土のにおいに誘われて|まぁずファーム

feature

今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、
新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。
「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」
農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。
土のにおいに誘われて第12回目は、“まぁずファーム”の齋藤さんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
まぁずファーム|齋藤久美子さん
農業をもっと魅力的な仕事に変えて、次世代に繋いでいきたい。そんな想いから、市役所を早期退職した旦那さんと2人、千葉県香取市で『まぁずファーム』を始めた久美子さん。基本は有機無農薬。安全安心で、食卓を明るく笑顔にする“ニコニコ野菜”を届けている。マイブームは日帰り温泉!岩盤浴やサウナで汗を流し、その後に隠れ家的なレストランを回っているそう。

HP
Instagram
CSA LOOP拠点:Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE

4)…4Nature
ま)…久美子さん(まぁずファーム/農家)

農家になる前

農家って、誰がその土地を守るのか、誰がその家を守るのか、というのが、1番の課題だと思うんです。



4)本日は、よろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介からお願いしても良いでしょうか?

ま)千葉県香取市でまぁずファームを営んでいる齋藤久美子です。基本は、有機無農薬で野菜を育てています。安全安心な野菜を食卓にお届けするため、笑顔溢れる家族経営で農業に取り組んでいます。今日はよろしくお願いいたします!

4)ありがとうございます。久美子さんは、元々農業のご家庭で育ったんですよね!

ま)そうです。私の実家は代々農家で、恐らく江戸時代くらいからこの場所で。私で14代目くらいになりますね。

4)江戸時代から!代々農家というのは、ずっと野菜を育てられていたのでしょうか?

ま)江戸時代だと、苗字の代わりに“屋号”と呼ばれる家や店を呼び分けるための名称があるのですが、私の家は『茶園』だったんです。名前の通り、ここで昔はお茶をつくっていました。後は、蚕とお米。今は畑になってしまいましたが、養蚕場が昔はあって蚕を育てていました。畑だと、私が小さい頃は、でんぷん芋と呼ばれる芋や三つ葉、葉物類を育てていましたね。

年間約45品目。飲食店やお客さんからのリクエストで育てている野菜も多い。



採れたてのカブ。中は白く、スライスして甘酢漬けにしても美味しいそう。



4)野菜だけじゃなくて、お茶に蚕、お米も育てていたのですね!久美子さんが野菜を育てはじめてからはどれくらいになるのですか?

ま)主人と野菜を育てはじめて、5年目になります。

4)5年前まではどんなお仕事をされていたのですか?

ま)主人は香取市役所の職員で、私は介護施設の事務員をやっていました。農家の娘に生まれたけれど、ほとんど作付けのやり方や畑に関しては全くの素人だったんです。ですが、主人が香取市役所を早期退職したのをきっかけに野菜を育てはじめました。

4)ご主人も元々農家のお生まれだったのでしょうか?

ま)いえいえ。主人は埼玉の設計事務所に勤め、その後地元佐原に戻り市役所へ就職しました。まさか私が農家をやるとは思っていなかったんですよ!普通に自分も務めて、年金もらって終わるのかな、みたいなね。小さい頃から、農家の大変さっていうのはもう重々分かっていましたし、父と母も農家をやれとは一言も言わなかった。

4)お父様とお母様は、久美子さんが農家になると聞いて喜んでいましたか?

ま)最初は驚いていました。大変さを知っているし、農家で食べていけないというのがすごく分かるから。だから、本当にやっていけるのか、という経済的な面をすごく両親は心配していたんです。
ですが、うちの主人がやります、と伝えてからは、もう何も言わず。今では私たちよりも先に、畑の色々なことを進めてくれています。例えばすぐに私が植え付けられるようにトラクターで耕運して綺麗にしておいてくれたり、草刈りしておいてくれたり。父と母はそうやって未だに手伝ってくれています。野菜つくりを通して、改めて家族が一つになった気がします。

4)そうなんですね。ご両親からは農家を継いで欲しいという話はなく、久美子さんの好きなように、という感じだったのですね!

ま)はい。ただ、農家はやらなくてもいいから、代々続くこの家を守ってほしい、と言われていました。主人が農家をやりたい、と言い出したのも、市役所勤めの際に街並みや空き家対策を長年尽力してきたことが関係しています。私の実家や清里ファームがこの先危機的状況になることを見越し、一大決心して市役所を退職して農家に転職したんです。

4)ご主人は街の家が空き家になる、という現場をたくさん目の当たりにしてきたのですね。

ま)空き家になる家がたくさんあるということは、土地もそのまま荒れ放題になってしまう。家だけではなくて、畑も田んぼもそうです。結局、後継ぎがいなくなってしまうと、誰がその土地を守るのか。農家って、誰がその土地を守るのか、誰がその家を守るのか、というのが、1番の課題だと思うんです。
そんな想いもあって、主人は25年の区切りで市役所を辞めました。主人の名前が勝(まさる)なので、そこから農園の名前が『まぁずファーム』になりました!

