土のにおいに誘われて| Microbe Natural Farmers

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、
新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。
「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」
農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第9回目は、“Microbe Natural Farmers”の追立さんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
Microbe Natural Farmers|追立昭博さん
神奈川県大和市、藤沢市、茅ヶ崎市の3市で、野菜・ハーブを育て販売している追立さん。
除草剤・農薬・化学肥料は使わず、土と命の繋がりを大事にしている。『Microbe(マイクローブ)』とは『微生物』という意味。土の中にいる微生物のおかげで、野菜が実るように。「土はみんなのたからもの」をコンセプトに、野菜を通した人との繋がりを育てている。最近のマイブームは光風&greenmassiveというバンド。めちゃくちゃかっこいいとのこと!

HP
Instagram
CSA LOOP拠点:NOG COFFEE ROASTERS

4)…4Nature(代表・平間、メディア事業部・長谷川)
お)…追立さん(Microbe Natural Farmers/農家)


農家になる前

環境問題と農業って、すごく関係し合っている。そういう問題や課題を伝える、変えていけるのも農家としてできることの一つだと思いました。これはやるしかないと。




4)本日は、よろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介からお願いしても良いでしょうか?

お)神奈川県大和市、藤沢市、茅ヶ崎市の3市で、野菜・ハーブを育て、販売しています、追立と申します。よろしくお願いいたします。

4)追立さんは、元々農家の生まれではなかったかと思いますが、農業に関心を持つようになったのは、いつ、どんなことがきっかけだったのでしょうか?

お)母の家系が、お米とかんぴょうを育てていたので、子どもの頃は畑を訪れていました。家庭菜園といいますか、自分たちが食べる分の野菜も育てていたので、収穫して食べる、という体験ができたことが記憶に残っています。ぼんやりといつか農業やりたいな、くらいには思っていた感じですね。
大人になるにつれて、その気持ちは忘れてしまい、普通に就職して働いていました。再び自分の中で農業への想いが湧き起こったのは、東日本大震災がきっかけです。

4)今から十数年前ですね。

お)そうですね。当時は横浜に住んでいたのですが、物流が止まってしまって、スーパーに行っても食べ物が全然なかったんです。そういう状況に直面して、「食べ物がつくれない」、「食べられない」ことへの危機感のようなものを感じました。
当時、ちょうど住んでいる家の裏にシェア畑があったので、借りて野菜を育ててみようと思ったんです。

4)シェア畑では、どのような感じで野菜を育てていたのですか?

お)育てる野菜は決まっていて、種や苗は用意してありました。年間のカリキュラムが決まっていて、畑には講師の方がいてくれるような感じです。その頃は有機農業とかも全然分かっていなかったのですが、たまたまそのシェア畑は有機で野菜を育てていましたね。
それまで野菜は、ほとんど食べていなかったんです。中でもトマトが嫌いだったのですが、自分で育てたトマトは食べられたんです。すごく美味しかった。そこから、自然に農業への関心が高まっていきましたね。なんで美味しいんだろう?と。

一本一本がのびのびと育ったイタリアンパセリ。色も青々としていて綺麗。


4)そうなんですね!農業する前は、会社に勤めていらっしゃったのですね。そこから農業の道に進む決心は、すんなりできましたか?

お)はい、サラリーマンしていました。このまま家庭菜園を続けるか、農家になるかは1年くらい悩みましたね。それこそ、悩み過ぎて発疹がでるくらい…!「やりたいなら、やってみたら」、という妻の後押しもあって、踏み出せました。

4)食に強い関心があったというよりは、食への危機感がきっかけで、農業に関心を持たれたのですかね?それとも自給自足の生活への、憧れのような気持ちなのでしょうか?

お)元々、環境問題への意識は持っていました。ただ、地球規模の問題をなんとかできる方法が分からなかったんですよね。食への危機感をきっかけに、有機農業を調べるようになりました。環境問題と農業って、すごく関係し合っている。そういう問題や課題を伝える、変えていけるのも農家としてできることの一つだと思いました。これはやるしかないと。

4)環境問題への意識は震災がきっかけというよりは、元々感じていらっしゃったんですね。追立さんはサーフィンされていますが、やはり海からそういった環境問題への意識が高まったのでしょうか?

