーを「HEY!」と友達に呼びかけるように身近に感じてほしい、という思いが込められている。カフェでありながら、街の人・もの・ことが自然と行き交う場所にもなっている。お酒が大好き。愛犬はフレンチブルドックの“しじみ”ちゃん。
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本日はよろしくお願いいたします!今回“愛着のあるもの”を色々悩んでいただき、革のブーツにされたんですよね。いつからそのブーツは履かれているのですか?

そう、結局ブーツにしました!リペア前にはなるのですが…。出会いは、2013年の12月末ですね。オーストラリアから帰国して、しばらく海外と日本での生活をしていたので、洋服も靴もわーって引き払っちゃって。ちょうど色々持っていない時でした。年末のクリスマス時期だったと思うのですが、夫にプレゼントしてもらったんです。それからずっと直しながら使っています。自分で色を入れているので、元々の色と全然違うんですよ。だいぶ自分で作り込んでできた色や風合いになっています。

今年でちょうど10年目なんですね。プレゼントしてもらったとのことなんですが、戸田さんからブーツが欲しいと言ってお願いされたんですか?

自分で選びましたね。オーストラリアで働くようになってから、あまりヒールのある靴を履かなくなって、その生活に慣れてしまったんです。日本でも歩きやすいブーツが欲しいな、と思っていたんですよね。その時に、当時好きだった洋服のブランドのお店で見つけて「これがいい」と伝えて夫に買ってもらいました。

お手入れして使い続けるのは、贈り物という理由以外に何かあるんでしょうか?

そうですね。最初はそこまで使い続けられるとは思わなかった。ほんとによく持ったなと思っています。きっかけは、私のいとこの影響がすごく大きくて。日本人なんですが、アメリカに住んでいるいとこがいるんです。洋服の趣味とか、作るとか描くとか、そういうカルチャーやアート的な要素をたくさん教えてくれました。

何年かぶりにいとこに会いに、アメリカのロスに行った時ですね。そのいとこが着てる服に「これ、めっちゃかっこいいね」って言ったライダースジャケットがあったんです。「そういえば、何年着てるんだっけ?考えたらそれこそ10何年着てる」って言っていて。「え、そんなに持つの?」と驚きました。革のお手入れ方法と一緒に、革は自分で好きに色を変えられることをその時教えてもらいました。革は育てるものみたいなことを言っている人が結構いたけど、実際それってそんなに身近な話じゃなかったから。

何度もお手入れしながら、好きな色に育てていった戸田さんのブーツ。

革の色を変えられるって知らなかったです!戸田さんのブーツの色も確かに、既製品にはない独特の風合いがあって“味”を感じます。

このブーツも、まあ大切に使えば5年ぐらいは持つかもな、くらいに思ってだいぶハードに履いていたんですよね。そうしたら革の方は全然大丈夫だけど、靴底が先にダメになりました。靴底は靴屋さんに持っていって、張り替えてもらっています。

ツルツルピカピカの、なんていうのかな、もう人の手を感じないようなやつじゃなくて。ちょっと皺があってもいいし、変なムラがあってもいいと思って使い続けてますね。なので結構ラフに使っているかも。でも全然まだ、あともう1回くらいは靴底を張り替えてでも履けると思います。

今まで、革の色はどんなふうに変えていったんですか?

1番最初はだいぶ明るい茶色だったんです。時間が経ってくるとくすんでくるから、そこに、オイルを足していくと今の深い茶色になる。で、もうちょっと赤みに寄せようとかもできる。だから、今まで、緑と赤と、青も入れてますね。磨き上げした時はすごく綺麗で、色々と楽しませてもらっています。

お手入れの周期は大体決まっているのですか?

冬場の乾燥している時期にやりたいですね。年に1回は絶対やらなきゃいけないんですけど、このコロナ禍の間、私ほんとに忙しくて全然お手入れしてあげられなくて。ああ、もう無理だと思う状態までダメになってしまったんです。でもちゃんと磨いて、お手入れしたらある程度のところまで戻りました。

皺も色ムラも、一緒に過ごした時間を感じる温かい“味”

この靴を履いて出かけた思い出などはありますか?

お店を立ち上げる前に、シドニーへフードカルチャーをもう1回、見に帰りたいなと思って、少しだけ帰ったんです。その時にこのブーツも一緒に連れていきました。オーストラリアで暮らしてから、一緒に旅する靴が思い出になるって思うようになったんですよね。戻ってきてからも、オーストラリアに連れていったからいい運を運んでくれるんじゃないかと思って。

この子は本当に勝負靴ですね。よっぽどクラシックな、ヒールを履くような場面以外は、出張だったり、イベントなどで人の前に立たせていただく時だったり、大事な場面ではこのブーツを選んでいます。

旅をともにする、自分にとってお守りのような靴があるって素敵ですね。お手入れ方法は、具体的にどんなことをしているんですか?

