土のにおいに誘われて| 楽菜ファーム

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、
新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。
「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」
農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第7回目は、“楽菜ファーム”の池田さん、栗田さんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
楽菜ファーム合同会社|池田和夫さん(写真左)、栗田光則さん(写真右)
神奈川県海老名市で、農薬や化学肥料を使用せずに有機野菜を育てている。生物多様性に優れた畑を維持しながら、次の世代に引継げるように。池田さんと栗田さんの2人で会社として楽菜ファームを立ち上げた。新規就農3年目。
もし今好きなところへ旅行に行けるなら、池田さんは北海道、栗田さんは沖縄とのこと。来年は社員旅行で沖縄に行くことを計画中。沖縄では5年熟成した泡盛が待っているそう。

Instagram
CSA LOOP拠点:GARTEN COFFEE & Seasonal Wishes COMMON FIELD

平)…平間(4Nature代表)
イ)…池田さん ク)…栗田さん(楽菜ファーム/農家)

農家になる前

「このままがむしゃらに働くだけでいいのかな」みたいな漠然とした思いがありました。2人で第二の人生について話していたら、どちらともなく農業なんじゃないかって。農業って、すごくかっこいい。

平)本日は、よろしくお願いいたします。まずは自己紹介からお願いしても良いでしょうか?

イ)楽菜ファームの代表しています、池田です。CSA LOOPには今年から参加させていただくので、非常に楽しみです。よろしくお願いいたします。

ク)同じく、楽菜ファームの栗田と申します。代表の池田と一緒に農業しています。よろしくお願いいたします。

平)楽菜ファームを始めるまでのお話から、今日はお聞きできたらと思っています。お2人は、どういったご関係になるのですか。

イ)農業を始める前に働いていた、コンピューターソフトウェア会社の同僚です。20代からのつき合いですね。

平)コンピューター系の会社ですと、農業とは程遠いところで働かれていたのですね。

イ)その会社に勤めてからは、50歳になるまでずっとソフトウェアの仕事をしていました。がむしゃらに徹夜する毎日でしたね。

ク)私はその会社に10年ほど勤めた後、家業があったので退社しています。家業は今でも続けていますね。

平)そうすると、お2人の職場は途中から変わっているのですね!職場が変わっても、仕事上のつき合いが続いていたのでしょうか?

イ)彼が辞めてからは、仕事上のつき合いはなしですね。アウトドアや山が好きっていう共通の趣味があったので、その後も年に数回遊んだり、飲みにいったりする仲でしたね。

きゅうりのトンネル。まだ花を帽子にかぶったままのきゅうりの赤ちゃん。

平)同僚というよりは、お友達だったわけですね!アクティビティとして自然を楽しまれていたのかなと思うのですが、そこから農業の話が出てくるまでには、何かきっかけがあったのでしょうか?

イ)50歳くらいで、漠然と第二の人生といいますか。いろいろと考えるようになりました。大きなきっかけがあったわけではなくて、「このままがむしゃらに働くだけでいいのかな」みたいな。
元々、彼と会う時に農業の話題がありましたね。そういった、これからの話をしていて、どちらからともなく農業なんじゃないかって。

ク)そこから、2人で家庭菜園を始めました。10年くらい、続けていましたね。

平)一般的には農業と聞くと、簡単じゃないといいますか。重労働なイメージがあるのですが、家庭菜園を始める前、農業にどのようなイメージを持っていたのでしょうか?

ク)かっこいいイメージしかなかったですね!「新規就農しました」はもちろん、「北海道で畑を始めました」みたいな話を聞くと、第二の人生としてすごくかっこいいな、と思いましたね。

平)今までの農業の在り方というよりかは、人生を楽しんでいるような農業の在り方。農業への入り口は、現代のライフスタイルとしての農業を楽しみたい、というところからなのですかね!

