土のにおいに誘われて| オーガニックファーム所沢農人

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今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第5回は、“オーガニックファーム所沢農人(のうと)”の川瀬さんのところへ。
この日は親子18組が畑に来るイベントがあり、同行してきました。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
オーガニックファーム所沢農人|川瀬悟さん
旬のおいしい野菜を通して、所沢の畑から皆さんの食卓までが有機的につながる野菜作りを行っている。栽培方法は、化学合成肥料・農薬を使用しないオーガニック(有機)。
小さい子どもから大人までが、風味、色味など五感をフルに使って“おいしい”を実感できる野菜を畑から食卓に届けている。料理も自分でよく作る川瀬さん。最近美味しくできたのは、無水でつくる「夏野菜カレー」。
公式HP
Instagram
CSA LOOP拠点:RAD BROS CAFE

平)…平間(4Nature代表)
カ)…川瀬さん(オーガニックファーム所沢農人/有機農家)

農家になる前

学生時代は森林生態学、多様性生物学、植物社会学などをずっと勉強していました。生き物は、昔からずっと好きですね

平)本日はよろしくお願いいたします!自己紹介からお願いしても良いでしょうか?

カ)オーガニックファーム所沢農人の川瀬と申します。よろしくお願いします。比較的都心に近い、埼玉県所沢市で農業しておりまして、年間150品目の野菜を栽培しています。野菜をつくるだけではなく、にんじんジュースやにんじんドレッシングといった加工品も少しずつ、つくり始めています。新規就農して6年目になります。

平)所沢農人という農園名の由来はありますか?

カ)農業を始めた時に、どこで何をしている人か分かる名前がいいな、と。「農人」は、農業の「農」に「人」。農業している人っていう意味だけではなくて、言葉を口にした時に、聞き馴染みの良い音が気に入ってつけました。

平)ありがとうございます。元々小さい頃から農家になりたいと思っていましたか?

カ)なかったですね。まさか自分が、野菜をつくって、販売して、それを生業にする農家になるなんて。正直考えていませんでしたね。

平)ご家族にやってらっしゃる方がいた、とかもないですか?

カ)両親も、いわゆる勤め人でしたが家庭菜園をしていました。ただ、農業を身近にやっている人はいなかったです。

平)では、子どもの頃は何に興味を持っていたのでしょうか?生き物や植物への関心はありましたか?

カ)学生時代は森林生態学、多様性生物学、植物社会学などをずっと勉強していました。特に、「森」をテーマにしていることが多かったですね。

平)そういう意味でいうと、昔から自然が好きだったのですね。では、大学で生態系の勉強して、そのまま農家になったのですか?

カ)学生が終わって、就職しています。10年ほどメーカーの物流部門で働いていました。メーカーの物流センターが集約してあるところで、全体の管理とかをするような仕事をしていました。

平)では、生態学や自然とは関係のないところで働かれていたのですね。

カ)関係ないですね。扱っているのは、生き物でもないですし。そこで働いていた知識を農業に直接活かせるような仕事ではなかったですね。

平)メーカーの物流部門に行きたいと思ったのは、なぜなんですか?

カ)今は野菜をつくっていますが、当時から「ものづくり」というところに関しては、自分にとって共通する大切な部分だと思っています。

初めて見た黒ピーマン。ツヤツヤで綺麗!



子どもたちもお手伝いに積極的。草取りに夢中。



平)その後、すぐに農業を始められたのですか?

カ)会社を辞めてからは、1年3ヶ月、埼玉県小川町で農業研修生として働きました。そこで、栽培技術や1年間の畑の回し方、農業事情を学びました。そういったことを学びながら、体力づくりをしていた感じです。

平)体力づくり!畑を動き回る足腰が重要なのですね。小川町を選んだのには何か理由があるのですか?

カ)理由は、2つあります。1つは、多品目のオーガニックというところで、比較的規模の大きいところで学びたかったからですね。小川町は全国的にも有名なオーガニックの産地にもなっています。もう1つは、都心に近いところで就農したいと思っていたので、就農する予定のところからも通える場所で考えていくと、小川町に行き着いた訳です。

平)なるほど。その時は、所沢と決まっていたわけではないのですね。都心に近いところで就農したいっていうのは、どうしてですか?