農家になった今

食卓で野菜を食べながら「これ美味しいね」とか、会話が生まれて笑顔になって。ニコニコ、明るい笑顔をみなさんの食卓に届けられたら。



4)ご主人は、今は農事組合法人『清里ファーム』でお米つくりをされているんですよね?

ま)そうです。『清里ファーム』というのは、平成元年に5組の夫婦10人で立ち上げました。私たちの父母の代なので、今だと80歳前後の方達ですね。設備や機械を共有し、農家が共同でお米つくりをしています。ただ、『清里ファーム』も高齢化で続けられなくなってしまいそうだったので、主人が今はそちらに移籍してお米を育てています。

4)そうすると、畑の方は久美子さんのみで育てられているのですか?

ま)引き継いだのは私1人ですね。ですが、『清里ファーム』を退職した私の母が手伝ってくれています。さらに、私のところの畑は、傾斜があって平な土地ではないんです。なので、トラクターをかけるのも慣れていないととても危険。
トラクター作業は慣れている私の父が土を均してくれていますが、そこから先は私と母と2人、ほぼ全て手作業で行っています。マルチを張ったり、トンネルをかけたり。女性2人、無理のない範囲で作業しています。

角度のある斜面の畑。下から上まで登るだけでも少し息が上がってしまった。



マルチの穴に一つひとつ植えられたタマネギの苗。斜面に植え付けるのは一苦労。

4)一つひとつ、手作業で行っている理由は、土地にもあったのですね!

ま)畑は50aの広さがあるのですが、なかなか2人では埋まらないですね。せいぜい20aが2人でできる最大の広さだと思っています。使えない場所は、トラクターで均したり交互に使ったりしています。
本当に作物が育てづらい土地なんです。農家になってからいろいろな人と知り合って、先輩から教えてもらうんですけれど、そのやり方をしたら絶対ダメなんです。うちの土地ではうまくいかない。本当に苦労もしましたけど、自分たちのやり方で、この土地に合ったやり方で育てている、という感じですね。

4)野菜を育てはじめて、やっと安定して育てられてきたな、と思うまでにはどれくらいかかりましたか?

ま)2018年6月から育てはじめて1年半ぐらいはかかりましたね。いろいろ失敗もしました。元々の畑は、無農薬で育てていない土地なんですよ。何十年もちゃんと野菜を育てていない土地で、夫婦2人で大根を育ててみたんです。そしたら、線虫に全部大根がやられたり、葉っぱが食べられたり。
そりゃそうですよね。何十年も土を動かしていないんだもん。そういう失敗があったけれど、それでも、無農薬だと思って育ててきました。

4)農薬には、虫の被害を防いで、野菜の見た目や収穫量を安定させられる利点もあると思います。それでも無農薬で育てたいと思われる理由はどんなところにあるのでしょう?

ま)娘が小さい頃にアトピーを持っていて。大人になった今はもう治りましたけれど、親戚の子どもにもアトピー持ちの子がいます。やっぱり、子どもたちには新鮮で安心できる野菜を食べてほしい。

飲食店からも人気の高い芽キャベツ。少し膨らみ出した芽が顔を出していた。



4)まぁずファームさんのHPやInstagramの紹介に、『ニコニコ野菜』という言葉があります。食べたお子さんや皆さんに『笑顔になってほしい』という想いを感じます!

ま)そうですね!うちの主人が考えたキャッチコピーなんです。まぁずファームの野菜を食べて笑顔になってもらいたい。食卓で野菜を食べながら「これ美味しいね」とか、会話が生まれて笑顔になって。ニコニコ、明るい笑顔をみなさんの食卓に届けられたらと思っています。
なので、皆さんから「こんな野菜食べたい!」「また、この野菜食べたい!」みたいなご意見もどんどんいただきたいですね!

これからのこと

新しい感覚をこういう歴史ある古い場所へ。どうにか人が来てもらえる、人が集まってもらえる場所つくりをしたい。そして土地を守っていきたいんです。



4)野菜を育てる、届ける中でこれからも大切にしたい想いやこだわりはありますか?

