土のにおいに誘われて| 冨澤ファーム
プロフィール
冨澤ファーム|冨澤剛さん
東京都三鷹市で、農家・4代目として野菜をつくっている冨澤さん。育てているのは、美味しい野菜“だけじゃない”。「畑のオープンキャンパス」を開き、毎月1回の農業体験を開催している。作業を手伝いに来た人は、体を動かしてリフレッシュ!また、冨澤さんと話すと悩み事が飛んでいくという声も多数。職業は「人を笑顔にする」こと。
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CSA LOOP拠点:野菜と酒 Sprout
平)…平間(4Nature代表)
と)…さん(冨澤ファーム/農家)
農家になる前
もっと農業が格好良いと思ってもらえるような職業になったら良いな、と。仕事着を見直して、見え方から変えていきました。「農家っぽくないね」って言われたかった。
平)本日は、よろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介からお願いしても良いでしょうか?
と)東京都三鷹市で野菜農家しております、冨澤ファーム4代目、冨澤剛と申します。よろしくお願いいたします。
平)冨澤さんは農家4代目でいらっしゃいますよね。小さい時からご両親が農業している姿を見ていたかと思うのですが、その時からお手伝いはされていたのですか?
と)野菜の苗を栽培する時に、ポットに土を入れるような作業があったのですが、お小遣い欲しさにその作業を手伝っていました。ガンダムのプラモデルが欲しくって。
平)その頃はなんでしょう。農業に関心があるというよりかは、プラモデルのお小遣いのため、というような感じでお手伝いされていたのでしょうか?
と)そうそう。あとは、僕、次男坊だったから。兄がいるので、こういった家業は長男が継ぐことが多いですよね。だから、まさか僕が農場を継ぐっていうのは、その時は全然思っていなかったのです。農場は、遊び場という感覚が近かったですね。
平)その後の進路はどのように進まれたのですか?学生時代、農業に関心はあったのでしょうか?
と)高校も普通の公立学校に通っていました。歴史が好きなので、大学に行って歴史の教師になりたいと思っていたんです。ただ、僕の世代が第2次ベビーブームの世代で、単純に就職する人の数も多かった。教員の倍率もすごく高かったんです。当時から僕は、強豪がいっぱいいるところでは勝負しない、みたいなところがあって。教師は途中で諦めて、違うところで戦おうと決めました。
結果、地元が好きだったので、地域の会社に就職しています。4年ほどサラリーマンしていました。
平)サラリーマン時代が間にあったのですね!会社に勤めて、そこから農業に戻ってくるきっかけは何なのでしょう?
と)僕が大学生時代、すでに兄が農業を継がないことが分かってはいたんです。兄が結婚したのですが、お相手にも家業があるので、向こうに行ってしまったんです。僕も「あれ?」と思いましたね。こっちも心の準備ができていないと言いますか。
なので、3、4年自分と向き合いながら、サラリーマンをしていました。4年くらい経ってやっと、農業をやってみようと決めました。
平)当時は、両親からの説得もあったのでしょうか?
と)ありましたね。でも、自分の意志で決めるべきだと思ったので、時間をかけて向き合わせてもらいました。そこから、ちゃんと両親に農業を教わるようになりました。
平)冨澤さんは、今までの農業とは違うような、新しい取り組みをされていますよね。最初から、今までの農業を引き継ぐというよりは、新しいことに挑戦してみたいという気持ちがあったのですか?
と)当時は、まだ農業に対するイメージがあまり良くなかった。言い方が悪いですが、農業って年配の方が多くて、身だしなみも気にせずに土まみれで働くような。そうじゃなくて、もっと格好良いと思ってもらえるような職業になったら良いな、と思っていました。
なので、最初は仕事着を変えてみました。見え方が変わるかな、と。「農家っぽくないね」って言われたかった。
農家になった今
元々痩せた土だったところを、300年、400年かけて先人が豊かな土壌に変えてくれた。そういった土地で、僕は今農業させてもらっている。すごくドラマがありますよね。
平)現在は年間どれくらいの野菜を育てていらっしゃるのですか?
