保存食のすゝめ|味噌屋『宮本みそ』
プロフィール
宮本みそ|宮本晃裕さん
富山県魚津市、昭和32年に先代の祖父母が始めた小さな味噌屋の2代目。創業から変わらず、すべての工程を一つひとつ手作業で仕込み、アルコール・添加物を一切使用していない味噌はほんものの「生きた味噌」。原料の米や大豆も自分たちで育て、糀も手づくり。伝統的な「こうじ蓋製法」で仕上げた糀をたっぷりと使い、じっくり丁寧に醸した味噌は、心がほっとする懐かしい味。
2022年には築40年の古民家を改修した直営店『BOBO.』がスタート。店内では味噌や甘酒が買えたり、自家製の甘麹を使用したヴィーガンジェラートが味わえたりする。
ドラムにギター、音楽好きで演奏もできる宮本さん。最近はバイオリンの練習中。BOBO.で演奏会を開くのが目標!
HP:宮本みそ / BOBO.
Instagram:宮本みそ、BOBO.、BOBO.Gelato
『味噌』ってどうやってできるんですか?
訪れたのは、富山県魚津市。街と海、山が近くコンパクト。その中に、カニやホタルイカなどの新鮮な魚介類。そして、桃やぶどうなどの果樹があり、美味しいものがぎゅっと集まった街でもあります。
『宮本みそ』があるのは、周りを田畑に囲まれた、静かでほっと落ち着くエリア。米や大豆から育て、昔ながらの手作業で味噌を仕込む『宮本みそ』のご主人・宮本晃裕さんに、つくり方や味噌への想いをお聞きしました。
「麹・大豆・塩」味噌の原料はこれだけ!
味噌の面白い点は、日本全国それぞれの気候や風土、原料や食べ物の嗜好により、さまざまな特色をもった味噌があることです。さて、この多様性に満ちた味噌を味噌たらしめる基準はどこにあるのでしょうか?
農林水産物を規定しているJAS法では、『大豆を蒸煮したものに、米、麦等の穀類をもとにした麹を加え(あるいは大豆そのものを麹にして)、食塩を混合し発酵・熟成させた半固体状のもの』が味噌とされています。
こんなに味わい深く、ほっとする味が『麹・大豆・塩』のシンプルな原料だけでできているなんて、改めて考えるとびっくりですよね!
『宮本みそ』の始まりは、1957年。宮本さんの祖父母が始めた、味噌づくりの委託加工業がきっかけです。創業当時からすべて手作業で行い、アルコールや添加物を一切使いません。心と体にもやさしい無添加・天然醸造の味噌づくりを受け継いでいます。
「実は、うちの屋号は油屋なんです。始めは菜種を育て搾油した“なたね油”をつくっていたそうです。他にも養豚や米づくりも始めるなど、昔から農業ありきで生業していたんですよね。結果、米づくりと農作業のできない冬にも作業できる味噌づくりに行き着いたようです」
その言葉の通り、『宮本みそ』の味噌づくりは“米づくり”から始まります。春に苗を植え、秋に稲を収穫し、冬に味噌を仕込む。先代から変わらず、自家製の米から糀をつくっています。
工房にあるのは、井戸水。365日流れ出ているというその水は、『麹・大豆・塩』に続く大事な原料です。味噌の仕込みだけではなく、使った鍋や道具を洗うのにも欠かせない、綺麗で美味しい自然からの贈り物です。
「富山県には“立山連峰”という山域があるのですが、冬には20mもの雪が降るんです。その20m降り積もった雪が夏に溶けるんです。それが地下に浸透して、海に向かって流れていきます。そうして届いた水は、美味しい。味噌の美味しさにも繋がっていると思います」
美味しい味噌は“糀”づくりから
日本の発酵食品の豊かな味わい深さをつくっているのは、“麹”といっても過言ではない重要な存在です。味噌も例外ではありません。味噌は麹の量が多いと甘くなり、発酵時間も短くなると言われています。味噌の味や風味を決める上での根っこでもあるのです。
『宮本みそ』では、糀を『こうじ蓋製法』で仕上げています。『こうじ蓋製法』とは、“麹蓋”と呼ばれる木の小箱に種麹を混ぜた蒸米を敷き詰め、“麹室(こうじむろ)”に並べて麹菌を育てていくつくり方のことです。
“麹室”は温度30度前後、湿度100%に近く、高温多湿の部屋です。ですが、その“麹室”の天井と床、手前と奥では温度も湿度も微妙に異なります。そうした条件を細かく調整できるよう、毎晩“麹蓋”の位置を移動させ、まんべんなく麹菌が成長できるようにお世話が必要です。
移動させるタイミングや位置も熟練の見極めが必要。かつ、手間のかかる作業です。よって『こうじ蓋製法』を選ぶ人は減り、機械を使って麹をつくる方法が主流になっています。
