土のにおいに誘われて|マーフィーズファーム

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第2回は、“マーフィーズファーム”の篠塚さんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
マーフィーズファーム|篠塚政嗣さん
野菜作りのスタンスは、野菜たちを見守る“ベジタブルシッター”。必要なときにそっと手を添えるくらいの気持ちで、草や虫、土や自然に任せる、極力人の手を必要としない野菜作りを目指している。幼稚園の頃の夢は絵描きさん。今も絵描きで、ボードゲームが好き。一押しのボードゲームは“アルゴ”。

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CSA LOOP拠点:コーヒースタンド烏 / 3×3 Lab Future

平)…平間(4Nature代表)
シ)…篠塚さん(マーフィーズファーム/農家)

農家になる前

就農当時は、この思い出がある場所をなくしちゃうのはなんか寂しいなっていう想いが先だった。

平)本日はよろしくお願いいたします!では、簡単な自己紹介からお願いいたします。

シ)茨城県結城市で1人で野菜作りをしている篠塚と申します。マーフィーズファームという農園名で農家をしています。「マーフィーってなんですか?」とたまに聞かれるのですが、あんまり意味はなかったり。

平)そうなんですか!今ちょうど聞こうと思っていました!

シ)深い意味は実はなくて…。野菜は年間50品目ぐらい育てています。何も分からないところから始めて、今年で就農して11年目になりました。今でも試行錯誤しながらやっていますが、どうぞよろしくお願いいたします。

平)よろしくお願いします。篠塚さんは“ベジタブルシッター”という言葉を自己紹介で使われることもありますよね。

シ)よくご存知ですね!

平)もちろんです!農業を始める前、そこに至るまでのストーリーをぜひ、お伺いしても良いでしょうか?

シ)ここの農園は母の実家なんです。11年前、2011年の1月に就農しました。その頃は当時92歳の祖父が現役でやっていたんですが、足を痛めてしまったかで、農業ができなくなってしまいました。
もうやる人もいないし、畑も処分してしまう話に。でも、子供の頃に手伝っていた畑だし、思い出もあって。処分してしまうのだったら、自分ができるところまでやってみたいなっていう想いがあって「じゃあ、就農します!」という流れですね。

平)畑を継ぐ形で就農されたんですね。結構、思い切った決断ですね!

シ)父の実家も農家なんです。両親は実家が農家でどちらも継がなかった。だから「あんな儲からない仕事をやってどうすんの?」みたいな。猛反対。今でも賛成しているとは言えないです。

夏野菜がのびのびと育つ畑。マルチは土に還る生分解性マルチを使用。

平)農業っていうキーワードが自分の人生の中で出てくるのは、祖父が身体を悪くしてっていうのがきっかけですか?それまでは一切、仕事として農業という考えはなかったんですか?

シ)そうですね、あまりなかったですね。絵が好きだったから、基本的にそっちの方向に意識は向いていましたね。

平)保育園の頃の夢が、絵描きさんだったという話もお聞きしたことがあります。学生時代も、そういう絵に関する勉強をされてたんですか?

シ)そうですね。ずっと絵が好きで、ずっと絵を描いていて。一応絵の専門学校に行きましたけれど。そこら辺の話をすると長くなります。

平)ちょっとだけ、聞いてもいいですか?

シ)そうですね。元々は高校へ行くつもりはなかったんです。興味がなかった。ただ、やっぱり中学卒業したら高校というのは普通の流れですよね。高校では弓道部に入ったんです。そうしたら弓道にのめり込んでしまって。自分は自分のやりたいことをやるっていう感じですね。
高校も3年生になって部活を引退しちゃったら、いよいよもうやることはないし、旅に出て色々な人とか物を見た方が面白いんじゃないかと思うようになりました。クラスメイトに「高校、辞める」と宣言までして!

平)クラスの先生じゃなくて、クラスメイトに言ったんですね。

シ)先生にも「辞めます!」と言ったら、親が困っちゃって。結局、高校は辞めなかったのですが、絵でもいいから専門学校に行きなさい、親を安心させなさいみたいな感じで、専門学校へ行くということを決めさせられたというか。

篠塚さんのお家には、ボードゲームがたくさん!いつでも皆んなでボードゲームする準備万端!

平)そうなんですね。そういう意味で言うと、わりかし自由人というか。好きなことをやって、好きなところへ行って。そこから農業ですよね。地に足つけてというか、覚悟が必要なことだと思うのですが、何か心境の変化などがあったんでしょうか?

