土のにおいに誘われて|&FARM YUGI

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第3回は“&FARM YUGI”の大神さんのところへ訪れ、お話を伺った。

  • Photo:

    Mana Hasegawa

  • Text:

    Mana Hasegawa

プロフィール
&FARM YUGI|大神辰裕さん
豊かな里山の原風景が残っている八王子堀之内・昭島の農場で、年間約40品目の野菜を栽培。「つなぐ農業を、つくる」をスローガンに掲げ、農業と人、人と人、人と地域を、農業を通じてつなぎ、一方通行ではない関係性を目指している。里山の中に巣箱をおき、養蜂も行っている。好きな食べ物はルッコラとトウモロコシ!作業中のオーディオブックがマイブーム。
公式HP
Instagram
CSA LOOP拠点:WOODBERRY COFFEE 荻窪店

平)…平間(4Nature代表)
オ)…大神さん(&FARM YUGI/農家)

農家になる前

弟さん(左)とツーショット。笑顔もそっくり。

僕、好きなんですよ。人の笑顔とか、楽しんでいただくことが。

平)本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、自己紹介をお願いできますか?

オ)私は&FARM YUGIという農業法人の会社の代表、大神と申します。どうぞよろしくお願いいたします。福岡県の糸島市出身です。実家は農家で、お米とミカンを作っていました。東京に来たのは10年前ですね。2013年2月23日、3人で立ち上げた会社が今年で10年経ち、11年目に入ります。

平)ありがとうございます。福岡の農家のご家庭にお生まれで、今は八王子で農業をやられているのですね!ご実家の農業を継いでいる訳ではないのですね?

オ)そうですね。この八王子で今農業をやっているというところに関しては、これは本当に、嘘でもなく出会いとか、運命的なご縁もあってですね。元々ここに来ようと思ってきた訳ではないんです。
都心でも緑地とかが借りられるようになってきましたけど、昔は東京で農業をやろうと思ったら、畑が空いていないタイミングもあり、借りられる場所が限られていました。僕は、タイミングもそうですが、出会った人たちとの出会いやご縁のおかげでこの土地に辿り着きました。

平)東京に出てきた時に、八王子に住んでいたとか、元々八王子が好きだった訳ではないのですね!子供の頃から、農業をやりたかったのでしょうか?

オ)そうですね、実家の農家の手伝いをずっとしてきて、絶対にやりたくないと思っていました。
シンプルにきつい。親がもう休みないっていうのが当たり前で、ずっと仕事している感じだったんです。特に兼業農家だったから、その他の仕事もしながらなので余計に、そう感じたんですかね。正直なところ良いイメージはなくって、農業をやるつもりも全くなかったんです。

落ち葉や牛糞などでできた自然由来の堆肥。野菜本来の力で育つように、堆肥は野菜に必要な最低限の量で。

平)では、高校生〜大学生の進路を考えるタイミングでは何をやりたいと思っていたんでしょうか?

オ)ここで言うのは恥ずかしいのですが…。15年ぐらい前になるのですが、芸人をかじっていたんです。芸人になろうと思って、実は東京に出てきています。名古屋の方で数年活動して、そこから東京に出てきました。

平)そうなんですね!お笑いをやりたい理由やきっかけはなんでしょう?

オ)僕、好きなんですね。笑っていただくことが。笑顔とか楽しんでいただくことが、すごく好きなんだと思います。だから、この会社を作った当初も農業の生産だけではなくて、イベントを開催することも多かったですね。
農家って、もっと発信ができれば知ってもらえるし、まだ伝わりきれてない部分も多いと思う。僕は、農業を楽しく伝えていける農家になれるといいなと思っています。

平)面白いですね。子どもの頃は農家にならないと思った自分と、今は農業をもっとこういう風に発信した方がいいんじゃないかっていうところ。この間に何か心境の変化があったんでしょうか?

オ)そうですね。僕は、30歳で東京に出てくるタイミングで結婚をしたんです。その時ですね、芸人を諦めていた訳ではないのですが、ふと立ち止まった時に“芸人だけ”はダメなんじゃないか?と思ったんです。僕の今までで一番触れてきたものは何かということを考えた時、農業が選択肢に入ってきたんですよね。

平)“芸人だけ”はダメなんじゃないか?というのは、収入的な部分なんでしょうか?