お)そうですね。やはり海が綺麗か、そうではないか、は肌で感じます。異様に海が温かい、とか。海や自然と触れあう中で、自然にとってはいらないものが多過ぎるのではないか?と思っていました。漠然となんとかしたい、そういうことを仕事にしたいと思ってはいましたね。

お手伝いスタッフさんが一緒に通勤している鶏のピーちゃん、ビーちゃん。


4)家庭菜園をやり始めて、そこから本格的にじゃあ仕事にしていこうと思った時に、1番最初にやったことはなんだったんですか?

お)会社を辞めて、アルバイトしながら研修しました。研修先の農家は有機農業で、家から通えるところで探しましたね。結果、「なないろ畑」という有機農家で研修しました。

4)始めから有機農業でやりたい、と決まっていたんですね。

お)決まっていましたね。あとは研修中から、自分で小さな畑を借りて野菜を育てていました。育った野菜をマーケットで販売させてもらうなどしていました。

4)研修中から、すでにマーケット出店ですか!それは、どのような経緯で出店できたのですか?

お)当時研修中にしていたアルバイト先で、「農業したいんです」とお客さんによく話していたんです。小さな畑も実は、お客さんづてに借りられたんです。研修で学んだことを実践する場所がほしくて。
そのうち、マーケットしている人と知り合いだというお客さんに繋いでもらい、出店できました。

4)その頃から、野菜の対面販売されていたのですね!農業するなら、対面販売がしたいと最初から思っていたのでしょうか?

お)市場出荷は元々考えていなかったですね。有機栽培だと1種類をドンッとたくさん収穫しづらかったり、最初から大きな畑が借りられなかったりするから。だから有機農家だと、野菜セットの宅配をしていることが多い。あとは、何より食べてくれる人に直接届けられた方が、自分も楽しいからですね!


農家になった今

この人はこれが好き、この人にはどう伝えたらいいか。そういったことを考えるのが楽しいんですよね。




4)今育てているこの畑は、追立さんが探して見つけた畑なのですか?

お)いえ。ここは研修先の「なないろ畑」が、他の場所に集約するため手放す予定だった畑を継がせてもらいました。

4)今はどういう野菜を、どれくらい育てていらっしゃいますか?

お)野菜やハーブを年間40〜50品種くらい育てています。

4)追立さんは、en。の中川さんと共同経営されているのですよね。お二人の育てている野菜を合わせると、年間40〜50品種くらいになるのでしょうか?

お)そうですね!彼も野菜セットの出荷がメインなので、一緒に野菜を持ち寄ってセットにしている感じです。

赤い茎と葉脈が特徴的なローゼルの葉っぱ。食べるとクセになる酸っぱさ!



新芽は力を入れなくてもポキっと折れる!太くて立派な茎は、植物のたくましさを感じます。


4)ハーブも育てられているのですね!今の季節だと、どんなハーブがあるのですか?

お)今は、イタリアンパセリ。珍しいものだと、ローゼルがあります!赤い実がなって、ハーブティーとかで使われていることが多いんですが、葉っぱも食べられます。ちょっと酸っぱくて、美味しいんです。今年初めて育ててみました。

4)ローゼルの葉っぱ、初めて見ました!茎が赤いんですね。こういった珍しい野菜などは、野菜を届けている飲食店からの要望もあるのでしょうか?

お)ありますね!いただいた要望の野菜は育ててみますが、上手く育たないことも…。自分が育てたい野菜というよりは、ここの土、この場所で育つ野菜を大切にしたいと思っています。

4)追立さんがここの土に合っているな、と思う野菜にはどんなものがありますか?

お)小松菜やカブといったアブラナ科の野菜は、よく育ちますし美味しいですね。この辺りは、昔はブロッコリーやキャベツが名産だったようです。なので、地形や土質がアブラナ科と相性が良いのでしょうね。

4)そうなんですね!逆に上手く育たなかった野菜はありますか?

お)きゅうりやかぼちゃ、ウリ科の野菜はあまりよくないですね。育ちはするんですが、途中で枯れてしまう。

4)それは、何が原因なのかは分かっていますか?

