土のにおいに誘われて|わたなべ農園
プロフィール
わたなべ農園|渡邉学嗣さん
千葉県山武市にて、少量多品目・年間約100種類の野菜を栽培。自家製の植物性堆肥を中心に農薬を使わずに育った野菜は愛情たっぷり。好きな食べ物は「お寿司」。車が好きで、休日は好きな車の試乗へ行くことも。
CSA LOOP拠点:MIDORI.so Bakuroyokoyama
平)…平間(4Nature代表) ワ)…渡邉さん(わたなべ農園/農家)
農家になる前
「農家さんってすごくかっこいい!」根本的なところから生きていく力がすごいなって。
平)本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、まずは農家になるまでの話をお聞きしたいと思います。渡邉さんは農家の家系に生まれたわけではありませんよね。
ワ)はい、違います。生まれは東京の江戸川区です。ですが、小4の頃に新宿区の方に引っ越して、都会で育ちました。両親とも一般のサラリーマンなので、農家の家系では全くありません。
平)もうザ・都会ですよね、新宿といえば。では、農家になるっていうぐらいですから、自然が元々好きだったんですか?
ワ)そうですね、自然は元からすごく好きです。昆虫とか。でも、農業っていうのは全然考えてなくて。昆虫も自然の中で捕るというより、デパートで珍しいカブトムシを買っていましたね。販売されている昆虫をお金で買うという。
平)自然とは縁遠いところで育ったんですね。そこから、学生の頃はどういう勉強されたのですか。
ワ)それこそ、勉強と部活で野球ばっかりやっていました。普通の中学、高校生ですね。それで大学進学を考えた時に、環境を学べる学科か心理学的なものにも興味があって。そのどちらかで進学できるように受験しました。結果、合否も含めて期限まで悩みに悩んで入学したのが、東京農業大学食料環境経済部です。
平)食料環境経済ってことは、名前的には思いっきり農業ってわけではなさそうですね。
ワ)そうですね。農学部ではないので、実際に畑に出て栽培を学ぶっていうことは、全くなくて。授業は経済系の内容だったので、授業だけを受けていたら絶対農家にはなってなかったです。ですが、私が入った大学には「海外移住研究部」という部活がありまして。
平)海外移住研究部! また、なんか農業とは遠くなった気が…。
ワ)海外移住研究部は大学のできた頃からある古い部活で、元々はブラジルなどに移住して、そこを開拓して、農業をするために鍛練する部活という目的で生まれた部活なんです。今の海外移住研究部っていうのは、農業と海外っていう2つの分野に興味のある人が入る部活っていう風に、少し丸くはなっていますが。その部活に興味を持ちまして、さっそく新入生歓迎合宿へ行ってみたんです。
平)いきなり合宿なんですね!
ワ)そうなんです。三重県の肉・牛農家へ行ったのですが、私はそこで、初めて農家さんと対面しました。リアルな生活を見て、農作業して。そこで、本当にカルチャーショックを受けました。衝撃を受けたのと同時に「農家さんってすごくかっこいい!」と、憧れましたね。訪れた農家さんは、お米も野菜も栽培していて、ほとんど食べ物は自給自足。ニワトリも飼っていたし牛舎も手作り。なんか、根本的なところから生きていく力が凄いと感じました。
平)それは、カルチャーショックが凄いですよね。あんまり今は使わない言葉ですけど、百姓的な暮らしですね。
ワ)その通りです。百姓って、昔は姓で職業が分かるような時代。100の仕事ができるっていう意味が由来だという説がありますが、本当にリアルな百姓に出会いました。その新入生歓迎合宿に行って、衝撃を受けた私は迷うこともなく、その海外移住研究部に入部した訳です。2年生も後半ぐらいになると、その部活動だけでは飽き足らず。自分で気になる農家さんを探して、アポを取って、個人的に訪問するようになりました。そんなことをずっと続けていたところ、大学卒業後の進路を考えるタイミングで、「あれ、自分は農家になるのかな」って。
平)農家になろうっていう発想で、農家を回っていた訳ではないんですね。
ワ)はい、もうただ興味が湧いていたので、それに従って動いていたって感じです。大学3年生の就活が始まる頃ぐらいには、農家になるって決めた上で、どう人生設計していくかっていうのをもう考え始めてました。
平)面白いですね。そういうご縁で農業に。そこから大学卒業して、当然ながらいきなり自分で畑を持って農業を始めるって訳にはいかないですよね。研修はどちらに行かれたんですか?