オ)収入もですが、生き方的な部分ですね。結局のところ、まだ芸人をやっているよりも、農業やっている方がまだマシだなって思われるじゃないですか。多分。芸人さんは、東京に出たからって売れるわけじゃない。
だから、結果これで良かったと思われるのですが、農業は農業で大変ですね。

のどかな緑を背に、建設してまだ間もないビニールハウスが2棟。



ハウスではトマトやバジル、ナスや空芯菜と夏野菜のパレード。

平)農業を福岡の地元以外でやろうと思った時、最初に何から始めたのでしょうか?

オ)東京で農業できるのか?という疑問がありましたね。まずは調べて、色々な農業窓口のようなところに電話しました。東京でもし農業したいんだったら、ここに聞いたらいいよと東京都農業会議というところを紹介されたんです。その時は、農業ができるのかな?という段階で、すぐに就農しようと思ってはいなかったんです。選択肢の一つとして考えていましたね。
ですが、そこから出会っていく方達のおかげで、就農ではありませんが研修に入れるようになりました。

平)研修は八王子ですか?そこはいわゆる今と同じような農業のスタイルだったんですか?

オ)研修先は八王子です。農業のスタイルは全く違いますね。今は農薬を使わずに育てていますが、そこは普通の慣行農業でした。すごく広い畑で品目は少ない。

平)そこでの研修後に、こちらで自分の農業を始めたんですね!

オ)はい。ここの畑を借りる時にもご縁が発生したんですよ!東京都農業会議に僕が電話した、まさにその日の午前中に、八王子の農家さんが困ってて人が欲しいという電話がかかってきたらしいんです。その畑の他にも、もう1件紹介してもらえる場所もあったのですが、これはご縁だと思って、八王子の同じ日に電話があった畑にしたんです。

農家になった今

ちょっとの傷で野菜が売れないって誰が決めてるのだろう?

平)この八王子の農場は、どういう場所ですか?

オ)八王子の堀之内というところで、すぐ近くに多摩ニュータウンがあります。牧歌的な雰囲気がある場所です。実はこの場所は、都市計画で山を崩し、埋め立てて開発される予定の場所だったんです。ですが、「都市にも農業があっていいんじゃないか?ここの土地を残そう」という反対運動が起こり、守られた場所になります。

平)ここに住む人たちにも想いが深い場所なのですね!土質には何か特徴がありますか?

オ)上の方は田んぼで、下の方は畑になっています。やはり、上の方は少し粘土質ですかね。水は割と豊富にある方なのかな。農業環境としては畑もしやすいです。

平)畑は今、どれくらいの規模になっているのですか?

オ)計3カ所に畑が分かれていて、合計10反くらいですね。年間で野菜は40品目ぐらい。野菜セットを組んだ時にほぼ別の野菜になるように、ほぼ被らないくらいの品目ですね。

CSA LOOPの野菜をメインに育てている畑。奥にはピザ釜も。

平)この土地で作りやすいというか、美味しい野菜というと何になるのですか?

オ)ここの場所を生かせているかどうかはわからないんですけど、僕はルッコラが好きです!

平)ちなみに生産方法にこだわりはあったりしますか?

オ)今は有機農法していて、有機JASを取ろうとしています。なので、有機JASで認められてる肥料と堆肥を使用しています。農薬は使っていないですね。堆肥も地域のものを使いながら育てています。

平)今は有機農法されていますが、研修先は慣行農法だったんですよね。ちなみにご実家はどうでしたか?

オ)実家は減農薬でやってたので、割と昔からその意識は持っていたのかなと思います。今思い出しましたけど、合鴨農法をやっていたんですよね。それが、とにかく大変。田んぼの周りにネットを張って、そこに追い込むのが毎回一苦労でしたね。最後は追い込んで捕まえなきゃいけなくて。

平)子どもが手伝わされそうな作業ですね!ご実家では減農薬でやられていた訳ですが、ここで畑を始めて、無農薬にしたきっかけなどはあるんですか?

オ)それはもう、自分に子供が生まれたのが一番大きいですね。初期は収穫体験をよくやっていたんです。収穫した野菜をその場で食べるって、やっぱりいいじゃないですか。農薬を気にして、野菜一つひとつを熱心に洗わずにそのまま食べられる。農薬を使わなくていいんだったら、使わない方がいいんじゃないかって。

畑の近くにはランチや休憩に最適な場所が。採れたての野菜でBBQにもってこい!