カ)やっぱりつくって終わりじゃなくて、食べるところまで考えるのであれば、消費地に近い方が良いと思ったからですね。
小川町で研修していた頃から、所沢に住んでいたので、土地勘といいますか。そういう点では、アドバンテージになると思いました。あとは、まさに所沢は都心へのアクセスが良い。高速道路も近いですし、インターからも近い。電車も歩いていける距離にあります。人も来やすいし、野菜も届けやすいですね。

平)ここからちょっと行ったらもう東京都ですよね。

カ)そうですね。すぐ周りは、高層マンションというか、高めのマンションや集合住宅があります。ですが、農園のこっち側は逆に何もないんです。境目をすぎたら、急に畑が待っているので、来られた方はそこらへんのギャップに驚くと思います。私もよく、こんな住宅街の真横にこれだけの農地が残っているな、と思います。

農家になった今

食べることのさらに先の、『美味しい』『幸せ』とかですよね。ただ食べるという行為だけじゃない、そこで終わらず、もうちょっと先までっていうところが、『農』の魅力かな。

平)今は何品目つくられていますか?

カ)毎回のお届けの種類は、10~15品目。年間を通してだと、150品目くらいあるんじゃないかと思います。野菜を箱に詰めて、野菜セットとしてお送りする形で販売していますので、バランスよくお届けできるようには意識しています。

平)毎回、10~15品目だと、かなり満足感のある野菜セットになりそうですね!自己紹介にもありましたが、現在はにんじんジュースなどの加工品もつくられていますよね。にんじんジュースの加工は、わざわざ新潟にある工場に持ち込んでいらっしゃるとお聞きしましたが、なぜ新潟の工場なのですか?近くにも工場はありそうですが…?

カ)そこの工場は、今でも有名な豪雪地帯なんです。冬の間は作業がなかなかできないので、昔から加工品のにんじんジュースをつくっていたところです。そこは20年ほど前から積極的に、同じように有機業界でやられてる人からニンジンを受け取って、ジュースにしているところなんです。
ニンジンそのものも美味しいですし、ジュースにした時のクオリティもすごい。製造としてのクオリティが高いと思っています。なので、そこでぜひ作ってもらいたい。

平)そこに運ぶ、苦労してでも持っていきたいと。マーケットなどでも、にんじんジュースは人気ですよね!

カ)ありがたいことに、飲んだ方には満足してもらえていると思います。ニンジンが好きな方もそうですけれど、苦手な人が飲めるというところも、多くの人に受け入れてもらえてるのかな、なんて思っています。

平)今の生産体制の話しもお聞きしていきたいと思います。そもそも畑って、どれぐらいの大きさで今やってらっしゃるのですか?

カ)現在、畑は4カ所に分かれていて、トータルすると1.6町ほどありますね。言い換えると、1万6000平米。ざっくりですが、約5000坪ですね。なかなか想像しづらいかと思いますが…。比較的1人でやるには十分な面積だと思います。特に多品目だと、細かくパッチワーク状に野菜を植えていく形になるので。それなりの広さが必要にはなります。

イベント中も皆さんの誘導や野菜のお話しをしながらテキパキと動き回る川瀬さん。

平)今、1人でつくられていると仰いましたが、1人で農業することにこだわりがあるのでしょうか?

カ)農業を始めた時には、1人で全部やってみたいという思いがあったので、それを今はやっているところですね。これからずっと1人、と決め込んでるわけではなく、今の時点では1人でやれるだけやってみて、自分の創意工夫の中で何ができるのか、課題を解決できるのか、挑戦しているところです。

平)先ほど、野菜セットの話も少ししていただきましたが、野菜の販売方法、どうやって野菜を届けるのか。その辺のこだわりについてもお伺いしたいです。現在の販売方法から、教えていただいても良いでしょうか?

カ)大きく2つですね。1つは、宅配。もう1つが、主に週末、都心で開かれるマルシェのような場所で野菜を直接販売しています。共通してるのは、どちらも食べてくれる方達に直接、販売しているというのが特徴だと思います。

平)宅配やマーケットといった、対面での販売に特化している。そこのこだわりや想いをぜひお聞きしたいです。

カ)野菜をつくって食べてもらう。その反応をダイレクトに感じたり聞いたりした方が、自分のモチベーションが上がりますね。野菜をつくっていて楽しいし、良い悪いもこうしなきゃという点が生まれてくる。なので、次に繋げるためにも、これからの野菜作りに生かしていきたい。その方が、野菜に対してのパフォーマンスは良くなる、と今の時点では思っていますね。

平)良いも悪いも知って、次に繋げる。それが美味しい野菜つくりに必要だということですね。栽培する上で、他にもこだわりはありますか?