イ)そうですね!きっかけは、憧れに近い気持ちでした。ただ、やるからにはしっかりと農業でも食べていける、稼げるようにはなりたいと思っています。

ク)私は、農業ってすごく大事な仕事だと思ったからですね。なので、農業を仕事にするのもいいな、と思っていました。私の両親も農家なんです。今は辞めていますが、その影響もあるかもしれないですね。

平)お二人でいざ家庭菜園を始めてみて、実際はいかがでしたか?

ク)純粋に、土を触るということが楽しかったですね!よく農業に関する本を読むのですが、実際に畑でやろうとすると上手くいかない。肥料をあげすぎてしまったり、よく育たなかったりする。それをなんでだろう、なんで上手くいかなかったのか、考えるのもまた楽しい。

平)自然を相手だと、思い通りにいかないことがほとんどですよね。そこに面白さを感じていたのですね。

イ)1、2年続けても、全然上手くいかないこともあって。楽しさに悔しさも混ざっていたと思います。どうしても上手くいかないもので、これは学校でちゃんと学ぼうと思って、通い出しました。やっぱり、美味しい野菜をつくれるようになりたかった。平日は会社員を続けながら、週末はその農業学校に通い出しました。

平)農業の学校にも色々なコースがあると思いますが、どのようなコースに通われたのですか?

イ)就農コースです。ちょうどその頃に、少し広い畑を借りられたので、学校で学んだことをその畑で復習していました。彼(栗田さん)は家業があったので、学校には通っていませんが、一緒に畑仕事を続けていましたね。
家庭菜園をしていた時は、土づくりが全然できていなかった。学校で学ぶことで、土づくりの大切さを学びましたね。少しずつですが、人にあげれるものができるようになりました。見た目も綺麗、食べても美味しいものができてきて、上達しているということが実感できてきた頃ですね。

立派な赤いオクラ。葉っぱの葉脈、茎も赤っぽい色。

平)学校で学びながら、畑で実践して。そこからもう一歩踏み出す、さらに大きな畑で育て始めたのは、いつ頃になるのでしょうか?

ク)家庭菜園を始めてから、6年くらいですかね。まだ家庭菜園の延長でしたが、1.5反くらいの広さを借りました。この頃、トラクターは持っていなくて、耕運機でなんとかやっていました。広い畑で農作業した初日は、倒れるかと思いましたよ。こんなに農業って辛いんだって。

イ)借りれた時は嬉しかったですね。これで、農業の真似事まではできるなと。ただ、体が辛かったですね。毎週土曜日は農業学校の実習で先生をしていた有機農業の師匠の畑に行き、勉強させてもらっていました。まだ2人とも仕事を続けていたので、土曜日は師匠の畑、日曜日は自分たちの畑で作業する日々。休まず畑に行っていましたね。
そんな生活を2年くらい続けました。ここまできて、やっと農業をやっていけるだろう、という自信というか核心を持てるようになったと思います。

平)その頃に農業法人を立ち上げたのでしょうか?

ク)会社を立ち上げる1年前、3.5反の畑を借りました。やっぱり、ちゃんとできるか怪しいので、なかなか借りられなかったのですよね。じゃあここからやってみて、ということでなんとか借りられました。


イ)会社を立ち上げたのは、2021年1月。その畑での1年間の成果を見て、その年の3月の総会で農業委員会に認めてもらいました。会社を立ち上げて1年程たった頃に、認定農業者に申請してみませんか?とお声がけをいただき、会社2年目で認定農業者になることができました。今は、「ここも借りてみないか?」と声をかけてもらえるようになり、農地が少しずつ増えていますね。

農家になった今

師匠のところで食べた、キャベツが美味しくって。一口食べた時のあの感動が忘れられない。あの時のような感動を皆さんにも届けたい。僕らの原点はあの師匠の“みさきキャベツ”です。

平)現在の農業について、お聞きしていけたらと思います。今の畑は、どれくらいの広さがあるのでしょうか?

イ)今は1.7haあります。主に農作業は私と栗田、2人でしています。梱包作業やマルシェの出店などは妻にも手伝ってもらっていますね。

平)年間、何品目くらい育てていますか?