1回の仕込み味噌のための下準備は、4日前から始まります。まずは、糀をつくるために米を研ぎ、蒸していきます。1回で研ぐ米は60kg。研ぐのも、蒸した米を手早く冷ます作業も重労働です。
手で混ぜながら細かい傷をつけた米に、種麹を振りかけていきます。種麹は、麹菌が一時的に眠っている状態。麹菌が好きな環境が整った“麹室”で2日間過ごすことで、米一粒一粒の中まで麹菌が育った糀が完成します。
そうして4日間かけてやっと仕上がった糀を贅沢に使ってできるのが、『宮本みそ』の発酵食品たちなのです。
ほんものの「生きた味噌」
市販の麹調味料は、加熱したりアルコールを添加したりして発酵が抑えられているものも多くあります。ですが、添加物を使わずに天然醸造させた『宮本みそ』の味噌は、常に発酵と熟成を続けています。
日が経てば色も味わいも少しずつ変化します。それも糀の酵素が生きているからこそ!酵素が生きていると、酵素がつくるオリゴ糖のおかげで腸の善玉菌が増えたり、酵素のつくったブドウ糖やアミノ酸のおかげでエネルギーUP!元気に過ごせたりします。
発酵食品が体に良いと言われる所以も、味噌を知ることでだんだんと分かってきましたね!
「富山県の海の方にある定食屋さんでは、昔からうちの味噌を使ってお味噌汁をつくってくれています。魚を使った定食屋さんらしく、魚の出汁を使ったお味噌汁なんです。なので、そうした魚の出汁にも合うように先代がつくったのが、『宮本みそといえばこの味!』と言われるようになった“純正”味噌なんです」
先代の祖父母の始めた味噌の委託加工業。当時は『宮本みそ』へ、自分で育てた米や大豆を持ち込み、味噌にしてもらう人も多かったそうです。お客さんの好みの味に調整するなど、細かいオーダーにも丁寧に応える姿を見て育った宮本さん。1人ひとりの要望をかなえられるのも、丹精こめた手仕事だからこそ。
当たり前のモノ・コトを残していけるように
宮本さんが味噌屋を継ぐことを決心したのは、22歳の頃。そこから、本格的に味噌づくりを習い始めます。今では、祖父母の大切にしてきたことを受け継ぎながら、新しい挑戦を次々と続けています。
祖父母の『宮本みそ』の味と想いを守りたい
夏は農業、冬は味噌の委託加工業というスタイルを、たった2人で50年以上続けていた祖父母。おじいちゃんおばあちゃんっ子だったという宮本さんは、幼い頃からそんな2人の背中を見て育ちます。ですが、この“味噌の委託加工業”とはあまり聞き馴染みのない言葉です。
「発酵と熟成させる前の“仕込み味噌”をつくる仕事をしていました。原料の米や大豆はお客さんが持ち込み、好みに合わせて味を調整するなどしていましたね。例えば、甘めが好きであれば糀を多めにしたり、塩を減らしたり。持ち込みができない人は、うちの米や大豆を使って仕込んでいました。
昔はそうやって味噌をつくる人が結構いたんです。1年分、80kg〜100kgの味噌を仕込んで、樽を納屋とかに置いて。使う分だけ冷蔵庫に入れて、なくなったら樽から補充して。親戚とか近所の人にもお裾分けしながら、そういう味噌の使い方をしていました」
しかし、人々の暮らし方も変わり、大きな樽を置いておけない家やお買い物ついでに小分けの味噌を買う人が増えていきました。だんだんとお客さんも減少し、体力的にも祖父母は味噌屋を続けるのは難しいと宮本さんに伝えます。
その時、宮本さんの頭に浮かんだのは昔から注文してくれていたお客さんたちの姿でした。
「昔から注文にきてくれるお客さんのほとんどは、今ではおじいちゃんおばあちゃん達です。雪の降る中、また次の1年分の味噌を確保できて嬉しそうに帰っていきます。そういう後ろ姿を見て、味噌屋がなくなって困るのは、毎年楽しみにしてくれているお客さんだと思いました」
みんなで「いただきます」できる場所づくり
今までは委託販売のみだったところから、小売販売を始めたのも宮本さんです。味噌だけではなく、甘酒やコラボレーション商品も誕生!2022年9月には、築40年の古民家を改修した直営店『BOBO.』もオープンしました。
店名の『BOBO.』は、魚津弁の『ぼぼ』=“ちいさな丸い粒”が由来です。お店としてだけではなく、この場所ではワークショップや料理教室ができるようになっています。
味噌もまた、米や大豆、糀といった異なる“ちいさな丸い粒”が集まり、発酵してできるものです。『BOBO.』はまさに、地域の人が集まり、“ぷくぷく”と交流が生まれる場所でもあるのです!