カ)まずは、やっぱり美味しい野菜であること、ですね。あとは、季節の野菜を届けたいとか。オーソドックスな野菜だけじゃなくて、変わった野菜も届けたいとか。野菜を食べている皆さんの環境を知りたい、という想いもあります。
野菜単体だけではなくて、そこから何か繋がるもの。食べることのさらに先の、『美味しい』『幸せ』とかですよね。野菜を通して届けられるように、そんな野菜つくりをしたいですね。

次の畑に移動して、次は「ジャガイモ掘り」。子ども達も一生懸命掘り起こして、収穫していました。



数分でコンテナいっぱいのジャガイモが収穫できました!

平)美味しいって、ある意味抽象的といいますか。川瀬さんにとっての『美味しい』の定義みたいなものは、ありますか?

カ)例えばですが。今ここに美味しいにんじんがあったとして、ここで喧嘩して食べたにんじんと、笑いあって食べたにんじん。多分、美味しさに違いがあると思うのです。僕は、喧嘩の仲裁はできないけれど、美味しいと思えるにんじんを作りたい。
その先に繋げていけるように、色々な情報を発信していきたいですね。それは、料理であったり、野菜つくりの現場を伝えることだったりする。

平)情報発信して、食卓での会話の種にしてもらいたい。それを話題に話し合うことによって、『美味しい』『楽しい』場を作れるのではないか、ということですかね。確かに、美味しいお野菜は、楽しい場で引き立ちますよね。抽象的なものですけれど、必要なこと。それをいかに『農』という立場から演出できるか、なのですかね。

カ)生きていくためには、食べなきゃいけない。野菜っていうのは、食べていく中でもとても重要な役割を担っているわけですよね。そういう意味で、食べればいいだけじゃなくて、『美味しい』。そして『幸せ』を感じられたら。
だから、ただ食べるという行為だけじゃない、その先というところも、生産者としての使命だと思っています。そこで終わらず、もうちょっと先までっていうところが、『農』の魅力かな。

これからのこと

季節によって野菜のラインナップが変わるし、同じ野菜の株でも取ったタイミングによって味が変わる。良いか悪いかじゃなくて、“変化”として面白いと思うんです。その面白さをお届けしている、という感覚がありますね

平)今後、新たに挑戦したいことは何かありますか?

カ)コロナ禍もあって、なかなか人との交流が難しかったのですが、落ち着いてきたからこそ、畑での交流というところを増やしていきたい、というのが1つあります。
もう1つは、加工品つくりです。野菜を加工することで、食の『美味しい』が広がる気がするのですよね。今は絶賛、試行錯誤中。試作中のものもありますので、それを形にしていきたいです。

平)それはとても楽しみですね!試作中のもので、教えていただける加工品はありますか?

カ)名前はまだどうなるか分からないのですが、ジンジャーシロップのような生姜を使ったものです。あとは、少し不思議に思うかもしれませんが、ジビエ関係の加工品を考えています。

平)ジビエですか!?それは、どういう繋がりがあるのでしょう?

カ)学生の時に森林の生態学などを学んでいましたので、そこで野生動物が獣害を起こす問題についても学んでいました。その延長線で、「ジビエ」を加工して商品として届けるだけではなくて、そこで起きてる問題の解決にも繋がるような仕組みつくり。関係者を交えて、一緒に取り組みたいと思っています。

平)学生時代の、自分の経験や知識が、今の『美味しい』をつくることにも繋がっているのですね。完成が今からとても楽しみです!そうしたら、最後に現在ご参加いただいているCSA LOOPについても、お話しをお聞きしたいと思います。昨年1年間やってみて、いかがでしたか?

