土のにおいに誘われて| 奈良山園

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第4回は、“奈良山園”の野崎さんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
奈良山園|野崎林太郎さん
都内最大級のブルーベリー園を中心に、オーガニックな果樹と野菜の栽培、養蜂やジャムの加工、共同直売所づくりといった、生産から加工、販売までを一貫して行っている。農地で食料をつくることだけではない、人がより豊かに生き、暮らすための“農ある暮らし”を目指している。好きな建築家はフィンランドのアルヴァ・アアルト。疲れた日はYoutubeでお笑いの動画をよく観ている。
公式HP
Instagram
CSA LOOP拠点:ONIBUS COFFEE Jiyugaoka/ファブリック(2023年9月〜)

平)…平間(4Nature代表)
の)…野崎さん(奈良山園/農家)

農家になる前

ものの仕組みをつくること、手先で何かつくることも好きなので、その延長ですかね。何か“ものづくり”がしたい

平)本日はよろしくお願いいたします。まずは、自己紹介からお願いしても良いでしょうか?

の)ここは、東京都東久留米市、北多摩というエリアで、奈良山園をやっている、野崎と申します。江戸時代から代々続いている家を継いで、就農しました。私で15代目ぐらいだといわれています。

平)ありがとうございます。ちなみにお伺いしたいのは、野崎園ではなくて、奈良山園なのはどうしてなんでしょうか?

の)昔の村、ここで言えば柳窪村という村ですけども。そこに住んでる人たちの名前って、3つか4つしかなくて、この辺だと野崎・奥住・村野がほとんどなのですよね。そうなると、結局自分の隣も周りも野崎ばかり。野崎園とか野崎農園にすると、みんな同じ名前の農園になってしまうというのもありますね。江戸時代には“屋号”という、家を表す名前があるのですが、それが“奈良山”だったことが由来です。

平)“屋号”って、職業に関係することもあると思うのですが、“奈良山”ってどんなお仕事なのでしょうか?

の)楢(なら)の木を売っていました。昔は料理や暖房、生活に木炭や薪が不可欠だった訳ですよね。当時は、「楢(なら)」の木を生産する雑木林を管理して卸す、都市のエネルギーを生産する側をやっていました。

平)面白いですね。元々のルーツは畑ではない!野崎さんの子どもの頃はどうだったんでしょうか?農家の家計に生まれて、農家になる!と思って生活していたのか、それとも農家以外のことをやりたいと思っていたのか。

の)一応、長男として生まれた時に、親だけではなくて、おじいちゃんおばあちゃんからも「君はこの家を継ぐんだよ」みたいな話はありましたね。決して強制的な意味じゃなくて、子どもに体験させたり、思いを伝えたり。特に私の場合は、代々受け継がれてきた、そういう話を聞いていた記憶はありますね。

平)では、学校もそういった農業系の学校にそのまま進まれたのですか?

の)いえ。農業はかすりもしない。ロボットを作る機械工学をやったり、アート・デザインの歴史を研究したり。仕事もシステムエンジニアで一度就職しています。全然農業には関係のないことばかりしていましたね。

平)色々と自分の関心のあることをしながら、頭の片隅には“農業”はあったのでしょうか?

の)そうですね。結婚して子どもが生まれた時に、自分が子どもの頃に体験させてもらったことに想いを馳せるといいますか。マンション暮らしだと好きに走り回ったり、大きな声で遊ぶこともままならない。自分の育ち方と違うなと思いました。そこで、実家に戻ろうと思ったんです。

DIYでつくった直売所・つみとり受付「畑テラス」

平)そうなんですね。では、お子さんが生まれるまでは農業に携わっていたわけではないんですね。

の)全くです!実家のブルーベリー畑にすら、年に1回の摘みとりに遊びに来てただけですから!

平)ちなみに機械工学は、昔から興味があったのですか?

