自然のいろは|正藍冷染「藍の刈り取り」

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季節や植物によって“ゆらぎ”のある「色」、経年変化していく“移ろい”のある「色」
そんな「自然の色」を使ったモノづくりには、
草木から色を作り出す一手間、何度も重ねて染色する一手間。
決して楽ではない工程を、あえて選択するのはなぜでしょうか?
そんな“ままならない”、「自然の色」に心惹かれている方々へ話しをお聞きしていきます。
今回は、日本最古の染色技術といわれる『正藍冷染』をされている
4代目・千葉正一さんの元へ伺い、「藍の刈り取り」の様子を見せていただきました。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

『正藍冷染』の春夏秋冬

東京から車で5時間30分。収穫を待つ稲穂が揺れる田んぼを両脇に、少し山の方へ登っていくと、小川の前に建つ平屋が見えてきます。「遠くからわざわざ、よくおいで下さいました」
お出迎えしてくれた千葉正一さんが案内したのは、『正藍冷染(しょうあいひやぞめ)』をする作業小屋。そこには、藍と共に過ごしてきたご家族の写真、やわらかく暖かい色をした『正藍冷染』の布物が並べられていました。

宮城県栗原市の千葉家に代々伝わる『正藍冷染』。藍の栽培から自然発酵、染めまでを一貫して行う『正藍冷染』は、日本最古の染色技術とされています。その貴重な技術を代々守りながら、千葉家は一年を通して「藍」と共に暮らしています。

今回は、育てた藍を収穫、葉を摘みとり、乾燥させるまでの作業を見せていただきました。

藍の「刈り取り」

お手伝いに来てくれる方々と一緒に、藍の刈り取りを進める。

冬の寒さがまだ残る3月末。染めに使う、藍の種蒔きがはじまります。発芽した藍は畑に移植され、8月と9月の2回、花が咲く前に刈り取っていきます。1回目の刈り取りは「一番刈り」、2回目の刈り取りは「二番刈り」と呼ばれています。

ポイントは、思い切りよく地面の少し上から刈り取ること。そうすることで、藍はよりいっそう芽や葉を伸ばして、二番刈りの時期までにまた、ぐんぐんと成長します。

藍の刈り取りをするため畑へ向かう、正一さんの背中。



9月の藍畑。8月の一番刈りの後、ふたたび葉を茂らせた藍。

取材にお伺いしたのは、二番刈りの藍畑。そこに並ぶ藍たちは、1ヶ月前に刈り取りされたとは思えないほど、葉がたくさん。植物のたくましい生命力を感じます。サクッサクッと鎌で切り取られた藍は、両手で抱えられるほどの束にして次々と紐でまとめられていきます。

「藍染めした布には、虫が近寄らないのです。虫除けにもなるし、ヘビも寄せ付けないのですよ」
藍は古くから、さまざまな効能を持つ薬草としても人々の生活を支えていました。染めた衣服は、虫やヘビを寄せ付けないことから、野良作業する時には欠かせないユニフォームだったのです。

二番刈り後の畑と束ねられた藍。

束ねられた藍は、次の作業を待つお母さんたちの元へ運ばれていきます。藍の畑には、一部刈り取りをしない藍の区画があります。これは、来年の藍を育てるための「種取り」用の藍たち。刈り取らずに残された藍は、これから花を咲かせ、種をつけます。

「いっせいに種になる訳ではないので、10月頃から12月まで、少しづつ種を集めるのです」藍の種は、ごまつぶよりも小さい。その小さな種をさやから取り出していく作業だけでも、根気がいる作業です。

藍の栽培は、上手く芽が出る年もあれば、なかなか育たない年もあるそう。畑の一部だけ成長しないなんてことも。「心配なので、必要な分の倍の面積で藍を育てているんです」
植物や生き物をコントロールすることはできない。リスクもありきで、まさに「藍」と共に暮らしている。

「藍こき」

まとめられた藍の束は作業場へ運ばれ、「藍こき」の作業が始まります。「藍こき」とは、藍の茎から葉だけをとる作業。毎年お手伝いに来ているというお母さんたちが、慣れた手つきで藍を葉と茎に分けていきます。

10名ほどのお母さん方によって、「藍こき」の作業が進められていく。




花芽近くのやわらかい葉と下葉を分けながら、葉をとっていく。

葉を、ただ茎からとる作業ではありません。花芽近くのやわらかい葉と、その下葉を分けながらとっていきます。花芽近くは葉が密集しているので、乾燥させるのにも時間がかかります。この乾燥するまでの時間の差を考えて、あらかじめ花芽近くのやわらかい葉と、その下葉を分けておくのです。

お母さん方の手際の良さに、ただただ感動!一連の無駄のない動きと丁寧さ。機械ではできない、温もりを感じる手作業を見せていただきました。

「藍こき」後の藍の束。綺麗に茎のみになっています。

「乾燥」

「藍こき」して仕分けられた葉は、すぐに作業場で乾燥させます。ここで上手く乾燥できないと、藍染めには使えなくなってしまいます。なので、藍の刈り取りから乾燥までの作業は“湿気”が大敵。曇りくらいなら作業はできますが、雨が降ってしまうと作業もなかなか進められません。

「藍こき」後、葉はビニールシートの上に撒いて乾燥させていきます。


普段なかなか目にすることがない藍の葉。千葉さんが育てているのは“ちぢみ藍”と呼ばれる品種。

この後、藍の葉を叩いて繊維までやわらかくします。さらにお茶の葉を揉むように優しく「藍もみ」し、再び太陽の光の元で乾燥させ、雪が降る冬の1月まで保存しておきます。

「藍の葉を乾燥させている間も、ただ置いておくだけではなく、天地返しをするお世話が必要です。一連の作業を見るのとやるのは違うのです」正一さんの藍への細やかな気遣いと熟練の技術が、来年の染めの色に繋がっていきます。


プロフィール
正藍冷染(しょうあいひやぞめ)|4代目・千葉正一さん

宮城県栗原市の千葉家に代々伝わる『正藍冷染(しょうあいひやぞめ)』。その特徴は、自然の温度で発酵させること。藍の栽培から自然発酵、染めまでを一貫して行う『正藍冷染』は、日本最古の染色技術とされています。
昭和30年には、『正藍冷染』が貴重な技術であることが認められ、初代・千葉あやのさんが国の重要無形文化財技術保持者(人間国宝)に指定されました。その後も2代目・千葉よしのさん、3代目・千葉まつ江さん、そして4代目・千葉正一さんへと受け継がれています。他の地域では絶えてしまった技術を守り、後世にも残すべく千葉家が継承し、今に至ります。