末永いお付き合い|『NOG COFFEE ROASTERS』野口航太さん

feature

壊れても修理に出してまた使う
無くしてしまったら代用が効かない
実用性や機能性が二の次になってしまう

たとえ使えなくなったとしても手放せない
そんな私たちの中に込み上げる、愛着。
何かを愛おしく思う気持ち
大切にする気持ち、大事にしたい。

自身が愛着のあるものについてお話をお聞きします。
第2回はCSA LOOPの拠点カフェでもある「NOG COFFEE ROASTERS」の野口さんです。

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    Mana Hasegawa

  • Text:

    Mana Hasegawa

プロフィール
NOG COFFEE ROASTERS|野口航太さん
レストランやカフェなどの企業へ、自家焙煎のスペシャルティコーヒーの卸販売を軸に、現在3店舗のカフェを運営。一部のコーヒー豆を自社で輸入し、顔の見える生産者から生豆を仕入れている。『美味しいコーヒーをもっと普通に』をコンセプトに、1杯のコーヒーを届けるだけではなく、コーヒーを通した新たなコミュニティの起点となり、人々の繋がりと生活の豊かさをつくりだすことを目指している。休日は映画やアニメを観るインドア派。最近は新作のFINAL FANTASY(ファイナルファンタジー)のゲームをするのが楽しみ。
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本日はよろしくお願いいたします!今回“愛着のあるもの”に、着用いただいている服装を選んでくださったんですよね!

はい!Levi’s 505のデニム、GildanのTシャツ、converse consと、中学の頃から使用しているベルトです。1週間のうち5〜6日はこの服装ですね。

服装を固定する、決めておくようになったのは、なぜでしょうか?

お洒落するのは好きなのですが、本当に好きな人からしたらたいして好きではないのかもしれないですね。バリスタのくせに朝は苦手で、服装をいちいち考えることも面倒くさい。そんな性格だから、決まった服装が一番楽。バリスタを始めた頃からなので、かれこれ8年くらいになります。

バリスタの仕事をしながら色々試して行き着いたのか、それとも始めからこの組み合わせだったのでしょうか?

この服装を始めた経緯は、18歳の頃に始めたスターバックスのアルバイト時代に遡りますね。最初に働いていた店舗には制服があったのですが、2年後くらいに異動した店舗は私服だったんです。

スターバックスの店員さんは制服のイメージです。私服の店舗があるのですね!

Neighborhood and Coffee(ネイバーフッド アンド コーヒー)と呼ばれる店舗がありまして。いわゆる普通のスターバックスとは違って、より地域に根差したくつろげる空間を大切にしていて、一般的なフラペチーノのようなメニューがない。コーヒーに特化したような店舗がいくつかあるんです。
それまでは白シャツに定番の緑エプロンを着ていれば良かったのですが、異動して私服になった時にどうしよう、と…。当時の異動先の店長が古着好きの方で、色々連れて行ってもらいました。その中でデニムが似合うんじゃないか、ということでまずは1本買ってみたのがきっかけですね!あとのTシャツや靴は、シンプルで使いやすいこと。汚れを気にせずガシガシ着れるかで選んでいった感じです。

お仕事柄、白い服は汚れを気にしてしまいそうですものね。

そうですね。それまでは結構、服を汚さないように意識してきてたのですが、やっぱりコーヒーや粉で汚れてしまいます。なので汚れても気にならない服装が良いな、と。デニムとかは、その汚れも“味”になっていく。使うたびに育っていく感覚がありますね。

バリスタしてきた時間があるからこそのデニムの“味”がありそうですね!

そうですね!一緒に過ごしてきたという感覚に愛着があります。あとは、コーヒーの粉の汚れも、自分的にはあまり汚いとは思わない。それくらい、コーヒーが好きなのもあるかもしれないです。

1代目・2代目の歴代デニムとともに。一緒に過ごした時間があるからこそのデニムの色合い。

それぞれのアイテムについても、ぜひ詳しくお聞きできればと思います。Levi’s 505のデニムは、ずっと愛用されているのですか?