シ)心境の変化は特にないですね。就農当時は、この思い出がある場所をなくしてしまうのはなんか寂しいなっていう想いが先だった。でも、旅に出たいなとかは思いますよ。やっぱり種を蒔いて、植えてってやっていると全然離れられないじゃない。だから旅が恋しくなったりはしますよね。

平)先々のことを頭で整理してっていうよりは、寂しいなっていう気持ちで動いていた感じなんですかね。そういう意味で言うと、自分の心に素直にやりたいことをやる、その延長線に農業があったんですかね。

シ)そうですね。そう思います。

農家になった今

基本は野菜に任せる、畑に任せる。でも、野菜っていうのはそもそも自然にあるものではないから、できるだけ見守る。

平)今の農業についてお伺いしていきたいと思います。祖父の畑を継いでいらっしゃるということですが、畑の面積的にはどれくらいですか?

シ)畑が分かれているのですが、集めると1町ぐらいですかね。

平)1町ぐらいを1人で回しているのですか?

シ)実際に野菜が植わっているのは3反ぐらいですね。なかなか全部は手が回らない。

平)その中で50品目ぐらいを年間育てる中で、野菜の選び方や主力の野菜は何か決まっているのでしょうか?

シ)最初は祖父がやっていたやり方を引き継いでやっていました。春はリーフレタス、夏はトウモロコシとナス、秋はまたリーフレタスに戻って、冬は白菜。それをまずやっていたので、その辺りが基本になっています。
そこにプラス、セット用の野菜。例えばCSA LOOPの会員さん用とか、マルシェに持っていく用に、少ない量ですが変わったものというか、あんまり身近で売っていないような野菜をちょこちょこ育てています。リクエストでもらった野菜も育てますよ!

平)この辺は、土質的にリーフレタスや白菜とかが育ちやすいんでしょうか?

シ)黒ボク土で、どちらかと言うと若干粘土質な気がしますね。農業を始めて5年ぐらいしてやっとうっすら見えてきたのが、同じような土でも野菜によって育ち方が違うんですよ。品目によっても違います。畑の土自体はそんなに違っているようには見えないけれど、こっちは育たないというのが、最近見えてくるようになりました。

もう少しで色が変わる『ホオズキ』を発見!



食べごろをその場でいただく。フルーツのような甘さと、プチっとした皮の食感がクセになる!

平)面白いですね。畑の場所が離れているから、その中のどこの畑で育てるかによっても違いが出てくるんですね。今のスタイルや“ベジタブルシッター”になるまでのストーリーを聞かせていただけますか?

シ)最初の5年ぐらいは祖父の農業のやり方をそのままやっていましたが、市場や農協への出荷を自分はしてなかった。農協とかっていうのは、いっぱい作って、ドカンって持って行くと全部引き取ってくれるんですね。
それはものすごいありがたいんですけれど、値付けが高い時もあるし、安い時もある。全く分からないんですよ。そういうのに一喜一憂するのも、育てた作物の価値を決めるのが農家じゃないっていう事に「なんでだろう?」と思って。極端な時は、農家が赤字になることがあるんです。出せば出すほど、資材代の方が高くなる時がある。でも、ここからスタートする農家が、出せば出すほど苦しくなるという現実になかなか納得がいかなくて。
だったら、直接食べてくれる人に自分で届けたい。こういう思いで作っています、という事を伝えたいし、どういう人が食べているのかも知りたい。そんな考えを持ち始めたのが6年目くらいからですかね。

平)今のスタイルで野菜を育て、販売していくスタイルはどなたかのやり方を参考にされたのですか?

シ)なんか劇的にこれだっていうきっかけがあったわけではない気がします。ほぼ独学で調べて、何がいいんだろう?と試行錯誤しながら考えていますね。この野菜とこの野菜を組み合わせたら、お互い相乗効果が生まれるというのを知ると「面白いな、深いな」って。
ここら辺だと雑草と言われる草から虫が湧くとよく言われるのですが、野菜を食べる虫って野菜を目標にしているんですよね。だったらそこに、“野菜を食べる虫を食べる虫”がいれば、バランスが取れるのかもしれない。じゃあ、そういう天敵と言われるような虫たちに来てもらうには、どうしたらいいか?というのを考えた時に、1〜2種類の野菜がびっしり埋まっているような状態は、虫からすればいくらでも美味しいのが食べられる状態なのではないか、と。
草も野菜も混在して良い効果が生まれるのであれば、そういう形が良いと思っています。まだまだ試行錯誤中ですけれども。

平)野菜を中心に、すくすく育つ環境をどう作り出せるか?ということを考えていった結果が“ベジタブルシッター”というワードに繋がるのですね。

シ)そうそう。基本は野菜に任せる、畑に任せる。虫、草、そういった自然に任せる。ただ、野菜っていうのはそもそも自然にあるものではない。人間が手をかけ、育てて、今の形があるわけだから、全く何もしないですくすく育つとはやっぱり思わないんですよ。
必要最小限だけど、支えは必要。それで育てばいいなっていう意味で“ベジタブルシッター”。できるだけ見守るっていうスタンスに今はなっていますね。

畑には野菜やハーブ、花、他にも色々な草が自然に混ざり合う。

平)ありがとうございます。販売はどんなところでされているんでしょうか?