ま)まぁずファームを主人と2人ではじめた時から、“顔が見える売り方”をしたいと話していました。CSA LOOPは、毎月自分たちの野菜を食べてくれる人が拠点に会いにきてくれる。ありがたいことに、拠点のNui. HOSTEL & BAR LOUNGEでもうちの野菜を使ってくれているんです。
それまでは、道の駅での販売がほとんどでした。でも今は飲食店や個人の方、CSA LOOPの会員さんといった“顔が見える”方たちへの配送がメインになりました。“顔が見える”=コミュニケーションを大切にしたい、という想いでもあります。

1種類でも多くの野菜を届けたい。喜んでもらいたい。そんな想いが久美子さんの畑には詰まっています。



4)CSA LOOPの会員さんとのコミュニケーションはいかがでしょうか?上手くいった点、難しかった点などはありましたか?

ま)CSA LOOPの会員さんへ、ただ野菜を受け渡すだけだと5分くらいで終わってしまうんですよね。そういう、ただ渡すだけなのは自分たちの中でも満足していないんです。やっぱり、ここに来てもらって、「こういうところで野菜を育てているんだ」というのも感じてもらいたい。
そこで、去年は餅つきイベントを開催しました!主人の育てたもち米で、みんなで鏡餅をつくりました。お雑煮やあんこ、きなこ、納豆…たくさんのお餅を食べながら、会員さん同士もコミュニケーションが生まれていましたね。そういう光景がすごくいいな、と思ったんです。大事にしていきたいな、と思いました。

4)コミュニケーションを大切にしたい、それは、久美子さんとお客さんとの間だけではなくて、お客さん同士のコミュニケーションの場にもしたい、という想いもあるのですね!

ま)そうです!野菜を受け取りに来た時に、会員さん同士で挨拶したりお話しされていると私も嬉しくなります。
やってみたいとずっと思っているのは、野菜の受け渡しの後とかに会員の皆さんとレンタルキッチンを借りて、料理して食べるという会をしてみたいです!会員の皆さん、とても料理上手の方が多いんですよ。野菜を受け取った後に、料理した写真をシェアしてくれるのですが、どれもとっても美味しそうなんです。
後は、東京に住んでいる自分よりも若い人たちの料理やアイデアを知りたい。何より食べたい!という想いがあります!

4)楽しそうですね!他の拠点でも、レンタルキッチンで農家さんと会員さんが料理をつくって食べるランチ会が開催されていて、とても楽しそうでした。農家さんによっては、やっぱり畑で交流したい、という想いの方もいらっしゃいますが、久美子さんは決して畑でなくても良い?

ま)そうですね!畑に来てくれるのは餅つきとかの1回で十分。もちろん、個人的に来てみたい方は歓迎しますけれど!ランチ会も、都内でそういうことをやったらどんな感じなのかなって。自分が知りたい、という気持ちが強いです。会員さんとコミュニケーションをとりながら、負担にならないタイミングで行えたらと思います!

毎月の野菜セットには、ご主人の育てた『清里ファーム』のお米も一緒に。久美子さんのお父さんが運転するトラクターと、届けているお米をつくっている田んぼ。



4)CSA LOOPに限らず、これから挑戦したいこと、まぁずファームがこの先どうなっていたらいいな、などありますか?

ま)農家レストランを将来的にできたら、と思っています。というのも、この家が空き家になるのは確実なんです。私と妹、2人とも嫁いでしまって苗字も違うし、別の場所で暮らしています。でも、この家を取り壊すわけにはいかない。
私の次女が、そういった事業に興味があって。まだ全然、具体的ではないんですけれど。例えば、都内からシェフに来ていただいて2階に住んでいただくとか。レストランの野菜はここの畑で育てながら、料理を提供できたらいいですね。

4)素敵です!古民家っぽい懐かしさと温かさのある、とても素敵なお家、場所ですよね。

ま)昔の趣のある景色が広がる場所なんです。でも、同じように空き家になっている、なっていく家が増えています。家だけじゃなくて、畑も。この問題は地区全体で起こっています。どうにか人が来てもらえる、人が集まってもらえる場所つくりをしたい。そして土地を守っていきたいんです。
なので、ぜひ皆さんにもどう活用していったらいいのか、アイデアをいただけたら嬉しいです!できれば私たちよりも若い世代の方から。新しい感覚をこういう歴史ある古い場所に取り入れていきたい、という想いがあります。

お土産に、と採れたて野菜を洗って包んでくれる久美子さん。なんだかつい、「ただいま」と言ってまた会いにいきたくなる場所でした。



まぁずファーム

住所:

千葉県香取市