お)恐らく土の中にいる線虫が合わないのかな、と思っています。枯れ方を観察していると、そんな感じがします。ただ、どうにかしようとすると土壌消毒が必要になります。なので、ウリ科の野菜は、共同経営しているen。の中川に育ててもらっていますね。

4)野菜を育てる、届けることで大切にしていること、こだわりなどはありますか?

お)市場とかに出すと、規格があって、サイズを揃えないといけない。有機農業でそれをやるって、すごく無駄が多い。本当は食べられるのに。
有限のものの、無駄を無くしたい。それをかなえるためには、消費者との距離が近くないといけない、と思っています。あとは、直接届けることが美味しさに繋がるとも思っていますね。
今まで、特別に営業とかはしていないんです。人づてに繋がりが広がっていった。そういう、人との繋がりは大切にしています。

鵠沼海岸にある映画と本とパンのお店「シネコヤ」。入り口に看板がありました!



空き缶にお金を入れるセルフスタイル!この日は売り切れ間近。水曜日が野菜の入荷日ですよ!


4)野菜を通して、人との輪が広がっているのですね。「シネコヤ」という映画と本とパンのお店で、野菜のセルフ販売もされていますよね。個人的にとても好きな場所なのですが、どういったきっかけで始まったのですか?

お)元々住んでいた商店街で、飲食店の軒先で野菜販売していたのですが、そこがなくなってしまいまして。その時に「シネコヤ」と繋がりのある「チコパン×クゲヌマ」さんがとても良くしてくれて、繋いでくれたんです。

4)素敵な場所や飲食店へ野菜をお届けされていますよね。今の野菜の量と、要望やご依頼の数のバランスはどんな感じなのでしょうか?

お)今は、足りていないですね。通常出荷も隔週にしてもらっています。まだまだ僕たちの技術も不安定なので、そこを理解してくれている方が続けてくれています。

4)理解してくれる方達は、追立さんが日々畑のことや野菜のことを話しているから理解してくれるようになったのでしょうか?

お)そうですね。話したり、メールでお知らせしたりしています。関係が長くなると、この時期はこの野菜が少ない、みたいなことも認識してくれるようになりました。

4)距離が近い、だからこその大変さみたいなところもあると思うんです。それでもお客さんとの距離が近い方法を取りたい、続けたい理由や原動力はどこにあるのでしょうか?

お)この人はこれが好き、この人にはどう伝えたらいいか。そういったことを考えるのが楽しいんですよね。

4)どういったことを特に伝えたいですか?

お)季節感ですかね。農業を始めるまでは、この季節はこれが美味しい、これが育つということを知らなかったんですよ。実際に、季節や旬に沿って育てるとやっぱり美味しい!美味しい野菜と一緒に、旬や季節も届けたい。


これからのこと

自分で育ててみる、それって自分の原点でもある。一緒に畑で作業したり、話したりすると、普段の会話じゃ出てこない話がでてくる気がするんです。僕だけじゃなくて、みなさんも。




4)これからどういう農園にしていきたいか、もしくはどういう農園を目指しているのかお聞きしていきたいと思います。

お)一つは、学校給食用に野菜を卸せたら、と思っています。なので、それなりの量が必要になってきます。僕たちのような一農家、ましてや有機農業でまかなうのは、とても難しい。
でも、僕たちのような農家が増えて、繋がっていけば、この辺りの農家だけでここの地域の学校給食をまかなえるようになるかもしれない。そのモデルをつくりたい、その仲間を増やしたい、という想いがあります。
とはいえ、量が必要な上に単価は低い。クリアしないといけない課題は多いのですが、いつかはやりたいと思っています。

もう一つは、野菜を売る、配達するだけではなく、みんなで育てて運営していく畑を始めたいと思っています。


4)みんなで育てて運営していく畑!そこでは、自由に野菜を育てられるのですか?

お)やりたいのは、みんなで意見を出し合って、どこにどれを植えるかを考えて育てていくような畑。どれくらい育てればみんなにゆき渡るか、みたいなところって、ある程度育てた経験がないと予測できない。そういう場面で、僕たちが助言できるのではないかと思っています。

スタッフみんなで野菜の梱包。この日届ける野菜セットを組んでいるところ。



朝収穫したばかりの野菜が、どんどん包まれていく。


4)今でも畑の一部を会員さんが、好きに野菜を育てられるようになっているとお聞きしました。さらに、そういった「場」を広げていきたい、ということなんでしょうか?

