土のにおいに誘われて|池田農園
プロフィール
池田農園|池田奨平さん
農家16代目として、栃木県栃木市藤岡町で米と少量多品目の野菜を育てている。野菜は無農薬・無化学肥料。種をまた次の年、さらに先に繋げていけるよう、種の自家採種にも取り組んでいる。最近のマイブームは“きのこ狩り”。お宝探しのようでついつい夢中になってしまうそう!
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CSA LOOP拠点:HEYCOFFEE
平)…平間(4Nature代表)
い)…池田さん(池田農園/農家)
農家になる前
今はもう自分が経営者という立場になりました。自分の好きなように、好きな農業を始められる。正直、失敗だらけ。毎日やることも多いけれど、楽しいですね。
平)本日は、よろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介からお願いしても良いでしょうか?
い)初めまして。栃木県最南端の栃木市藤岡町で農家をやっている池田です。主に、お米とか少量多品目の野菜を栽培しています。野菜は、無農薬・無化学肥料で挑戦しています。よろしくお願いします。
平)よろしくお願いします。池田さんは農家16代目なんですよね!この辺だと16代目まで続いている農家は多いのでしょうか?
い)長く続いている家は、ちらほらとありますね。結構不確かな情報ではあるんです。家の名簿を見ていったら、大体16代目なんだなって。
平)そうなんですね。CSA LOOPに参加していただいている農家さんって、どちらかというと新規就農の方々が多いんです。子ども時代から、農業を継ごうと思っていたんですか?
い)やろうとは思っていなかったです。でも、やるのは確定している、みたいな感じがありましたね。
物心ついた時には農業手伝っていて。「お前はこれをやるんだぞ」とは言われないんですけれどね。もうこれはやることであり、周りからは跡継ぎがいて羨ましいなって言われる。もう自然に農業やる身なんだと思って、何も考えずに農業高校、農業専門学校に行きました。
平)じゃあ、自分の中で農業が嫌だって思うこともないし、農業やりたいって強く思うこともあんまりなかったのですかね?
い)専門学校の最後、いざ卒業して就農するってなった時に、やっぱり農業やりたくないって思ったんです。別の就職先を色々探したりもしました。なので最初はイヤイヤ始めた感じですね。
平)まるでマリッジブルーみたいですね!子ども時代、農業はお手伝いというよりかは、休みの時があれば、という感じで関わっていたんですか?
い)そうです。逆に友達と遊びに行く時は、最初にまず「仕事大丈夫?」って。「この日遊びに行きたいんだけど手伝わなくていい?」みたいな感じで聞いてから遊びに行っていました。
平)生活の中心に常に農業があったのですね。
その時、親御さんだけじゃなくて周りの農家さんたちも含め、農業に対してどういうイメージを持たれていたんでしょうか?
い)結構昔と今でイメージは変わっていますね。昔は本当に大変で、汚れるし、やることはいっぱいあるし。もう休みなんかないし。誰がやるんだ、ぐらいな。
本当は友達と遊びにいっぱい行きたかったですしね。部活も、送り迎えできないから、という理由で、本当に入りたかった運動部には入れてもらえなかったんです。大会とか色々ある時に、一緒に行けないから。だから最初は農業が嫌いでした。今思えば。
だけど嫌いとは言えないし。自分の家族がやっている仕事だから、嫌いだとは思いたくない。
平)それはご両親の姿を見て大変そうな姿を目の当たりにしていたからこそ、でもあるのかもしれませんね。今はどうですか?
い)昔はこれを“やらなくちゃいけない”という気持ちでやっていました。義務感のような気持ちですね。
だけど、今はもう自分が経営者という立場になりました。自分の好きなように、好きな農業を始められる。正直、失敗だらけ。毎日やることも多いけれど、楽しいですね。
平)いいですね。手伝いから、主体的にやることでだいぶ気持ちが違ってきたのですね。農業学校卒業してからは、一旦ご両親の畑をお手伝いしていたんですか?
い)そうですね。まずは家族の農業を手伝う従事者として働きました。そこで3、4年働いたら、もうお前が経営者だって渡されたんです。
平)3、4年ですか!独り立ちするには、早めな方ですかね?大学で農業学校出ているから、そこで学んだことも踏まえての勉強期間なのでしょうか?
い)正直な話、中学卒業してそのまま家の農業に就農しても、一緒だったような気がします。昔から畑仕事を手伝っていましたからね。実践的なことは、やっぱり畑で働いてみないと分からないことの方が多い。
平)ちなみに、有機農業を始めるきっかけはなんだったのですか?