シ)CSA LOOP以外だと、基本的にはマルシェか対面販売ですね。あとはポケットマルシェで野菜を注文してもらうこともあります。

平)ポケットマルシェはオンラインのサービスではありますけれど、生産者とユーザーさんを繋げるという点は結構強いところですよね。そういう意味で、篠塚さんはtwitterの発信も色々されている印象があります。これからnoteでも発信されるのですよね。

シ)そうです。よくご存知で!noteでも種蒔きや花の様子とか、それ以外でも農業に関することで気になったことを調べて載せることもあります。調べ出すと本当にきりがないくらい、農業って奥が深いというか。
農法や農薬に関してもそうですけど、色々な考え方があるので。これが正しくて、これが間違いっていうものじゃないとは思うのですが…。

平)そうですよね。多様であるべきだし、多様であることが認められるべきなのかな、と思ってはいますが…。

シ)実際、農法でやり方が全然違う。例えば水をたっぷりあげた方がいいんだっていう人もいれば、極力水はあげない方がいいんだぞとかって話になると「全然違うじゃん!」って。
でも、その農家さんのその畑だと、このやり方が正解。どっちもおいしい野菜が取れるやり方で、どっちも正解なんだなって。どうしても「いや、それは違うんだ」みたいになりがちですよね。

平)自分の畑での経験で語るしかないから、というのもありますよね。

シ)そうそう、 だからね、間違いとかじゃなくて、全部正解。正解は一つではないというのをすごく感じたし、農法だけではなくて農業に関しても、多分そうだと思う。

平)確かにそうですね。篠塚さんの畑という一部の中でも、育つところと育たないところがある。日本全体ないし地球全体で見れば、それは場所による特性もあるし、時期の特性もあるし、答えはまあ簡単ではない。

シ)そうですね。本当に!

これからのこと

農業って、それこそ“農道”という、一種の“道”があってもいいぐらい奥深い。

平)これから農園として、こういう風にしていきたいなとか挑戦してみたいことはありますか?

シ)色々な人に向けて農業体験をしていますが、それは色々な人に様々な角度で農業に触れてもらいたいという想いがあります。誰もが毎日何かしら野菜を食べているじゃないですか。でも、“農業”に興味があるのかというと、びっくりするぐらいないんですよね。なので、色々な切り口から農業が面白いって思ってもらえるきっかけを作っていきたいなと思います。

平)だんだん、農業の1個手前の野菜というところに注目している人が増えてきている印象です。あともう1歩こちら側に来てみてほしい、みたいな感じですかね。

シ)ほんとにね、農業って奥深いし面白いと思うんですよ。弓道みたいに、それこそ“農道”という、一種の“道”があってもいいぐらい奥深い。その魅力をね、自分もまだまだですけど少しでも感じてもらえたらいいなと思います。

平)食卓全部の野菜でなくても、その全体の中の30パーセントとか、それくらいはスーパーじゃない野菜を直接買ってみるだけでも、だいぶ食卓の会話の内容も違ってくるんじゃないかと思います。

シ)そう思います。そこから、今日あのスーパーで買ってきたこの野菜はどうなんだろうね、みたいな話も広がるかもしれないですね。普段食べているものに興味を持つと、自分自身の体のことや、自然のこと、色々なことに繋がると思うんですよ。それってすごく普段の生活を豊かにするというか、生き方に彩りを添えるような部分もあると思う。

平)そうですね。まさに日々食べることは皆さんしていることですからね。“食べる”というところに“楽しさ”が増えると、暮らし方も変わってくるかもしれないですね!

篠塚さんお手製のマスコットキャラクター達がお出迎えするお家。

今回は東京・大手町の拠点『3×3 Lab Future』のCSA LOOPメンバー、株式会社Yanekaraの皆さんが畑に行くということで、同行させていただきました。暑いくらいの晴天に恵まれ、皆んなで清々しい汗を流しながら草取りを。

篠塚さんのチャーミングな人柄が伝わるSNSは要チェック!CSA LOOP以外でも、マルシェやマーケットで篠塚さんのお野菜が買えます。のびのびと育ったお野菜と篠塚さんに会いに、ぜひ足を運んでみてください!

マーフィーズファーム

住所:

茨城県結城市