の)ものの仕組みをつくること、手先で何かつくることも好きなので、その延長ですかね。何か“ものづくり”がしたい、というか。

平)機械と自然、相反するように感じましたけれど、“ものづくり”という意味では確かに共通しているところがありますよね。では、そこから実家に戻って最初はどういう感じでスタートしたんですか?

の)昔から手伝っていた訳でもなく、農業の学校にも行っていないので、いまだに分からないこともあります。ただ、父が書店を始めまして。書店を始めるくらい、本が好き。私も本が好きで、今でも読んでいます。

平)農業で困った時も、本を参考にされますか?

の)栽培方法で調べて出てきた本はもちろん、とにかく関係のありそうな本は片っ端から読みましたね。何百冊読んだか分からない。そこから知識を入れて、あとはトライアンドエラーです。そこで気づいたのが、いつ種を蒔いて、どれくらいで収穫できるかっていう一連の流れのようなもの、栽培方法ってもうある程度確立しているな、と。
すでに栽培のプロの先輩たちがいて、同じことをまねしているだけでは、いつまでも追いつけないと言いますか。あまり、面白くないなと思って。そういう想いもあって、まだあまりやっている方の少ないオーガニックや自然栽培などですね。まだまだみんなが探求中の栽培をしたい。マニュアル通りじゃなくても、トライアンドエラーで育てられたらと思っています。

農家になった今

その人と栽培する野菜の気が合うか、はあると思いますね。自分がつくりたいと思う野菜は、なんとなくこう「あ、これ可愛い」と思うもの。

平)今つくっている生産物っていうのは、ブルーベリーとキウイと梅。あとは畑で野菜でしょうか?野菜はどれくらいの種類を育ててらっしゃるのですか?

の)絞ろう絞ろうって毎回思っているのですが…。品種はやっぱり毎度5、6、70とか。いや、なんかこう、絞ると次にまたやりたいものが出てきちゃうから!

平)増えたり、減ったりしながら、より選ばれたものが残っているのですかね!

の)そうそう。本当、色々興味持っちゃうのはしょうがない。だからメインでやるのは「これ」と決めて、あとはちっちゃくやる。このちっちゃくやっておくことの意味もあると思うんですよね。

平)メインで決めているのは、何になるんでしょうか?

の)果樹だと、元々はブルーベリーだけだったのですが、最近キウイフルーツが面白いので、増やしていますね。あとは、梅の摘みとりの人気があって。というのも、梅の摘みとりってできるところを探すととても少ない。

平)確かに最近SNSで梅の時期になると、梅仕事って投稿をする人が増えていますよね。そこから、収穫しに行きたい!と思っている人も増えつつあるのかもしれない。野菜のメインは決まっていますか?

の)そうですね。オーガニックで、育てやすく、収穫しやすく、保管しやすい野菜。じゃがいも、サツマイモ、ニンニク、ビーツ、ミニトマトあたりですかね。

のびのびと、たわわに育つミニトマトとバジル。



野崎さんが好きな、小さくて“丸い”オクラ「 スター・オブ・デイビッド 」

平)新しい野菜に挑戦する時の選定基準みたいなものはありますか?

の)「可愛いかどうか」ですね!食べてから選ぶのは、なかなか難しいじゃないですか。やっぱり珍しい、食べて美味しいから作りたいっていうのもあると思うんですけど。でも、栽培条件が結構難しかったりもする。天秤に色々かけてやりたいと思うのは、なんとなくこう「あ、これ可愛い」と思うもの。

平)なんか「売れそう」「美味しい」というより、「なんかつくりたい」という、クリエイターやクラフトマン的な気持ちが根源にあるのが野崎さんらしいですね!