ワ)まず、働こうと思ったんですよね。茨城県にある農業法人、会社で農業をやっているところに新卒で入りました。そこで2年間、農業の基本を学びました。その後もう少し技術を身につけたいと思ったので、自分の本当にしたい、これからやっていきたい農業に近いことをされている農家さんのところで研修することにしました。
平)そこはどんな農家さんなんですか?
ワ)千葉県佐倉市にある林農園です。もちろん農薬と化学肥料を使っていないっていうこともあるんですが、少量多品目で野菜を作られていて、種を大事にしているんです。種取りをすごく積極的にされていました。あとは、販売方法が対面で配達している点ですね。そういう、消費者の方と対面で繋がる形がいいなと思って、林農園さんで1年間住み込みで研修をしました。
平)計3年の研修だったんですね。林農園で住み込み1年間を終えて、その後はもうここで農業を始められたんですか。
ワ)はい、それで、ちょっと面白い話があって。
平)お、なんですか!
農家になった今
「美味しかった」って言葉が、農家にとって何にもかえがたい喜びなんです。
ワ)大学時代に、今ここに就農しているところにほど近い農園にお邪魔していたんです。新卒で働き始めてからは、疎遠になってしまったんですが。家と農地を探さなきゃいけないってなった時、その近くの農家さんと久しぶりにコンタクトを取る機会がありまして。
そしたら、「農家住宅が偶然空いたから。そこ、渡邉くんのためにおさえておいたから使いなよ」って。人のご縁って大切だなって改めて気づかされました。それで農家住宅が手に入った訳なんですが、すごい恵まれてるなと思います。
平)すごいですよね。お世話になった人が「自分がやっている畑の近くにおいでよ」ということですよね。相当信頼してもらえてたんですね。それから、ここの土地ですぐに始めたんですか?
ワ) 引っ越しの挨拶回りをしていたら、お隣さんが「そこに引っ越してきたなら、この隣の農地を貸すよ」とお声かけしてくれたんです。最初の1年間は車でちょっと離れた畑でやってたんですが、その次の年からは隣のこちらでやり始めました。だから、家に続いてまさか畑まで隣で手に入るなんて。本当に恵まれすぎて怖いなっていう。
平)本当ですね。では、ちょうど畑の話がでてきましたので、ぜひ今の農業スタイルや販売方法の話をお伺いしていければと思います。主力の野菜は何になりますか?
ワ)そうですね、100種類近くある中で大きい規模で育てている野菜が4品あります。落花生と生姜と里芋とごぼう、この4つです。
平)作ったお野菜の販売方法はどうされているんですか?研修先の林農園では、対面で配達していたんですよね。
ワ)そうですね。そこが今、理想とは違ったものになってまして。多くは野菜セットを運送会社に配達してもらう形で、東京を中心に購入いただいています。千葉で実際に自分で配達している方もいますが、ちょっと伸び悩んでいます。
平)それでは、理想としてはできるだけ自分で配達、もしくは対面での販売っていうところにシフトしていきたい感じですか?
ワ)やってみると、全て自分で配達っていうのは難しいと感じました。ただ、もう少し配達というか、顔と顔の見える関係があってもいいんじゃないか、と思っています。やっぱり農作業は日々大変なんですよね。そんな中で、このお野菜を届けた方に「美味しかった」って言ってもらえるのが、農家にとって何にもかえがたい喜びなんです。それでまた頑張れるというか、元気をもらえます。そういう機会がもっとないと頑張れないよって。
平)そうなんですね、やっぱり美味しいって言われるのが素直に1番嬉しい。対面販売されている時は、料理方法とかもお話しされてるイメージがあります。
ワ)そうですね。野菜セットの頻度が多い方は、どうしても100品目近く作っていても、同じ野菜が入ってしまうことがあります。そんな中でも、同じ野菜でも違った料理方法を提案できればいいなと思っています。自分で調べたり、実践したりして、お渡しする際にお伝えできるように心掛けています。
これからのこと
ワ)実はずっとやれていないことがありまして。養鶏をやりたいと思っています。野菜セットに卵が入れば絶対に需要があるし、同じくこだわった卵も食べてもらえたらと思っています。せいぜい数十羽、野菜セットに入れられるぐらいの規模で考えています。
平)今思いついたんですが、養鶏をどうやっていくかみたいなのをCSA LOOPのメンバーと話し合って、その過程を見て、体験できたら面白いことになりそうですね!養鶏は見たことがあるかもしれませんが、養鶏をみんなで作るっていう経験は、多分したことがないんじゃないかな、って。
ワ)そうですね、確かに!これは面白いアイデアです。
どうやら、近々わたなべ農園に動きがありそうですね。