土のにおいに誘われて|NaZemi

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、
新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。
「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」
農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。
土のにおいに誘われて第11回目は、“NaZemi”の鶴岡さんのところへ訪れ、お話を伺った。

  • Photo:

    Mana Hasegawa

  • Text:

    Mana Hasegawa

プロフィール
農園NaZemi|鶴岡妙子さん
大地を耕すことは、国、地球を耕すこと。千葉県の最南端、南房総市と館山市で農業を営んでいる。化学的な農薬・肥料を使用せず、できるだけ固定種・在来種を中心に種を継ぎながら野菜を育てている。お子さんが生まれる前は一人で登山に行っていた鶴岡さん。最近、家族で山を登り、楽しみ方の変化を感じたそう!

HP
Instagram
CSA LOOP拠点:COVE COFFEE ROASTERS

平)…平間(4Nature代表)
つ)…鶴岡さん(農園NaZemi /農家)



農家になる前

やっぱり美味しいものを食べると、無条件で幸せになれるじゃないですか!人が生きていくにあたって、一番必要なもの、食べるものをつくりたい



平)本日は、よろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介からお願いしても良いでしょうか?

つ)千葉県の南端、安房地方と呼ばれる館山市と南房総市で、農業している農園NaZemiの鶴岡です。小さな畑を少しずつ、化学的な農薬、肥料を一切使用せず、固定種・在来種を中心に種を継ぎ、野菜を育てています。本日はよろしくお願いいたします。

平)農園の名前の由来は、チェコ語なんですよね?

つ)そうです。チェコのことばで【Na】=上、【Zemi】地面、国、地球を表します。
大地の上に立つことは、国、地球の上に立つこと。大地を耕すことは、国、地球を耕すこと。そんな想いで畑仕事をしています。

平)なんでチェコなんでしょう?

つ)とりあえず「ビールが美味しいから」と答えているんですけれど。大学で言語学を勉強していたんです。チェコへ語学留学に行って、そのままチェコで就職しました。

平)そうなんですね!仕事は農業関係だったのですか?

つ)全然違いますよ!日系の商社です。8年ほど働いて、日本に帰ってきました。

平)しっかりと海外で過ごされていたのですね!日本に帰ってきた時から、農業には興味があったのですか?

つ)農業がやりたくて日本に帰ってきたんです。やりがいはありましたが、商社の仕事が楽しくなくなってしまって。商社という”サービス”を売ることが、自分にはあわないように感じたんです。
当時、友達とご飯を食べに行くことが多かった。やっぱり美味しいものを食べると、無条件で幸せになれるじゃないですか!「人が生きていくにあたって、一番必要なもの、食べるものをつくりたい」と思うようになりました。

気がついたら畑に生えていたというズッキーニ。



夏が旬のズッキーニ。季節外れの11月でもまだ花が咲き、可愛らしい実がなっていた。



平)日本に戻られてから、南房総市や館山市で暮らされているのですか?

つ)一時帰国時に、友達と南房総市の白浜で釣りをしたんです。その時に、「ここだったら日本で暮らせるな」と思ったんです。ゆったりとした時間が流れていて。
一応、帰国してからもいろいろな場所に行ったのですが、最終的にここに戻ってきました。チェコも流れる時間がゆっくりしていて。ここにも何か似たところを感じたのかもしれませんね。

平)鶴岡さんは、今は旦那さんと娘さんがいらっしゃいますが、旦那さんとはどこで出会ったのですか?

つ)南房総で出会いました。ここでいろいろな農家さんを回っている時に、花の農業法人で働いていた彼と出会いました。

平)農業を始めるにあたって、最初は研修などされていたのですか?

つ)ここに来る前に1年ほど研修をしていました。よし、南房総に移って研修しようと思ったら子どもを授かりまして。なのでここでの研修も辞めました。

平)そうなんですか!娘さんが生まれてから農業を始められたのですね。

つ)そうですね。娘が1歳くらい。実はその時は子育てで忙しいし、そこまで農業への気持ちはなくって。家庭菜園くらいで良いと思っていたんです。でも、彼がすでに小さな畑を借り始めて野菜つくりを始めていたんです!

平)それは、鶴岡さんに相談せずにですか?!