私のこだわりが実はあって。靴専用のクロスってあるじゃないですか。私はあれを絶対に使わないんです。おすすめは、使い古した靴下!穴が開いた靴下をわざわざ溜めておいて、それを手に履かせて、オイルをわーって塗り込んでいくんです。靴下ってやっぱり吸水力が基本的にある生地で作られているから、オイルを弾くんです。すごく綺麗に磨けるので、一度やってみて欲しいですね!靴下の2次利用としても便利です。

靴磨き用に靴下がいいんですね!毎回のお手入れは、どれくらいの時間をかけているのですか?

オイルを塗って、ちょっと馴染ませてってしていると、結局3時間ぐらいかかる。

3時間ですか!お手入れの時はどんなことを考えているんでしょうか?

家に犬がいるんですが、オイルの匂いがすごく好きで寄ってきちゃうんです。寄らないでって言いながら、楽な格好で大好きなお酒を飲みながら磨いてますね!好きな音楽を聴いたり、ドラマを観たり。大切な“自分時間”の要素でもあります。自分のいとこに教えてもらってからはしっかりお手入れしています。ライダースも時間があれば一緒にお手入れして。その時間を大切にするのも、革は楽しい。

「HEY!」と友達に会いにいくように、いつでも迎えてくれる街のカフェ。

なかなか忙しいと、3時間のお手入れをするのって大変ですよね。お手入れをしよう!と思う時は、ハッピーな気分の時にやるのか、逆に気持ちを切り替えたい時にやるのか、どっちなんでしょう?

気持ちを切り替えたい、内省したい時にやっていますね。自分の中でリセットボタンを押したい時です。どっちかっていうと、日々の何かで悩んでたり、ちょっとしんどい時にやっているかも。

なんかこう、自分を磨くみたいな意味合いに近いんでしょうか?

そう!私の2023年の自己テーマは『自分を大切にする』なんです。今までは、ありがたい話でもあるけど、本当に自分の時間がない生活をずっとし続けていて。それがアンハッピーだったっていう話では全然ないのだけれど、いよいよ、去年はそのピークを迎えてしまったんですよね。すごくポジティブな話を、ポジティブに受け入れられなくなったなって感じる瞬間が何回もあった。シドニーから帰ってきて、ずっと走り続けて、ちょっと一呼吸おきたいっていうのもあったし、やっと少し仕事が落ち着いてきたのも2022年の年末頃。

それもあって、前回のブーツのお手入れはすごくちゃんとやったんです。やる前は疲れ切った状態のブーツが、まるで自分を反映しているような気もしました。だから、マイナスな、ネガティブな気持ちをポジティブに転換する要素として、そういうことをやっている気がしますね。自分を見直すことに結構役立ってくれている。

靴が綺麗かどうか。それは自分もだし、一緒に働くスタッフにも意識してほしい大事なこと。

ものを大切にすることって、自分や周りの人を大切にすることにも近いのかもしれないですね。

そうですね!ものを大切に扱うっていうのは、自分の中では結構トップクラスに大切にしたい事柄ではありますね。私の父は職人なんです。職人さんってツールをすごく大切にする。特に刃物は光り物で映り込むものだから、自分に跳ね返ってくるって言ってました。ものを大切にできない人は、人のことも大切にしないって。うちの父に昔から言われていたので、そういう影響もあると思います。

おそらく忙しい時でも、お店で使っているナイフとか、ちゃんとお手入れされていたのかなって。でも、今回の“愛着のあるもの”で仕事道具ではなくてブーツを選んだのも、『自分を大切にする』というご自身の今年のテーマと繋がる気がしますね。

そうかも。靴を磨くっていうのは、自分を磨く、自分を大切にすることに繋がる。自分を大切にできていると、伝えたいことをちゃんと伝えられる。それができていると、ブランドにしかり、製品にしかり、想いっていうのは実質お客さんに伝わるものなんですよね。そうすると人々は共感してくれる場合も多い。
共感できない人はもちろんいるけれど、共感してくれる人の種類も増えるし、共感してくれた人がまた新しいことをたくさん教えてくれるから、また自分に返ってきて豊かさを見せてくれるっていうことなのかな。

ものを大切にすることで、結果的にはその行為を通して大切にしてたのは自分だったのかも…!?

そうそう、そんな感じです!!

靴を磨く時間が、自分を労わる愛おしい時間。

戸田さんの“愛着のあるもの”は、革のブーツでした。まさにお手入れしながら“育てた”ブーツには、共に過ごしたたくさんの思い出や時間が詰まっていました。靴を磨くように、自分も磨く。戸田さんにとってブーツのお手入れは、同時に自分の心も労わってあげる、大切な時間なのかもしれません。

“愛着のあるもの”そこからその人のものへの価値観、大切にしていることが垣間見れたら。そんな想いで始めたインタビュー1回目にして、すでにこの企画の核心に迫るようなお話が聞けた気がします!

あなたの“愛着のあるもの”はなんですか?今後もインタビューをしながら、そのたくさんの答えを探していきたいと思います。