ク)年間40品目くらいですね。例えば、ナスだけでも3〜4種類つくっています。

平)どの野菜をどれくらいつくるか、作付け計画は2人で決めるのですか?

イ)2人で決めていきます。自分たちが食べたい野菜かどうかも大きいですね。後は、新規就農なので、慣行農家やベテランの農家さんがつくっている野菜、一般的に流通している野菜とはちょっと違う、見慣れない野菜を選ぶことが多いです。

平)あまり流通していない野菜は、目新しさもあるけれど使い方が分からない人も多いかと思います。販売するときに意識していることなどはありますか?

イ)「無理に言うな」と師匠に教わりました。ちゃんとしっかりつくっていれば、話は周りからやってくるよ、と。なので、あまり売り込みなどはしていないのです。最初は苦労しましたが、人づてに紹介していただくことも増え、販売先も広がってきました。

平)現在はどんなところへ販売しているのですか?

ク)今は全体の4割ほどが、農業総合研究所で販売しています。農業総合研究所では、スーパーなどの一角に直売所のようなスペースを設けてもらい、生産者が自分で値付けした野菜を販売することができます。
イ)その他は、神奈川県の産直個人販売「かなちょく」で販売したり、まだ少ないですがレストランなどへ個別に卸したりしています。

出荷作業の一コマ。艶々したツルムラサキを計量中。


収穫した野菜を袋詰めするのも、大切な仕事の一つ。

平)新規就農して2年目とはいえ、認定ももらい、販売先もレパートリーに富んでいて、順調そうですね!野菜は有機栽培ですが、そこにこだわりはあるのでしょうか?

イ)それこそ、家庭菜園を始めた頃は、肥料や農薬のこともよく分からなくて。正直、有機栽培へのこだわりはなかったのです。

ク)私の方が、有機栽培へのこだわりはありましたね。娘がアトピーだったので、口から入るものは、極力、農薬を使っていないものを食べてもらいたいと思っていました。ただ、どうやって有機野菜を育てたら良いのかが分からなかった。
師匠のところで食べた、有機野菜が美味しくって。一口食べた時のあの感動は、忘れられません。

イ)『美味しいものを楽しくつくる』。それが「楽菜ファーム」の名前の由来にも繋がっています。

平)一生懸命、売り込むのではなくて、美味しいものを楽しく、しっかり丁寧につくるというところにこだわりを持たれているのですね!ちなみに、何の野菜を食べて感動したのですか?

ク)“キャベツ”ですね!キャベツって匂いがする。なのでお好み焼きとかに入れることが多いのかな、と思っていたのですが、生で食べたキャベツが本当に美味しくて。「これが有機野菜か!」と。

イ)あのキャベツをつくりたい。僕らの原点はあの師匠の“みさきキャベツ”です。1.5反の畑を借り始めた時も、みさきキャベツを育てていました。師匠のキャベツを食べた時のような感動を皆さんにも届けたいですね。

平)まず、楽菜ファームの野菜を1つ食べてもらうとしたら、“みさきキャベツ”になりますか?

ク)そうだったら良いのですが。感動してもらえるか…。

平)師匠の味に追いつく、それもまた簡単ではないですよね。でも、年々畑つくりをしていくことで、味も良くなっていくかもしれない。今年のキャベツと来年のキャベツ。年々移り変わっていく味をつくる人、食べる人も楽しめたら良いですね!

これからのこと

私たちは有機農家として畑を守りたいという想いがあります。ちゃんと野菜が育つ畑のまま、若い人に譲っていきたい。他人でも安心して譲れるように、そのために会社組織にしました。

平)これからやりたいこと、挑戦してみたいことはありますか?