つ)小さく始めていたのを見つけた感じですね!でも、正直あまり上手く育っていなくて。私の方が上手く育てられる!と思いましたね。出産後、体の調子も回復してきたタイミングでもあったので、夫とともに小さく始めることにしました。今は、夫はここの農園と他の仕事との兼業で一緒に野菜を育てています。

農家になった今

畑にいるのは人間だけではありません。動物、植物、虫や微生物。みんなが循環できる場所をつくる、助ける者でいたい。



平)畑では何品目くらいの野菜を育てていらっしゃるのですか?

つ)だいたい5〜60品目、品種だと100品種近くですね。

平)ここだと、育ちやすい野菜とかはありますか?

つ)「これ!」という野菜はあまりないのですが。畑が大きく南房総市と館山市に分かれているので、それぞれ少しずつ違いはありますね。いろいろな野菜に合わせて、畑を使い分けることもできます。

平)育てた野菜の販売方法はどうしているのでしょう?

つ)正直のところ、今はまだ模索中です。飲食店や個人の宅配、直売所。いろいろある販売方法の中で、どれがいいかやりながら探しているところです。

平)先ほど畑を見させていただいて、ビーツなどあまりスーパーでは見かけない野菜もたくさんありました。ちょっと変わった野菜って、食べ方が分からなくて手に取りづらい、売りづらいと言う話も聞くのですが、このあたりの方たちからの反応はどうですか?

つ)この辺りは、移住者の方も多いので結構ビーツとかも人気なんですよ!チェコのファーマーズマーケットでよく見かけた西洋野菜もいろいろ育てています。そういう野菜を手にとってくれる方は、どうやって食べるか、料理方法とかの知識もある印象ですね。

道の駅『富楽里とみやま』でNaZemiのにんにくを発見!有機野菜コーナーが道の駅の中にもできていた。



平)野菜を育てる上で、こだわりや大切にしていることはありますか?

つ)季節感を大事にしたいと思っているので、季節の野菜しか栽培していません。また、なるべく、ビニール資材を使わないように。化学的な肥料や農薬は使わずに育てています。「循環農法」と呼ばれる農作物の残り、雑草などを漉き込む農法を基本にしています。

平)ビニール資材などを使わないと、その分、手間ひまがかかるイメージなのですが実際どうなんでしょうか?

つ)毎年毎年、使おうかなと思うんです。特に玉ねぎとかは生育が安定するので。でも結果的に使わなかったですね。私がしているのは手間の掛かる農法だし、大量生産できるスタイルでもないんです。

平)鶴岡さんは、自家採種もされているんですよね!自家採種は、少量多品目の農家さんだと、交雑しないようにするのが大変だと聞きますが、実際どうなのでしょうか?

つ)アブラナ科の野菜は特に多いので、そのあたりは確かに大変ではありますね。ただ、種取り用に野菜の株を別の場所に移植して、交雑しないように工夫しています。
固定種・在来種の野菜が多いので、品質や形にバラつきがあります。どうしても、全て規格通りに揃えることは難しい。そこを理解してくれて、愛おしいと思ってくれる方へ野菜を届けられたら嬉しいですね。

平)手間がかかる農法を選ぶ。化学的な肥料や農薬を使わないようにしたり、なるべくビニール資材を使わないようにしようと思う理由はどこにあるのでしょうか?

つ)農薬は使う人の方が影響を受けます。夫は肌が弱いので、普通の石鹸やシャンプーが使えないんです。私自身も食物アレルギーを持っています。農薬を使用している農法を否定している訳ではなく、ただ、私たちの身体が持続しないんです。
それに、畑にいるのは人間だけではありません。動物、植物、虫や微生物。みんなが循環できる場所をつくる、助ける者でいたい。そういう想いで、野菜を育てています。

これからのこと

自分がこの大地を預かっているものとして、状態を良くしていった方がいいと思う。そうすれば、野菜も美味しくなるし、収量も増える。余分なものはあんまり入れないで、土作りをしていきたいですね。



平)これからやってみたいこと、こんな農園にしていきたい、という展望はありますか?

つ)今年新しく挑戦したいのは、アスパラガスやアーティチョーク。後は養蜂も始めたいと思っています。

平)養蜂、良いですね!なんで養蜂に興味を持ったのですか?