「ごはんとお味噌汁だけの地味なものですが…」そう謙虚な言葉とともに運ばれた、ほかほかのごはんと、食欲をそそるお味噌汁。慈悲深いお味噌汁を一口飲めば、長距離移動で空っぽのお腹がじんわりと満たされていきます。箸休めに、糀漬けをぱくり。ごはんに箸が止まりません。
シンプルでありながら、ごはんは土鍋で炊き、お味噌汁の具材は自家製野菜や地元の食材を使うこだわりっぷり。お味噌汁の味噌も『宮本みそ』にある5種類の味噌から好きなものが選べます。
「ごはんとお味噌汁セット」は、まさに米づくりと味噌づくりをする『宮本みそ』の全てを味わえる贅沢なごはん。そして、宮本さんにとって、先代の祖父母と一緒に味噌を仕込んでいた20年前、毎日お昼に食べていた思い出の味でもあります。
『BOBO.』では、『BOBO Gelato』も食べられます。発酵に欠かすことのできない糀を使った、新しいもの。かつ、より幅広い世代に楽しんでもらえるものを、と考えて生まれた甘酒のジェラートです。2種類のフレーバーから始まった『BOBO Gelato』は、今では14〜15種類に。無添加、自然由来の原材料、牛乳を使わず植物性のものでできたジェラートは、甘酒の甘さと素材の風味を最大限堪能できるフレーバーばかり。
昔は物を売り買いする場所が近所の人がふらっと立ち寄り、お茶を飲んでおしゃべりするような交流の場所でした。そうした場所、食文化、自然がぽつりぽつりと失われていくことに寂しさを感じた宮本さん。ここの当たり前にあるものを残していきたいと思うようになります。そんな願いの通り、『BOBO.』は“みんなの”場所にもなりつつあります。
お昼には「ごはんとお味噌汁のセット」を食べて、デザートにはジェラートを。食後は和室でゆっくりと休憩するも良し。古民家から眺める、四季の移ろいを楽しみながら思い思いの時間を過ごせます。
「美味しい味噌」ってどんな味噌?
味噌の原料である米、大豆から育てる。自分で用意できないものは、なるべく地元の魚津産のものを使用するなど、原料へのこだわりを感じる『宮本みそ』。そんな宮本さんへ、最後に“美味しい味噌”とはどんな味噌か聞いてみました。
「例えば、無農薬の自然栽培で育てた米に無農薬の大豆、どこどこの天然塩と原料を厳選して集めてつくった味噌は、美味しいけれど毎日食べるにはちょっと高い。所得のある特定の人しか、毎日食べられなくなってしまうと思うんです。ただいい原料を使うんじゃなくて。だからといって、安ければいい訳ではなくて。妥協せずに、食べてくれるお客さんの顔を思い浮かべてつくった味噌。毎日食べられる手頃な味噌。それが、美味しい味噌なんじゃないかな、と思います」
『宮本みそ』さんと一緒に仕込む“味噌仕込みワークショップ”開催決定!
『宮本みそ』の味噌仕込みキットを使って、みんなで一緒に味噌づくりをしませんか?
ただ説明書を見て仕込むのではなく、味噌屋ご主人・宮本晃裕さんから味噌仕込みのレクチャーと工房ツアーもお願いしています。普段なかなか会うことのできない、味噌のつくり手とお話ができますよ!
味噌づくりが初めての方も、こなれた“味噌ラバー”な方も、この機会にぜひ一緒に“自家製手前味噌”を仕込みませんか?
ワークショップ情報
日時:4月27日(土)10:00〜12:00
場所:オンラインにて開催(全国どこからでも参加できます!)
概要:
・『宮本みそ』の味噌づくりキットを使った味噌仕込み
・宮本さんによる、味噌仕込みレクチャーと工房ツアー
・宮本さんへ味噌に関する質疑応答
追加の詳細、応募情報は随時Instagram、またはこちらのメディア記事で更新していきます。ご興味ある方はぜひ、フォローしてお待ちいただけると嬉しいです!