イ)やりたい農業は有機栽培であることは間違いなくて。そして、私たちは有機農家として畑を守りたいという想いがあります。畑のまま、若い人に譲っていきたい。
微生物がいなくなっちゃうような畑って、そんなに長続きしないと思うんですよ。畑が畑として使えなくなると、やっぱり宅地や駐車場に変わってしまう。そうじゃなくて、ちゃんと野菜が育つ畑を残そうと思うと、農家が守っていかないと難しいですよね。

少しでも畑を守れるようにしたい。他人でも安心して譲れるように、そのために会社組織にしました。

ク)就農したのが、60歳。そこから10年、15年。体がいつまで保つか分からない。自分たちだけで終わってしまわないように、次の世代の人に譲っていきたいのです。そのためにも、まずは若い人たちを受け入れられるような体制を整えたいですね。

平)何かを始める時、大体の人は足元だけ見ていることが多いと思います。ですが、お二人はその先、引き継ぐところまで考えて色々な選択されているのですね!だからこそ、責任といいますか、大変なこともありそうですね。

イ)会社となると、やっぱりきちんとしなくてはいけないことも多いので大変ではあります。だからこそ、2人で始めて良かったと思います。私が会社の経営、経理などをしている間も彼が畑作業を進めてくれる。1人だったら、絶対に無理だったと思います。本当に会社組織にして良かったと思います。

長いもので40cmほどの長さにもなるナスを収穫。


黒く艶があるナスがベストな収穫タイミング!大きくなりすぎると、種も育ってしまう。

ク)あと、直近で挑戦してみたいことは芋類の栽培ですね。芋類は収穫が大変。なのでずっと避けてきたんです。重労働になるのは目に見えて分かっていたので。

平)CSA LOOPのメンバーさんの中には、野菜を受け取るだけではなく、農作業も手伝ってみたいという方もいらっしゃいます。そういう方へ畑に来てもらい、手伝ってもらう。もしかしたら、そのお子さんが農業に興味を持って研修に来てくれる、なんてことも起こるかもしれないですね!

ク)良いですね!農業を一通り教えるとなると、それなりの年月が必要です。私たちも還暦を超えているので、できれば自分の子どもたちの世代よりも若い、20代前後の方々が畑に来てくれるようになったら嬉しいです。

平)今年からCSA LOOPにご参加いただいていますが、参加を決めた理由があればお聞きしても良いでしょうか?

イ)何より惹かれたのは、私たちの野菜を食べている人に定期的に会えることですね。今までは、野菜を食べてもらった感想を聞く機会があまりなかったのです。聞けても家族や自分の友達。なので、感想をもらえる場として非常に興味を持ちました。
マルシェなどの対面販売でも、お客さんと直接のコミュニケーションは取れますが、その場限りのことが多いですよね。CSA LOOPなら、悪い点があれば聞けるし、次に改善できる。美味しかったという言葉をもらえるだけでも、また頑張ろうと思える。

ク)直接コミュニケーションを取れるのは、楽しみですね。CSA LOOPという活動に参加してくれる人は、やっぱり野菜などにも意識の高い方が多いと思うのです。なので、そういった方たちと話すことで、私たちも新しい知識をもらえるのではないかと思っています。

平)良いことも悪いことも、伝え合える。ただつくる人、食べる人という関係性だけではなく、もっと距離が近い。野菜を受け取りつつ、池田さんや栗田さんと話して帰る。畑のこと、野菜のことを話したり、何気ない話もしたりして。CSA LOOPなら、そんな関係性がつくれるのではないかと思っています。
お二人と話していると、明るい未来の話しかないです!メンバーの方と一緒に、何か「美味しい」「楽しい」未来の話ができると良いですね。

ナスは全部で4種類!同じナスとは思えないくらい、色・形も個性的!

8月のお野菜手帳は、『ナス』特集!

CSA LOOPの農家である越渕農園さんと楽菜ファームさんにご協力いただき、個性豊かな『ナス』を集めました!一口に『ナス』と言っても、その色・形、味も品種によってさまざま。毎週数種類ずつ紹介しているので、ぜひ合わせてお楽しみください!

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