の)結局そんな気がします。多品目やっていても「この人はこの野菜が得意」ってありますよね。やっぱりそれは、その人と栽培する野菜の気が合うか、な気がします。あとは、“丸い”野菜が好き。

平)野崎さんは、養蜂もされていますよね。果樹に野菜、そしてはちみつ。かなりバラエティに富んだラインナップですね。

の)そうですね。養蜂は今年で4年目。結果的に興味が分散したことによって、お届けがバラエティになる。そういう良さはあるのかも。

書店「野崎書林」の中にある共同直売所「野崎書林マルシェ」

平)今、どういう販売方法が多いのですか?

の)直売に類する売り方がメインですかね。『野崎書林』という本屋を東久留米の駅前にやっていまして、その書店の中で、常設でやるマルシェのような直売所をつくり、野菜を毎日販売しています。

平)そこでは、どれぐらいの農家さんが出されているのですか?

の)最初は3件から始めたのですが、今はもう10数件になったかな。

平)なかなか充実した売り場になってきていますね!

の)近隣にスーパーもあるのですが、「毎日なんか面白いものがあるね」ということで、ありがたいことに皆さん立ち寄ってくれていますね。

これからのこと

ひまわりは土壌改良と景観を兼ねて、野菜は一部を結実させて種取りをめざす。

CSA LOOPに参加している農家さんは、もっと大きな投資ともっと大きな回収を目指してみんな参加しているんじゃないかな。私もまさにそうです。大きな街つくり、暮らしつくり、豊かさつくりのための一つとして参加している。

平)今6年目ということですが、今後どういう農園にしていきたい、こういうことに挑戦していきたい、のような構想はありますか?

の)まだまだ、生産の安定性がやっぱり弱くて、ちゃんとやらなきゃいけないなと思っています。栽培の仕方が見えてきたもの、面白いと思っているものについては、規模もある程度広げたいとも思っています。自分のところが引き継いだもの、持っているものは限られてしまう。それもあって、積極的に近隣の農地を借りています。本当に農業の高齢化って、全国的な問題なのですよね。

平)農家さんも高齢化して、農地はあるけどいつ継ぐか分からない。自分がやってきた農地が、汚くなっていくのを見るのは嫌だって想いのある農家さんは、結構いらっしゃいますよね。

の)はい。そういう方から、農地を借りています。東京の街に緑があるとしても、公園だけっていうのは、ちょっと悲しい気がするんですよね。都市との関わりとか、その余白や関係性とかを保つためにも、農地を借りる形で広げていきたい。
そこで、ある程度の規模で安定的に生産していく、というところを目指す。そのためにも、いろんな仲間を増やしながら回す仕組みをつくっていきたい。ここ数年は、地道に農家さんと繋がって、協力しながら、切磋琢磨しながらできたらいいなと思っています。

平)すでにいろいろな農家さんとも繋がって、実践していらっしゃる印象です。今までやってきたことを軸にしながら、地道に拡大していく、まさにその最中。

の)そうですね!後は、つくることと消費することの間を繋げたいと思っています。つくったものが食としてどう表現されるのか、ということに興味がありますね。

平)ジャムの加工などはすでにされていますよね。それとはまた違った切り口のものになるのでしょうか?

の)加工品ももちろん良いのだけど…。加工品はある程度、形やレシピが決まった“カチッ”としたものが出来上がると思うんです。そうじゃなくて、大量生産の枠から溢れること。ちっちゃい枠で、フレキシブルに出せて面白いことができないか。実はすでに、リサーチも含め、あたためてはいます。

出荷作業はにぎやか。10代から80代までの多様性のある現場です。

平)新しい取り組み、とても気になるし楽しみです。今後の動きにも注目ですね!野崎さんには、昨年からCSA LOOPにご参加いただいていますが、率直に1年間やってみてどうでしたか?