い)自分が作業していて農薬を撒くのは嫌だし、化学肥料で手もビリビリするんです。そんな野菜を食べるのってどうなんだろう、と。それを売るっていうのも嫌だな、と思ったんですよね。やっていて楽しくない。
一番大きな影響は、うちの父が有機栽培に変更したことですかね。給食で子どもたちに出すナスを育ててほしい、と依頼がきたんです。でも、その依頼の仕方が、前日まで農薬撒いた野菜でいいから、みたいな感じで言われたそうなんです。それは、やっぱりおかしいんじゃないかっていうところから、父は有機栽培を始めたんです。
平)それは、池田さんがおいくつくらいの時の話ですか?
い)25、26歳ぐらいの時ですかね。
平)4、5年前ぐらい。割と最近の話ですよね。今まで、お父さんも何十年と農業やってきた中で「栽培方法を変える」という決意されたんですね。なかなかできない決断ですよね。
い)そう思います。厳しくもありますが、柔軟な父なのかもしれませんね。自分も農業に思いっきり突っ込みたくなくて、一歩引いてたところはあったんですけれど。そこをこれからやっていけって、渡されたように思います。
農家になった今
種をどんどん繋いでいく、自家採種することを大切にしています。今年最後まで残った野菜を繋ぐ。だから、強いですよね。美味しさにも差がある気がします。
平)今はどのような野菜を育てていらっしゃいますか?
い)色々な野菜を育てているのですが、そのほとんどが挑戦中でもあります。毎年毎年畑で育ててみて、畑に合う野菜を探している状態ですね。
安定して育つのが、ちぢみほうれん草、ナスやオクラ、ピーマン、ミニトマト。あと、スティッキオという、ちょっと珍しい野菜とか。今年はパッションフルーツもやろうと思っています。
平)年間でいうと何品目ぐらいになるのでしょうか?
い)40品目ぐらいですかね。
平)毎年畑に合うものを残していっている状態なんですね。池田さんが育てていて、一押しの野菜は見つかりましたか?
い)そうですね、ピーマンはすごい褒めていただけました!ちぢみほうれん草も「ものすごく甘い」と言っていただけて。オクラも結構美味しくできた。
重要だと思っているのが、種をどんどん繋いでいくことです。自家採種することで、年々強く、美味しくなっているように思いますね。4、5年前にものすごい台風が来たじゃないですか。あの時に30本ぐらいあったピーマンがほとんどやられちゃったんです。でもその中の4、5本残ったやつを今も繋いでる。だから、強いですよね。美味しさにも差がある気がします。
平)強い野菜が生き残って、そこからさらに繋げていくから、どんどん種自体もその土地に合っている野菜が育っていくのでしょうね。この畑の地質や、土にはどんな特徴がありますか?
い)そうですね。この辺の土は、特に乾燥しているとかではないんですけれど、雨が全然降らない。本当に1ヶ月くらい雨が降らない時は、ざらにあります。その分、降る時は土砂降り。風も強いですね。土は悪くないけれど、環境はちょっと厳しいところではありますね。
平)田んぼを畑にしたところも多いですか?
い)ここは元々畑ですね。でも、田んぼから転用した土地もあります。
平)田んぼをCSA LOOPの会員さんで田植えとかできたら面白いんじゃないか、と思ったのですが難しいのですかね?
い)無農薬でお米づくりをする場合って、雑草の対策がすごく難しい。うちは植えた苗の間に除草機っていう機械を通しているのですが、その作業は苗がまっすぐ植っていないと苗を踏んじゃうんです。
私でも植えると結構曲がるんですよ。だから、結構難しい。その代わり、無農薬ではない田んぼの田植えだったら、ちょっと曲がっても大丈夫。お子さんも体験して面白いと思います。
平)なるほど。池田さんでも田植えの作業は難しいのですね。育てた野菜は、どのように販売されているのですか?
い)今は知り合いのレストランに買っていただいたり、個人の方から野菜のご注文をいただいたりして販売しています。
平)野菜を販売するときに大切にしていることはありますか?
い)やっぱり喜んでもらえるのが1番ですね。喜んでもらえるように少し量を調節したり、ちょっとしたプライズみたいなのを入れています!
平)サプライズって例えば、どういうことですか?
い)例えば、肥料で酒かすを使うんですけど、その酒屋さんからもらってくるものを少しだけ一緒に入れました。あとは、量を1割増しにしたり、「なんだこれ」っていう変わり種の野菜を入れたり。そんな感じですね。
前まで手紙を書いていたんですけれど、なかなか、結構大変な作業でもあって。今でも届けたい想いは変わらないので、代わりにコミュニケーションの中で伝えていきたいですね。
これから
ずっと農作業やっている側からすると、農作業って、大変だし、やりたい人なんていないだろうとついつい思ってしまいます。でも、そうじゃないってことに気付かせてくれましたね。
平)5年・10年先でもいいですし、今後こういう農園にしていきたい、などのイメージはありますか?