お)はい。実は今年から僕たち独自にCSA枠を設けているんです。会員さんは、野菜を買うだけではなく、希望の方には、畑の一部を自由に使えるような仕組みです。畑の利用だけのプランも用意しました。この場所は、自分のやりたいことを実現できるスペースにして欲しくって。
最近は野菜を買うだけではなく、自分で育てたい人が増えているように感じます。

4)いいですね!都内に住んでいると、好きなものを植えて育てられるスペースってなかなかないので、羨ましいです。

お)自分で育ててみる、それって自分の原点でもあるんですよね。やってみて気づいた、変わったことがたくさんある。最初は、食べてもらって想いを伝えるっていうニュアンスだったんですが、やはり自分で手をかけてもらった方が、伝わることがより多いんじゃないかって思うようになりました。
でも、ただ自由に育てられる畑にするだけでは、やる人とやらない人が出てきてしまう。それじゃあ、意味がないなって。

4)CSA枠を設けてやってみたいなと思うきっかけって、なんなのでしょうか?

お)研修先の「なないろ畑」は、有機野菜のCSAスタイルを採用した農場なのですが、そこで初めてCSAという仕組み、言葉を知りました。会員さんと一緒に農場の経営や作業して、成り立っているというのが、すごく面白いと思ったんです。
中でも自分の中でキーになったのが、本場ヨーロッパのCSAの仕組みですね。向こうは、野菜の値段が一定じゃない。会員の所得に応じて、野菜の値段が変わるんですよ。所得の低い人は安く、その分を所得の高い人が支払っているような感じですよね。僕がやるのならば、そういうCSAを目指してはいます。日本では、なかなか難しいかもしれませんが。

4)ゆくゆくは、自分のCSAもヨーロッパの会費の考え方に近づけていけたら、ということですね!最近は、Instagramの投稿も頻繁にされているイメージです。独自のCSAを始められたり、更新頻度を増やしているのは、より直接お客さんに畑にきてもらいたい、作業を一緒にして、手をかけてもらう機会を増やしたい、という想いからですか?

お)そうですね!経営者としてはあまり良くないのかもしれませんが、自由に変動できる形じゃないと自分が面白くない、というのはあります。そのためには、自分たちがどういうスタンスでやっているのかを知ってもらった上で、畑にきてもらえたらいいな、と。

ビニールハウスでは、秋冬野菜の苗が出番待ち。小さな芽が可愛らしいですね。


4)直接野菜を受け取れる、届ける。そういう販売の仕方はすでにされていたと思うのですが、弊社の「CSA LOOP」に参加されたのはなぜなのでしょうか?どういう点に惹かれて、ご一緒いただいているのかが、気になります!

お)CSAという取り組み自体は、農家が単体で行うものだと思っていたんです。それが、4Natureのような農家ではない第三者が参入して、仕組みづくりをしてくれるというのに興味をもった、というのが大きいです。

4)やってみて、できたこと、上手くいかなかったことはありますか?

お)やはり、都内とこちらの物理的な距離は感じますね。自分の作業もあるので、僕が都内にいく時間もそんなに多くはない。接点を持つことが仕掛けづらいといいますか。
CSA LOOPの会員さんには、5月に畑に来ていただきましたが、それ以降はまだ開催できていないんです。できたら、次は畑で収穫したものを一緒に調理して食べる、みたいなことができたらいいなと思っています。

4)例えば、都内でキッチンスペースを借りて、追立さんの野菜で料理をつくって食べる、みたいな会よりも、理想としては、やはり畑に来てもらいたい気持ちが強いのでしょうか?

お)そうですね!今までも体感しているのですが、一緒に畑で作業したり、話したりすると、普段の会話じゃ出てこない話ができる。僕だけじゃなくて、会員さんも。実は僕、すごく人見知りなんですよ。でも、農家になって畑作業するようになって改善してきた気がするんです。

食べ物とか、環境問題とか。もちろんそういったことも伝えていきたいですが、まずは畑にきてもらって、体感してもらいたい。それがどういう形になっていくか、これからも考えていきたいですね!

蝶々が飛び回る畑は、のびのびとしていて時間の流れも穏やか。また足を運びたくなる場所でした。





Microbe Natural Farmers

住所:

神奈川県大和市