と)種類でいうと、年間30種類くらいですね。露地栽培とビニールハウス栽培、両方あるので、露路では作れない時期の野菜も収穫できます。中でも、3〜4月に江戸東京野菜の「のらぼう菜」という、菜花の大きい野菜が推しの野菜です。やっぱり東京で農業しているので、そういう東京でかつ歴史のある野菜は、ここの特産品にできたら良いですよね。
平)野菜を育てる上で、冨澤さんがこだわっているところはありますか?
と)地域資源の循環、というところを大切にしています。循環に伴った、土づくりですね。僕の住んでる市内に“国際基督教大学”という、キャンパスが森の中にあるような大学があるんです。なので、季節になると落ち葉がすごい。その落ち葉を使って、腐葉土や堆肥にして畑に使っています。
他にも“東京農工大学”が近くにあって。馬術部が、馬糞の処分に困っているというのを聞いて、馬糞ももらっています。馬糞は、すごくいい堆肥になるんです。最近では、米ぬかを使った酵素浴サロンから、使い終わった米ぬかをもらっています。
地域の課題なんかを、食とか農業の力でなんとか緩和したい、解消したい、みたいな思いもありますね。
平)このあたりは、住宅も多くて都市型農業という印象を受けます。ここの土質など、どういう特徴がある地域なのでしょうか?
と)江戸時代より前は、ここにはほぼ人が住んでいなかったらしいんですよ。関東っていうのは、富士山からの火山灰の影響もあって赤土に覆われていた。ススキぐらいしか生えてなかったような、そういった場所だったらしいんです。そこに江戸幕府が、玉川上水を敷いて、その周辺に水田を作っていったわけなんですけれど、最初の頃は、作物が上手く育たなかったようです。300〜400年も前の話にはなりますけれどね。
そこで、先人たちはどんぐりの木や楢(なら)の木を植えるんです。そこでできた落ち葉を堆肥にして、土づくりをしていった。元々痩せた土だったところを、300年、400年かけて黒ボク土にしてくれたんです。そういった土地で、僕は今農業させてもらっている。すごくドラマがありますよね。
平)土って、1cmできるのに100年かかるみたいな話も聞きますし、この土の恵みっていうのは、ご先祖の方々が積み上げてきたものなんですね。冨澤さんが今、こうして地域の方から資源を集めて土づくりをされているのは、また数百年後のある意味、子孫にも繋がっていくのでしょうね。
と)土で繋がるといいますか、ね。色々と想いを馳せながら土づくりや野菜をつくっています。ここも30cmくらい掘ると、赤土なんです。だから、本当にこの30cmくらいが300〜400年の積み重ねでできているのが分かるんです。
平)今では、人が住むエリアの地面はアスファルトで覆われているところがほとんどですからね。そういう意味では、昔の人との繋がりを土で感じる、みたいなことは結構難しくなってきているのかもしれないです。
土づくりのお話で感じましたが、冨澤さんは地域の方との結びつきが強そうです。地域の人とはどのように繋がっているのでしょうか?
と)そうですね。つくった野菜は市場には出しておらず、100%直売です。例えば、農場の近くに無人のコインロッカーを置いて、販売しています。なので、購入してくれる方はほぼ地域の方ですね。地域の方に喜んでもらえる、必要としてもらえる農場を目指しています。
ここが地元でもあるので、地域の色々な役も回ってきます。消防団や交通安全協会などですよね。そういったところでも活動しているので、農家以外の活動している姿を見てくれている人はいます。なので、地域の方ともトラブルなく続けられています。
平)農業以外の場面でも、地域の方とのコミュニケーションを取られているのですね。気になったのは、100%直売という売り方のところで…!無人コインロッカーでの売り方以外に、どのように直売されているのですか?
と)農業を手伝い始めた頃は、半分くらいは市場に出していました。ただ、市場に出すと自分で値段が決められないんですよね。全国の相場で値段が決まってしまう。それこそ、6個〜10個入りのキャベツを段ボール1箱持っていって、100円とか。段ボール代よりも稼げないみたいなことが起きていたんです。時給だと300円とか500円。むしろ経費の方がかかっている。なので、だんだんと市場出しを減らして、別の販路を見つけようという考えに変わっていきました。
そのうちデパートのバイヤーさんと繋がって販売させてもらったり、農協の共同直売所や学校給食だったり、だんだんと販路が広がっていきましたね。
平)価格を自分で決められるっていうところが大きいと思うのですが、直売ならではの難しさはありますか?