今履いてるデニムは3代目です。ほぼ毎日履いているからか、どんどんいい色味に育っては破けて、今にいたります。1代目と2代目、ともに膝がぱっくり破れてしまって。ダメージジーンズとして履くこともできると思うのですが、すごく恥ずかしい気持ちになるのでコレクションしてあります。

コレクションされている歴代のデニムを見返すことはありますか?また、デニムを見て思い出すエピソードなどはありますか?

破れていなかったら、まだ履き続けていたと思います。具体的なエピソードがある訳ではないのですが、ふと目に入った時は懐かしさを感じますね。今見ていても“いい色”だな、と。

常に一緒に過ごしてきたデニムだからこそ、自分の一部。何か特別なエピソードがある訳ではなくて、過ごしてきた“時間”を思い出すのかもしれないですね。converseの靴はいかがでしょうか?

converseの『cons』というシリーズを履いています。converseって履き心地としては「鉄板が入っているのか?」というくらい硬いイメージがある方もいるかと思うのですが、converse『Japan』の靴がそれにあたる気がしています。聞くところ、海外と日本では規格が違うらしいのです。そこで私はconverseのスケートボードラインである『cons』を愛用しています。
この靴、実はインソールにはNIKEのLUNARLON(ルナロン)が採用されています。だから結構ふかふか。バリスタは立ち仕事なので、足が疲れる。履いていて疲れないことは大切ですね。

靴もどちらかというと、お手入れしながら綺麗に履くというよりは、汚れも気にせず気楽に履いている感じでしょうか?

そうですね!コーヒーの粉とか液体で靴が汚れても、それは良い“味”として全く気にしません。「いい大人は足先から」の人には信じられないのだろうな、と思います。

野口さんの足のサイズは30cm!気軽に日本で購入できないので、海外のスケートショップのサイトから購入しているそう。

GildanのTシャツには、何かこだわりがあるのでしょうか?

色が黒いのは、白いTシャツだとコーヒーの染みが気になってしまうから。だから黒いTシャツを着ています。あとは、ドンキホーテで結構安く買えるところですね。Gildanの黒Tシャツを1週間分くらい持っています。夏は半袖、冬はロンTを愛用してます。

Tシャツを調べてみたら、思っているよりもお手頃価格でビックリしました!デニム、靴、Tシャツ、そして最後はベルトで“いつもの服装”ですね。

ベルトは冠婚葬祭などの時を除いて、中学生の時に買ってもらったベルトをいまだに使っています。紐がほつれ始めていて、さすがにボロボロですが。まだ使えるので使っていますね。これがダメになったら、次はどうしよう…。

中学生から使用しているベルト。ほつれや皺も使い込んだからこその風合い。

こちらの服装は、日常着としても着ますか?それとも、これから仕事をするぞ!とスイッチを入れるために着る仕事着でしょうか?

割と日常でも着ていますね。プライベートでは、黒Tシャツをシャツにすることがありますが、デニムは大体日常でも履いていることが多いです。この服装が仕事へのスイッチ、切り替えるという意味はないですね。

GildanのTシャツをはじめ、どの服も比較的リーズナブルといいますか。いわゆる“カチッ”としたブランドものではなくて、日常でも着やすいカジュアルなものが多いですよね!

基本的にそんなにものを多く持っているほうではないと自負しています。ブランド品とかステータスを見せつけるようなものに、昔から全く興味がないのです。使いやすいから買う、買ったら使えなくなるまで使う。そんな習性があるので、ほとんどものを買うことはないです。

ブランド品などにあまり興味がない、その言葉に野口さんのお人柄が現れている気がします。分け隔てがない、偏見を持たずに平等に扱う。ものに対してだけではなく、人づきあいにも通じるところはありますか?

そうですね。接客で心がけているのは、できるだけ友人に接するような感覚といいますか。変に固い接客をするよりも、そのままの感じ。友人を迎える感覚でいたい、という思いはありますね。

来てくれるお客さんにとって、何か特別な場所ではなくて“日常の存在”でいたい。そのためには、服装もカチッとしているよりも、より“日常”に近い服装が好ましい。そういうところもあるのかもしれないですね!