つ)チェコのはちみつが美味しかったんですよね。美味しいはちみつ、食べたいじゃないですか!
都会に住んでいると実感することが少ないのかもしれませんが、ミツバチってどんどん減っている。うちはいろいろな野菜を育てているし、蜜源もたくさんある。だから、ミツバチにきていただけたらな、と思って。でも、ニホンミツバチってなかなか来てくれない。

ニホンミツバチの好きな木陰に置かれた巣箱。



平)ニホンミツバチの養蜂って、そもそもどうやって始めるのですか?

つ)ニホンミツバチ用の巣箱を用意して、巣箱を置く。後は来てくれるのを待つ!住居を提供して、気に入ってくれるのをただ待つんです。
面白いなって思ったのが、真新しい巣箱より、使い古して木の匂いもしないような巣箱の方が来てくれるそうです。落ち着くんですかね。後は、ニホンミツバチがすごく好きな花を巣箱の近くに置くといい、と言う話もあるんですよ。

平)人はニホンミツバチにどうか気に入っていただけるように、いろいろな工夫をされているんですね!

つ)やっぱり、今はニホンミツバチに限らずミツバチが農薬などの影響でどんどん減ってしまっている。だから、戻していく、増やしていけたらという想いもありますね。そうすることで、野菜も畑も循環していくと思うんです。

今年は猪が多い。大切に育っていた鶴岡さんの野菜も収穫間際で狙われてしまった。



平)鶴岡さんの巣箱をニホンミツバチが気に入ってくれるといいですね!昨年CSA LOOPをやってみて、どうでしたか?難しさや楽しさはありましたか?

つ)野菜を食べてくれている人に会えるのは、嬉しいですね!難しさは、やっぱり会員さんとの繋がり方。人によってオープンマインドの方と、そうではない方がいて当然なので、そこのバランスが難しいですね。
会員さんが何に興味を持ってCSA LOOPに参加してくれているのか、会員になってくれたのかが知りたいです。

平)そうですよね。昨年は僕らがまだまだサポートしきれなかったところもあって。農家さんもメンバーさんも、お互い探りさぐりだったと思います。でも鶴岡さんは皆さんと一緒にランチをしたり、お子さんを通じてコミュニケーションを取られていたイメージがあります。

つ)子どもはすぐに垣根を越えていきますからね。すごいな、見習わなきゃな、と思います。CSA LOOPをしていて感じるのは、野菜を育てて届けることに程よいプレッシャーがあるところ。そこがまたいいなと思っています。
野菜の受け渡しの際に店頭販売もしているのですが、CSA LOOPの会員さんではないけれど、毎回買いに来てくれる方もいるんです。

平)嬉しいですね!CSA LOOPって、普段スーパーで買わない野菜とか、自分じゃ挑戦しない野菜が、ある意味半強制的に手元に届く。だからもう、手元に届いたらどうにかしなきゃって、試行錯誤したり考えたりする楽しさもあるのかなって思うんです。

つ)そうですよね。でもそれが嫌な人もいる。

平)中にはいらっしゃるかもしれないですよね。でも、メンバーさん同士でもっとコミュニケーション取れるようになったら、野菜を交換し合う、料理方法をシェアする、みたいなことができるようになるのかもしれないですね。

まるで人と話すように、野菜に接する鶴岡さん。NaZemiの畑の野菜たちは、みんなおおらかで伸びのびとしている。



つ)そう思います。今年はそういうことができたらいいな、と思います。
ただ、基本的には美味しい野菜を育てていくことだけだと思うんですよね。食べてもらわないといけない、というのもあるんですけれど。食べた時にやっぱり美味しいっていうのが1番の持続力だと思うので。
後は、土づくり。ここは、海も近いので、すごく海を身近に感じられるんですよ。もし、この良くない土が海に流れていったら…。それは嫌だなと思う。自分がこの大地を預かっているものとして、状態を良くしていった方がいいと思う。そうすれば、野菜も美味しくなるし、収量も増える。余分なものはあんまり入れないで、土作りをしていきたいですね。

平)ここで何ができるか、ということよりも、この土地に対してどういう影響を与えられるか、というところにも視野を広げていきたい、という感じなんですかね?

つ)そうですね。ものすごく身近でありたい。NaZemiはチェコ語ですが、英語の意味だと『on the field』。でもチェコ語の【Zemi】には、地面、国、地球という意味もある。地球の上、国の上、地面の上、全部同じこと。名前の通り、大切に野菜を育てていけたらと思います。


農園NaZemi

住所:

千葉県南房総市・館山市