と)天気に左右されますよね。雨が降っちゃうと、お客さんの足も遠のく。野菜を採りすぎても、余ってしまうこともあります。なので、たくさん採れた時の分を出荷できる販路が欲しいな、というところで学校給食があります。学校給食は向こうから依頼受けた分を、こちらも用意すればいいので、作付も収穫もある程度計算できます。
ただ、だんだんとお客さんと直接やりとりしたいな、という気持ちも芽生えてきて。なので、そういったタイミングでCSA LOOPへの参加も決めましたね。
これからのこと
農業はあくまで手段。僕がやりたいのは、人の「笑顔をつくる」ことなんです。
平)昨年から、CSA LOOPにもご参加いただいていますが、上手くできたこと、できなかったことはありましたか?
と)他の拠点と違って、僕は元々お知り合いのカフェで野菜の受け渡しをさせてもらっています。そもそも、CSA LOOPのお話をいただいた時に、僕の方からここのお店とやっていいですか、と相談させてもらった経緯もあって。なので、お店との雰囲気は元から良かった。なので、会員さんもお店と馴染みやすかったのかなと思います。
最初の頃は、野菜を受け取ってそれでおしまいみたいな感じでしたが、だんだんと会員さん同士が知り合いになって、一緒にランチするようになって。ただ、まだ本当にそういった方は、会員さんの一部。今年は、全員が全員とは限らないですけれど、より多くの人が、毎月1回来るのが楽しみになるようなコミュニティにしていきたいなと考えてます。
平)冨澤さんの活動の中で、「畑のオープンキャンパス」という取り組みがあるかと思います。ぜひ、どのような取り組みか教えていただいてもよろしいでしょうか?
と)「畑のオープンキャンパス」は、1年ほど前から始めています。発端は、レストランとのお取引ですね。そこのレストランが、従業員を連れて畑のお手伝いにきてくれるようになったんです。
そこで畑に来てくれた方々が、農作業してストレス発散といいますか、リフレッシュしてくれる姿を見ました。コロナ禍で、お手伝いしたいっていう人が増えたこともありますね。農作業したいって方が、一定数いるんだなっていうのが分かったんです。
であれば毎月1回、そういうオープンな日をつくろう、ということで「畑のオープンキャンパス」がはじまりました。
平)具体的には、どんなことをしているのですか?
と)基本的には僕のお手伝い。難しいことはやっぱり任せられないので、栽培が終わった野菜を片付けたりとか、土に敷いているマルチを剥がしたり。そもそも、片付ける作業なので、失敗もない。とはいえ、肉体労働ではあります。
平)一般的に、農園や畑に行ったことがある人の多くは、収穫体験とか、エンターテイメント性のあるイベントへの参加がほとんどだと思うんです。でも、農業の大半は収穫のための準備や片付けという作業が大部分を占めていますよね。
と)普段の生活の中では、なかなか分からないことも多い。土に触れるということはもちろんですが、どうやって野菜が育っているのか、食のありがたみを改めて感じる機会にもなっているのかな。
平)すでに「畑のオープンキャンパス」という活動もされていますが、今後こんな農園にしていきたい、こういう農業がしたい、など、これからのイメージはありますか?
と)次の世代を担うような人たちの成長に繋がるとか、育てるようなこともやっていきたいなと思っています。うちに、農業を学ぶだけではなくて、「こういったことがやりたい」という夢を持っている人がいたら、それを応援できたら。
週に2、3回カフェで作業する場所を「サードプレイス」と呼ぶことがありますよね。「サードプレイス」とまではいかなくても、『フォースプレイス』みたいな。月に1〜2回、畑に体を動かしてリフレッシュしに来る。
休みの日に畑に来て、「また明日から仕事頑張ろう!」って思ってもらえる。そういう憩いの場にしたいと思っています。同じ時間に同じ体験を共有した人たちって、自然に仲良くなるんですよね。
「畑のオープンキャンパス」では、お礼にランチを用意しています。なので、作業が終わったら一緒にご飯を食べる。そこで、知恵を共有し合ったりして、いい出会いや繋がりが生まれると、僕も嬉しいですね。人と人を繋げたい。農業はあくまで手段で、僕がやりたいのは、人の「笑顔をつくる」ことなんです。