そうですね!カフェで飲むコーヒーが日常の一部になってくれたら。そのためにも、自分が自然体でいたいですね。仕事に限ったことではないのですが、『流れに身を任せる』、『どうにかなるだろうし、どうにかするしかない』のようなポジティブ精神のおかげもあって、気負わずに自然体でいられるのかもしれません。

カウンターからコーヒーを淹れる様子が見られる店内。フラッと立ち寄りたくなる。



目の前で出来上がっていく様子に、つい釘づけに。心踊るラテアート!飲むと思わず「美味しい!」と口にしたくなるカフェラテ。

野口さんがコーヒーを好きになったきっかけは何なんでしょうか?

高校生ぐらいから喫茶店に行くことはありましたね。コーヒーを飲むこと自体、元々好きではあったと思います。意識が変わったのは、スターバックスのアルバイトの時。研修でコーヒーを飲み比べるのですが、案の定、味が結構違う。これは面白いと思いました。とりあえずそれを「誰かに伝えたい!」「コーヒーってこんな面白いんですよ」と言いたい、みたいなところが入り口ですね。日常の中で、人に気付きの瞬間を与えたいんだと思います。

確かに。「美味しい」という体験を人に伝える時、あらたまった感じよりは、自然体のありのままの言葉の方が伝わりやすいですよね。接客と服装の話とも繋がる気がします。ちなみにタトゥーがありますが、いれるきっかけについてお聞きしても良いでしょうか?

最初にいれたのは、日本ですね。当時のスターバックスの店長が、タトゥーを入れていた影響が大きいです。店長の彫り師さんがお店にもよく来ていて、彫ってもらいました。接客業だと、タトゥーを隠す人もいると思いますが、たとえバレても私は『コーヒーで生きていきたい』。そういう、決意を込めていれました。その後は、海外に行った際に現地で彫っています。

今までのお話しの中だと、『自然体』『流れに身を任せる』というのがキーワードにあった気がしますが、タトゥーは決意や覚悟があった。そこは、他と大きく違いそうですね。

18歳でスターバックスのアルバイトを始めて、大学を辞めているんですよ。コーヒーにはまりすぎて、大学を1年で辞めちゃって。とにかく、コーヒーの勉強がしたかった。タトゥーを入れたのも、店舗を異動した20歳か21歳くらい。ちょうど『コーヒーで生きていく』『これでやっていくぞ』と覚悟を決めた時ですね。
異動先の店長は、人生の師匠と言っても過言ではないかな。私はすごくコーヒーが好き。でもコーヒー1杯しか見えていなかった。そこにこう、いろんな視野をもたらしてくれた人ですね。

野口さんがこの服装に愛着を感じる理由が分かってきた気がします。汚れを気にせず、ガシガシ使い込める。だから、大好きなバリスタの仕事にも集中できる。もしかしたら、着飾らずに自然体でいられる、もっとも野口さんらしくいられる服装なのかもしれないですね!

バリスタって立ち仕事だし、カウンター内やフロアをそれなりに動き回る仕事。だからこそ、繊細な服よりも、汚れや傷みも気にしなくていいくらい、ガシガシ使い込める方がいい。それがいい風合いに変化して“味”になる。そんなお気に入りたちの気楽さが、私には合っているように感じます。
なんかこう、“カチッ”とした服を着ると、自分も“シャキッ”としなきゃみたいな気持ちになるのですよね。それがあまり好きじゃないのかもしれない。この服装だからこそ、バリスタという仕事に集中して向き合える。そんな相棒たちとバリスタ人生を共にしている感覚に、とても愛着があります。

『自然体』でいられる服装と飾らない笑顔の野口さん。

野口さんの“愛着のあるもの”は、バリスタを始めた頃から変わらないその“服装”でした。汚れを気にせず、ガシガシ着れる服装は、野口さんがコーヒーと向き合うために必要な“相棒”。そして、自身がもっとも自然体でいられる服装でした。
あなたの“愛着のあるもの”はなんですか?“愛着のあるもの”から、その人のものへの価値観、大切にしていることが垣間見れたら。そこには、その人の生き方や想いが詰まっているのかもしれません。