畑の奥では、ヤギさんとこんにちは。

平)ありがとうございます。今の主な販売方法のお話しを聞いてもいいですか?

オ)CSA LOOPのような対面販売と、定期便。あとは、飲食店は少ないですが使っていただいているところがあります。あとは、卸しですね。幅広くやっていますが、給食用が割と大きくなってきていますね。給食専用に借りてる畑もある。

平)個人の方への販売は、対面販売が理想ではあるのでしょうか?

オ)そうですね。基本的には対面販売をできる限り増やしていきたいと思っています。CSA LOOPを始めたのもそういう想いがあって、ですね。

平)まさにお笑い芸人さんのように、笑っているのを直接見られる方が自分の喜びに繋がるのですかね!

オ)まさにそう!あと、最近感じるのは、ちょっとの傷で野菜が売れないって誰が決めてるのだろう?って。1カ所ちょっと傷があったらもう食べてもらえないなんて、ちょっと腑に落ちないというか。なんでしょうね、直接お客さんと話していれば「そんな傷、気にしないよ」となることもあると思うんです。今、人がどんどん減っているのなら、大量に作って大量に出荷する形よりも「そういうのでもいいよ」と言ってくれる関係性とかが作れたらいいなと思っています。

平)コミュニケーションの中で理解してもらえるんだったら、そういう選択をしていきたい。

オ)そうそう。みんながこうじゃなきゃいけない、ってちょっと堅苦しい気がするんですよね。市場の人や流通の人が決めた綺麗さを皆んなが求めている訳でもないというか。環境負荷がかかっていない方が、皆んなにとって良かったりすることもあるんじゃないかなっていう気がしてて。
できる限り顔が知れてる範囲で、買っていただくとか、食べてもらって感想いただく方が、自分には合っているのかなという気がします。

これからのこと

「農業ってこんなことをしているんだ!」と知ってもらうことで、ちょっとでも許せる“優しい社会”になったら

平)今年、もしくはこれから、こういう農園にしていきたいなみたいなことはありますか?以前からあった構想や想いがあれば教えていただけますか?

オ)CSA LOOPをサービスとして提供する、と言いますか。僕だけで、こだわって進めてしまっていたかもしれない、と感じています。多分、お客さんの求めていることや、お客さんがやりたいことを一緒にやるっていう環境が作れなかったんじゃないかと思うんです。
会社を動かしていると、それだけではダメになってきたりすることもあると思うんです。皆んなと楽しむ、自然と皆んなで一緒にできる形や関係性を築けたら良いじゃないかと思っています。そういう意味でも、直接買っていただける、顔が見える関係性を大切にしたいです。

平)全てを直接買いに来るというのはやっぱり難しいですが、消費者と生産者という考え方ではなくて、なんかそこの、つくると食べるということの関係性がグラデーションになっていくといいですよね。

オ)そう思います。例えば、僕らのところで農業について知ってもらったら、他の農家さんにも想いを馳せるかもしれない。例えば、さっき話に挙がった野菜の小さな傷とかですよね。そういうところの理解や優しさが生まれると思うんです。
だから僕らの農業や畑というよりも、「農業ってこんなことをしているんだ!」ということを知ってもらうことで、ちょっとでも許せる“優しい社会”になったらいいな、と思います。

平)“完全”だけが許される社会じゃなくて、ですね。

オ)完全にしようとしても、畑なんて完全にならないしね。自然を相手にしたら、自分の予定通りになんてならない。その点CAS LOOPでは、毎月1回同じ拠点で同じ人に会える。メンバーの皆さんにもお店の方にもかなり支えていただいたんですよね。こういう形の繋がり方があるんだなっていうのはすごく感じたし、面白いなと思います。

平)“生活と農が近くなる”感覚というか…!

オ)そうそう!ここの土地も「都市にこそ農業が必要だ」ということで、反対運動が起きて守られた。なんか、いいじゃないですか。都市に農地があるっていうのは。近くに触れ合える自然であったり、そういう畑があったら、すごくいい。公園に行って楽しむのも良いけど、畑に行って楽しむ、そんなスタイルが普通になったら良いな、と思います。

都内にいながら、都内じゃ感じられない自然と触れ合う。「都市にこそ農業が必要だ」

&FARM YUGI

住所:

東京都八王子市堀之内