い)安定的な出荷ができてないのが問題点ではあります。いろんな野菜はあるんですけれど、全部少量です。レストランで使っていただける時も、これだけしか出せないんですっていうやりとりがどうしても多い。色々な品種を育てても、ある程度の量を出せるようにしたいですね。
今後はレストランなどと連携して、自分の野菜をたくさん使ってもらいたいです。
平)ありがとうございます。池田さんは昨年からCSA LOOPにご参加いただいていますが、1年間やってみていかがでしたか。
い)消費者の方と繋がれた、というのが大きいですね。対面販売する機会ってあんまりなくて。それが月1回、毎月同じ方と会って交流できるっていうのはすごくいいなと思いました。
平)メンバーさんとの会話の中で、印象的な話とかありますか?
い)「他の野菜と違う」と言ってもらえたりだとか、次を楽しみにしてくださったりとか。もっとこういうことしたいって言ってくれたり。やりたいこと、できることの幅が、すごく広がった気がします。
畑に来て農作業やってみたい、と言っていただくことも多いですね。ずっと農作業やっている側からすると、農作業っていうものは、大変だし、やりたい人なんていないだろうとついつい思ってしまいます。でも、そうじゃないってことに気付かせてくれましたね。
平)何か大変だったことはありますか?
い)うちは米もやっているので。4〜6月の田植えの時期は、野菜になかなか手が回らない。会員さんに野菜を出せないっていう連絡をしたことがあるので、結構心苦しかったですね。
平)野菜を出せないって言った時、メンバーさんの反応はいかがでしたか?
い)「じゃあ、別の月でいいよ」という、すごい温かい方ばっかりでした。それは本当に有り難かったです。
平)お米づくりに限らず、自然災害などの場合も同じように野菜を用意できないこともありますよね。自然を相手にしていると、どうしても起こってしまうことでもありますしね。そこへの理解が、池田さんと会員さんとの会話の中で生まれたのかもしれませんね。
い)はい。ただ優しさに甘えちゃいけない、失礼があってはいけないと思ってはいます。ご連絡とかやりとりもそうですね。
平)池田さんの野菜や池田さんの人柄を気に入ってくださった人たちが、種を繋ぐように、毎年毎年繋がっていって強い関係になっていったら良いですね!
い)確かに!無理すればいくらでもお付き合いとかできるけれど、 やっぱり自分の素っていうのをちゃんと理解していただけたら、お互いにとっても良い関係になれそうです。お互いに素を出し合って、理解し合えたらいいなと思います。
毎日朝から日が暮れるまで畑作業しているので、みなさんの言葉は嬉しいし、沁みますね。
平)朝とかって何時ぐらいから畑に出られるんですか?
い)寒い季節は凍っちゃうので朝7時とかが多いんですけれど、夏場は朝が早い。去年は3時半ぐらいに起きた時がありました。
平)3時半に起きるのは、収穫があるからですか?
い)草刈りですね。米の周りの草刈りもやりたいし、自分の畑もやりたいってなった時に、やっぱり収入源は米なので、米優先になっちゃう。なるべく米を早く終わらせて、畑に行きたい、みたいな感じでやっていたんですけれど、流石に疲れちゃいますね。
平)お米もやって、畑もやって。今はお米のメイン作業は、お父さんたちがされているのですか?
い)そうです。ゆくゆくは米も引き継ぐことになります。ただ、私としては米を縮小して、無農薬の野菜をメインにできたら、と思っていますね。米は、どうしても経費がかかってしまう。
ただ、今のところ収入源は米なので、そこのバランスがとても難しいですね。
平)米の栽培もお手伝いできたらいいな、と思うのですが難しいのですかね。田植えは技術が必要、という話はありましたが、他に人手が必要としたらどんな作業がありますか?
い)そうですね、田植えの前に種まきをやって。その種から芽が出たら、苗を広げるんですけど、その作業が1番大変。腰が痛くなるというより、腰が“いかれる”作業。
平)単純労働といいますか、力仕事なわけですね。ですが、ぜひ体験してみたいです。そうすることで、お米のおいしさもより一層引き立つかもしれないですよね。
い)うちの場合、無農薬の米と普通の米の違いが顕著に分かると思います。品種が同じ米もあるので。無農薬の方は草がぼうぼうの田んぼだけど、普通に慣行栽培する田んぼ、農薬を使うところの田んぼは綺麗なんですよ。見た目からも違いがわかりやすいかもしれないですね。
平)確かに、それは面白いです!畑に行きたい、と思ってくれている会員さんもいらっしゃるので、池田さんの負担にならない範囲で、機会が増やせるといいですね!
い)去年1年間やってみて、後悔というか、残念だなと思っていることがあって。消費者の方と、お客さんと直接コミュニケーション取れる場をもらっているのに、上手く活かせていないといいますか。なかなか、まめなコミュニケーションの取り方ができていないなって。今年はそれを改善して、メンバーさんとより交流したいな、と思います。