の)なんとかここまで走ってきたな、という気持ちがあります。毎月セットにして、この価格で売る、みたいなことを実はやったことがなくて。毎度、 ああでもないこうでもないとスタッフのみんなと相談しながら、進めていました。
メンバーさんも面白い人が多いですね。リアクションが直に見れるのは面白いし、ありがたいです。「こういうことに意外性を持ってくれるんだ」とか。リアクションの良し悪しをもらえることがすごく大きい。

平)メンバーさんだけに限らず、拠点のONIBUS COFFEEさんは、野崎さんの野菜や果物をメニューに取り入れてくださっていますよね。

の)そうですね。飲食店で使ってもらう機会が今は少ないので、カフェのメニューやスイーツに使ってくれるのは、実は毎度めちゃめちゃ嬉しいです。あとは、こちらが企画しなくても、カフェのスタッフが定期的に畑に来てくれていて、現場を見てもらうことでいい刺激になっています。

毎年夏に開催されるブルーベリーの摘みとり。都内最大級の森のようなブルーベリー畑です。



今年のブルーベリーは、雨が少なかったのでさらに甘くなっていますよ!

平)拠点のメンバーさんはいかがでしょうか?畑に来てもらう機会は、スムーズにつくれましたか?

の)メンバーさんが畑に来てくれる、来てもらえる動線をどう引けばいいか、というのはもっと考えたいし、頑張りたいと思っていますね。来て何をしてもらうのか、何を楽しいと思って、何に関心があるのか。そこの掘り下げが、なかなか月1回の対面だけではできていない部分もあって。そこは2年目以降、やっぱり掘り進めていきたいなと思っているところです。

平)そうですよね。他の農家さんも含めて、忙しい作業の間に開催するのも大変だし、来てもらうためにどうしたらいいか、みたいなところ。その動線つくりにまず、悩まれている印象です。
ただ、やっていくうちにその地域とか、そのコミュニティの特徴が出て来ると思うのですよね。このやり方が正しいって何かでくくることはしたくない、と言いますか。僕らとしても、そこをマニュアル化するというよりは、それぞれの拠点、農家、メンバーさんの考え方の中で最適解を作っていく、みたいな感じが理想ではあります。なんか、“ジャズ”みたいですね!

の)そうですね!“ジャズ”って自由な表現なんだけど、相手の出方、動き方を見て合わせていく。それで自分を表現していくのが、ジャズの良いところな気がします。自分だけ崩していても、イマイチな感じがするし、1人じゃ成り立たない。崩している人同士が集まって、はじめてジャズができる。
CSA LOOPに参加している農家さんは、私もそうですが、もっと大きな投資ともっと大きな回収を目指してみんな参加しているんじゃないか、と思うのですよ。目の前の、今年の儲けだけでは参加していないんじゃないかと。それが良さなんじゃないかな。私もまさにそうです。大きな街つくり、暮らしつくり、豊かさつくりのための一つとして参加している。
自分たちでできることはあるのだけど、自分たちだけではできない規模のことがやっぱりあるから。だから、CSA LOOPに加わることで、いい流れができつつあるのかな、と思いますね!

平)似たような想いの農家さん、拠点のカフェ、メンバーさんが集まる場所。CSA LOOPっていう仕組みは、大きな“ジャズハウス”かもしれないですね!

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CSA LOOPイベントワークショップ


CSA LOOP新しい拠点を募集中!

会場:ファブリック株式会社
住所:153-0051 東京都目黒区上目黒2-45-12
Nakame Gallery Street J3
農園:奈良山園

8月よりスタートの新拠点、【奈良山園/ファブリック】の募集が始まりました。「CSA LOOPに興味があったけれど、すでに募集が終わっていた…」そんな方もこの機会にぜひ、ご検討ください!

場所は中目黒駅から歩いてすぐ、祐天寺駅からも歩いて行ける距離です。7月もこちらの会場「ファブリック」にて、ワークショップを開催します。今回は、「ONIBUS COFFEE」さんとのトリプルコラボワークショップ!
さらに、奈良山園さんの野菜販売会もあります!

ワークショップを楽しむのはもちろん、CSA LOOPについてもご質問いただける場となっております。詳細は随時、Instagramでも発信していますので、そちらも要チェック!

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奈良山園

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東京都東久留米市柳窪