カ)購入していただいたお客さんと、春と秋、畑でも交流できたことが嬉しいですね。交流会という場を持っていただいて、お話することもできました。ほとんどのお客さんとは、直接会って、お渡しもできましたね。また、拠点の「RAD BROS CAFE」だけではなくて、近所の商店街や小学校と、地域の繋がりもできました。

平)商店街の米ぬかを引き取られているのですよね。ぜひそちらのお話しも聞きたいです。

カ)山形県飯豊町のアンテナショップが、高円寺の商店街にあります。そこで販売されているお弁当のお米を精米した時に米ぬかがでるので、そちらを引き取っています。
元々は、カフェのコーヒーカスを受け取る話があり、当時の「RAD BROS CAFE」の店長さんの繋がりでアンテナショップを紹介してもらったのが、きっかけですね。
ゴミとして廃棄している米ぬかですが、畑にとっては、堆肥をつくる材料になるので、重要な有機物です。元々は、カフェのコーヒーカスから始まって、米ぬかも一緒に、みたいな感じで輪が広がりましたね。

平)拠点で野菜を高円寺でお渡しし、コーヒーカスと米ぬかを持ち帰る。コーヒーカスと米ぬかは畑の堆肥となって、美味しい野菜ができる。そして、野菜を高円寺へ。見事なループができています。拠点メンバーも畑に往来してくれていて、素敵な循環の流れですね。

カ)ありがとうございます!

収穫の後は、みんなで一緒にランチ!準備も配膳もみんなで分担して行います。



どれも所沢農人で収穫した野菜!動いた後のお腹も心も喜ぶ『美味しい』お弁当が完成!

平)畑にくる機会をもう少し増やしたいとおっしゃっていましたが、具体的にどういうことをしている、もしくはしていきたいのでしょうか?

カ)やっぱり僕がやりたいというよりは、参加してくれた方がどうしたいか。そういう声を聞いて、一緒に取り組んでいきたいですね。
一緒に取り組むことで、お互いをより知れるといいますか。食べる人の顔を思い浮かべながらつくると、野菜そのものの味にも影響するのですよね。

平)いわゆる単発の購入関係ではなく、長い年月の中で関係性が出来上がっていく。販売者とお客さんの関係性ではなくて、ある意味、友達同士に近いといいますか。CSA LOOPという中で、『農』との関係もそういう風になれたら、と思っています。

カ)そう、その友達感覚って、距離が近いということであり、コミュニケーションが取りやすい、ということだと思います。
野菜を届けていて思うのは、季節によって野菜のラインナップが変わるし、同じ野菜の株でも取ったタイミングによって味が変わる。良いか悪いかじゃなくて、変化として面白いと思うんです。実際、それが事実。
月1回かもしれないけれど、そういった“変化”をお届けできます。それが多分、私が農業して、野菜をつくっていて、面白いと感じるところです。その面白さをお届けしている、という感覚があります。そこを魅力に思ってもらえれば、CSA LOOPのような野菜の年間契約を楽しんでいただけると思います。

平)食卓の野菜、全てをCSA LOOPに変える必要はなくって。スーパーで手に入るもの、お近くで手に入るもの、色んなもののバランスの中から、季節のものが届くという1つのエッセンスが生活に入るだけで、自分の考え方が変わっていくかもしれないですよね。

カ)『農』や『食』、色々な見方が変わるはずなので、とても重要なことだと思っています。

今回のイベントでも、ランチの準備は子どもたちが中心に!野菜を順番に切ってくれました。

平)あと2年後、3年後でも、CSA LOOPだったら起こりうるのかなって想像するようなことはありますか?

カ)ヒントとしては、今、市内の子ども達が週2回1時間ほど、学童みたいな感じで来てくれています。もう4年、5年目になるかな。最初は畑作業に入るところからはじめて、4、5年も続けていると、最終的に野菜を自分たちで販売するところまでできるようになっていて。それだけではなくて、僕がつくっている堆肥の材料を一緒に集めたり、堆肥を購入している先に勉強会に行ったり、と活動がどんどん広がっています。
そういったところが1つ、継続して広がっていくヒントだと思います。CSA LOOPのメンバーさんと、何を始めるかは分からないけれど、面白いですよね。一緒に野菜をつくる、野菜を販売する、イベントしてみても良い。大きな話、飲食店始めてみようみたいな話だってあるかもしれない。一緒に何かをして、同じ感覚を共有したいですね。

平)その辺り、楽しみですね!拠点のメンバーさんもそうだし、拠点のカフェの人、商店街や近所の人とも、何かを一緒にする可能性はありますしね!

カ)想像の話ではありますが、今はやるべきことをやって、何かあったときに応えられるようにしておく。でも、実際に何か起こるかもしれないと思うとワクワクしますよね!

皆さんと一緒にご飯を囲む川瀬さん。美味しい野菜で笑顔がいっぱいの現場でした。

オーガニックファーム所沢農人

住所:

埼玉県所沢市東所沢